「天国への階段」を再現するための特注だった!ジミー・ペイジのダブル・ネックEDS-1275 「天国への階段」を再現するための特注だった!ジミー・ペイジのダブル・ネックEDS-1275

「天国への階段」を再現するための特注だった!
ジミー・ペイジのダブル・ネックEDS-1275

1961年の登場以来、世界中で長きにわたり愛され続けているギブソンSG。その逸話や魅力を、ギタリストとの物語をとおしてお届けする“ロックの歴史を作り上げた、伝説のSG特集”。今回は番外編として、レッド・ツェッペリンのジミー・ペイジを象徴するダブル・ネックのSG、EDS-1275を紹介しよう。

文=細川真平 Photo by Ed Perlstein/Redferns

この世で最も有名なダブル・ネックのSG

ジミー・ペイジが「天国への階段」(「Stairway To Heaven」)をライブで演奏する時に使用したことで有名なダブル・ネック・ギター、ギブソンのEDS-1275。“SGダブル・ネック”とも呼ばれるが、実際にはモデル名に“SG”とは付いていない。なので、このSG特集で取り上げるのはおかしいのかもしれないが、そこは大目に見ていただきたい。ちなみにギブソンでは現在、EDS-1275をSGシリーズの1つに分類している。

ジミー・ペイジ(Photo by Gijsbert Hanekroot/Redferns)
ジミー・ペイジ(Photo by Gijsbert Hanekroot/Redferns)

モデル名に“SG”と付いていないのは当然のことで、EDS-1275はSG登場以前から存在する。1958年が初年で、fホールのないホロウ・ボディ構造、サイドとバックにはメイプル材、トップにはスプルース材が使用されていた。ダブル・カッタウェイのデザインはのちに登場するSGに似ている。つまり、EDS-1275は決して“ダブル・ネックのSG”ではなく、むしろのちのSGのデザインに影響を与えた可能性すらある先駆モデルであることがわかる。ただし受注生産モデルのため市場に出回ることはなかったし、生産数もかなり少なかったようだ。

EDS-1275は1962年にモデル・チェンジし、オール・マホガニーのソリッド・ボディが採用される。そのボディにはベベル加工も施され、つまり当時のニュー・レス・ポール=SGと同じ構造になったわけだ。受注生産モデルであることに変わりはなく、やはりそれほどは売れなかったようで、1968年には製造中止となった。

1971年、レッド・ツェッペリンは4枚目のアルバム(正式タイトルはない)をリリース。そこには彼らの代表曲となる「天国への階段」が入っていた。ペイジがレコーディングで使用したのは、アコースティック・ギターはHarmony H1260 Sovereign、12弦エレクトリック・ギターはフェンダーElectric XII。ギター・ソロでは、ヤードバーズ〜ツェッペリン初期に愛用した“ドラゴン・テレキャスター”が再登場した(ただし、この時にはもうドラゴンのペインティングではなくなっていた)。

アコギ、エレキ、6弦、12弦を含めた何本ものギターが使用されたこの曲を、ライブで再現するのは難しい。そのためにペイジが思いついたのが、6弦と12弦のダブル・ネック・エレクトリック・ギターを使用することだった。しかし、EDS-1275はすでに製造中止になっている。そこで彼はギブソンに、このギターのワンオフ製造を依頼。先方もそれに応じてくれた。もともとが受注生産モデルだったために、ワンオフ製造をしやすいということもあったかもしれない。

ペイジの演奏を世界に発信した“アンテナ”

ジミー・ペイジ(Photo by Ed Perlstein/Redferns)
ジミー・ペイジ(Photo by Ed Perlstein/Redferns)

こうして作られたペイジのチェリー・フィニッシュのEDS-1275は、特にカスタマイズはされておらず、マホガニー・ボディ、マホガニー・ネック、ローズウッド指板、スプリット・パラレログラム・インレイ、3ウェイ・ピックアップ・セレクター・ノブとマスター・ボリューム・ノブとマスター・トーン・ノブが各2つという、このモデルの通常仕様のままになっている。ピックアップは4基共、ステッカー・ナンバードPAF(Tトップ)だ。

「天国への階段」をライブで演奏するために導入されたこのギターだが、使いどころがもっとあることに気づいたペイジは、これを「The Rain Song」、「Celebration Day」、「The Song Remains The Same」などでも使用。ルックスのインパクトとも相まって、EDS-1275はレス・ポールと並ぶほどに彼を象徴するギターとなった。

ところで、ツェッペリンの4枚目は1971年11月発売だが、それ以前からステージで「天国への階段」は演奏されていた。彼らの初来日は1971年9月。その時にもこの曲は演奏され、ペイジはもちろんEDS-1275を使用した。

ライブで使用することを前提としているEDS-1275だが、スタジオ盤でも1曲だけ使用されている。『In Through The Out Door』(1979年)に収録された「Carouselambra」がそれで、ライブ音源などで耳馴染みのある、あのサウンドでのアルペジオを聴くことができる。

ペイジのこのEDS-1275は、盛大にノイズを拾いやすい傾向があったために、“アンテナ”という、あまりありがたくないニックネームを付けられていたようだ。ライブ音源や映像で、そんなことを一切感じさせないところには、ペイジ本人や音響クルーたちの見えない工夫や努力があったのだろう。

この“アンテナ”が、ノイズを拾うだけではなく、ペイジの素晴らしい演奏を発信する大きな役割も果たしていたことは言うまでもない。

ジミー・ペイジ(Photo by Ed Perlstein/Redferns)
ジミー・ペイジ(Photo by Ed Perlstein/Redferns)
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