たかはしほのか(リーガルリリー)が新作『kirin』に込めた“新しさ”とギターへのこだわり たかはしほのか(リーガルリリー)が新作『kirin』に込めた“新しさ”とギターへのこだわり

たかはしほのか(リーガルリリー)が新作『kirin』に込めた“新しさ”とギターへのこだわり

リーガルリリーの新作フル・アルバム『kirin』が2024年8月に発売された。たかはしほのか(vo,g)の唯一無二のメロディ、ディストーションでかき鳴らすオルタナ・サウンドはもちろん健在だが、今作では新たな試みとして3曲でアレンジャーを起用。今回は、そこで生まれた新たな発見や、ギター・アレンジへ込めたこだわりを聞かせてもらった。

取材/文=伊藤雅景 ライブ写真=藤井拓

音楽との向き合い方そのものに
凄く刺激を受けたんです。

リーガルリリー。左から海(b)、たかはしほのか(vo,g)。
リーガルリリー。左から海(b)、たかはしほのか(vo,g)。

今作『kirin』は、アレンジャーに亀田誠治さん(「ムーンライトリバース」編曲)、石若駿さん(「me mori」編曲/d)、荒木正比呂さん(「ますように」編曲)などが参加されていますが、ギターのアレンジも一緒に考えていったのですか?

 そうですね。もともと私は亀田さんのロック・バンドに対するアレンジのアプローチが大好きなんです。そのスタイルをリーガルリリーに落とし込んでいただきました。ギターに関しては、私に馴染みのあるフレーズかつ新しいものを付け加えてくれて、自分の持っている音楽のDNAがもっともっと広がりを見せたような体験でしたね。

 石若さんはジャズをメインで演奏されている方なのですが、そういった普段のリーガルリリーでは手の届かない……私の引き出しにないジャンルのアレンジを提供してくれて。石若さんのアイディアと、私の“ロックなギター”をつなぐことができたのは、凄く大きな経験でした。

 荒木さんはピアノで編曲をされる方で、入れてくれるピアノのボイシングやフレーズがとても新しくて。その音を自分なりにギターへ落とし込んでいく作業がとても面白かったです。私は普段はピックでギターを弾いているので、鍵盤やほかの弦楽器との考え方の違いも改めて感じました。自分の手の筋肉とか、弾き方なども色々な発見がありましたね。

たかはしほのか(vo,g)
たかはしほのか(vo,g)

確かに、荒木さん編曲の「ますように」のギターは鍵盤やストリングスを意識したフレーズ作りですよね。特にミュートの入れ方とか。

 私は、普段からギター、ドラム、ベース、ボーカルっていう3ピース・バンドの空間を無意識で作っていたんですけど、ギターの立ち位置はストリングスや色々な楽器が入ってくることによって全然変わってくるんだなと感じて面白かったです。あと、“隙間にどれだけ私を存在させることができるのか?”と考えることもありましたね。

どういうことでしょう?

 レコーディングの前はデモを何回も何回も聴いていくんですけど、実際に録ったほかの楽器のプレイを聴くと、想像していた隙間がなくなっていることもあって。なので、レコーディングではほかの楽器を聴いて判断してから対応するのではなくて、“聴きながら一緒に進んでいく”という感覚がありました。

亀田さんとの「ムーンライトリバース」の制作はどうでしたか?

 亀田さんは今も昔もずっと最前線で私の大好きな音楽と関わり続けてきた方なんですが、今回一緒に制作をしてみて、音楽との向き合い方そのものに凄く刺激を受けたんです。今、音楽を楽しむというか、熱量が変わらないというか、そういう姿勢でずっと音楽と向き合い続けてる人なんだなって。音楽って本当に楽しいものなんだと、改めて勇気をもらいました。

なるほど。レコーディングやアレンジの話をする亀田さんは、どういう雰囲気なんでしょう?

 アットホームな感じで、子どもよりも目が輝いてる人だなって思いましたね(笑)。

(笑)。ちなみに、楽器パートも亀田さんがプロデュースされていますが、ギターに関しては具体的にどういったアドバイスがありましたか?

 この曲は新しい試みでピアノから作ったんです。なので、和音を生む楽器がギターだけではないので、ギターをどう入れるか、どう生かすかという部分を考えるきっかけを与えてくれました。

イントロのピアノはたかはしさんによるフレーズだったんですね。

 そうなんです。このフレーズ、全部私が考えたものをあえて使ってくれたんですよ。ほかにも私が家で作った色々なアイディアも汲み取ってくれて、嬉しかったですね。

ギターはサビから入ってきますが、かなり歪んだサウンドですよね。個人的には2サビでチョーキングが薄っすら残っているのが印象的でした。

 その部分、凄いなと思ったんですよ! 自分で弾いてるのに最初は人の声に聴こえて、“ギターって人の声にもできるんだ”って(笑)。ここは何かしらのコーラスを“ハーッ”て入れたくなると思うんですけど、その前のセクションで入れているチョーキングのサステインをそのまま使っているんです。かっこいいですよね。

「17」はメンバー3人の人間性が
見えるようにしたかったんです。

前回のEP『恋と戦争』(2022年)は、“バンド感を生かす”という部分がテーマとおっしゃっていました。今作は何かテーマを設けていたんですか?

 新しいことに挑戦してみたいという気持ちが大きかったですね。なのでアレンジャーさんにお願いしたというところもあります。あとは新体制になったので、色々な方と一緒に演奏をする機会にもなるなと思っていました。

「me mori」では石若さんがドラムで参加しています。

 “みんなが一番やりたい人と一緒にやろう”と思って、それで頼んだのが石若さんでした。

ほかの収録曲とは雰囲気が違いますよね。

 はい。「me mori」はエレピも石若さんに弾いてもらっているんです。あと、この曲は自分でリズム譜を書くのが凄く楽しかったですね。もちろん、楽譜という枠に収めすぎてはいけないところもあるんですけど、“これが石若さんのリズムだ!”って思いながらリズムを起こすのがとても楽しくて。

リズム譜にするのは大変そうだなと思いました。

 でしたね(笑)。いざレコーディングをしてみると、“こことここは、こういうつながりがあったんだ”みたいな気づきがたくさんあって、とても面白かったです。つながりっていうのはベースやドラムの兼ね合いですね。石若さんのリズムの上で、“私たちメンバーが私たちの存在を楽しむ”っていう。貴重な体験でした。

 あと、石若さんも亀田さんと同じように、やっぱり音楽を……音で楽しんでいましたね。音を楽しむことの大切さを、改めて感じさせてくれました。

新しい環境になったからこそ、改めて気がつけたということですね。

 新しいものと出会うと、それに全部染められてしまうような気がするけど、実は自分の本質により近づけるんです。音楽以外でもそうで、どこに旅行に行っても、自分は自分。そういうことに気がつかせてもらえるきっかけでした。

ほかの楽曲のギター・プレイについて、もう少し聞かせて下さい。たかはしさんがSNSにアップしている「17」や「キラキラの灰」の動画を見て思ったのですが、鳴らしている弦が意外と少ないと思ったんです。この2曲で言えば開放弦も少なかったですよね。

 「17」はメンバーそれぞれの人間性が見えるようにしたかったので、全員の音を同じ分量くらいで埋めたくて。もしかすると、そういった感覚で生まれた曲なのかもしれないです。

 リーガルリリーにはリード・ギターがいないので、コードに背景をつけるために“〇〇 on D”とか、ルートだけ変わっていくコード・フォームのアプローチをよく使っていたんですけど、今回の「17」はコード1個1個で音をチェンジしていく感じを出したかったんですね。なので、1サビはコードごとにバレー・コードでポジションを変えているんです。でも2サビからは背景が見えるように、Dフォームのオン・コードになるんですよ。

コード・プレイに関連して、今作は左右のダブルでバッキングが鳴っている箇所も多いですが、それぞれで音色やボイシングを変えていたりはしますか?

 例えば「海月星」では、メインで聴こえるバッキングは5フレットにカポを付けて弾いているんですね。Fのパワー・コードみたいなフォームで、1、2弦を開放にしてルートだけ変えていく感じです。そのフォームのギターの響きがとてもかっこよかったんですけど、もう少し厚みも欲しかったので、ダブルのギターはカポを付けないロー・コードにして、しっかりコード感が出るようにしました。

曲によってマッチする手法を選んでいるんですね。

 そうですね。曲によっては必要のない帯域もあったりするので、レコーディングの時に引き算したりもします。

ダブル・トラックで音作りを変えることはありますか?

 アルペジオなどでプレイのニュアンスが変わる時は、使うピックアップで変化をつけることがありますね。ただ、基本的にバッキング・ギターは同じ音色でやってますし、プレイもできる限り同じように弾くようにしています。

今作のレコーディングで使用したギターを教えて下さい。

 メインはやっぱりテレキャスターですね。「17」だけはギブソンのES-335を使いました。

テレキャスターを使う際にメインで使用するピックアップ・ポジションは?

 基本的にレコーディングでもライブでもセンター・ポジションですね。演奏中はピックアップを切り替えず、音色の変化はエフェクターでつけています。

アンプは何を?

 フェンダーのVibro Kingを使ってた時期もあるんですけど、今はSuper-Sonicです。

近年のメインはSuper-Sonicですよね。

 実はほかのフェンダー・アンプも色々試したんですよ。以前は“Vibro Kingが一番良いんじゃないか?”って言ってくれるミュージシャンが周りに多かったので使っていたのですが、何かちょっと違う感じがしてきちゃったんですよね。でも、Super-Sonicを弾いた時に“これな気がする!っていう感覚になって、それからはずっと使っています(笑)。

ベーシックのドライブ・サウンドはどのように作りましたか?

 FulltoneのOCDです。曲によっては前段にほかの歪みをつなげている時もありました。

レコーディングでもライブで使っているペダルボードをそのまま置いていたんですか?

 そうですね。エフェクターを踏んだ時のちょっとのタイミングのズレとか、そういうのを大事にしていて、レコーディングでも自分で踏んでいます。ギタリストって足も楽器なんだなって思いました。

歪みでいうと「60W」のカオスなディストーションが印象的でした。あれはどうやって作ったのでしょう?

 レコーディングしたのが前回のEP『恋と戦争』くらいの時だったので、当時持っていた飛び道具的なペダルでやった気もしますね……。その時はまだBig Muffをボードに採用していなかったので、もしかしたらRAT2かもしれません。

たかはしさんは以前からRAT2を愛用していますが、ほかの歪みペダルを試したことは?

 あります。ただ、試した時はギターの音の良し悪しとかが全然わかっていない時期だったんですよ。なので先入観なしでほかの歪みペダルと聴き比べていましたね。結果的に、RATの音が自分の心と共鳴したんです。

替えが効かないペダルですよね。

 ですね(笑)。でも、自分がずっと使っていたRATは壊れてしまっていて。ボードに入っているRATは、リーガルリリーのライブでPAをしてくれている方が貸してくれているものなんです。

ディストーション特集があったら、ぜひ協力して下さい!

 お願いします!

LIVE INFORMATION

リーガルリリー『cell,core 2024』

日程

  • 2024年12月3日(火)/大阪BIGCAT
  • 2024年12月4日(水)/名古屋CLUB QUATTRO
  • 2024年12月10日(火)/Zepp DiverCity(TOKYO)

※情報は記事公開時のものです。最新の公演情報はリーガルリリー公式HPをチェック!
https://www.office-augusta.com/regallily/

作品データ

『kirin』
リーガルリリー

キューンミュージック
KSCL-3542
2024年8月28日リリース

―Track List―

1.天きりん
2.キラキラの灰
3.17
4.ハイキ
5.春が嫌い
6.夏のエディ
7.me mori
8.ムーンライトリバース
9.海月星
10.60W
11.地球でつかまえて
12.ますように

―Guitarist―

たかはしほのか