ジョン・メイオールの足跡を知る必聴アルバム5選 ジョン・メイオールの足跡を知る必聴アルバム5選

ジョン・メイオールの足跡を知る必聴アルバム5選

ジョン・メイオールは生涯にわたって数多くの作品を残してきたが、その中からギタリスト目線で“まずはこれを味わうべし!”という必聴アルバムを5枚選んでみた。これらの名盤に収録されたトラック群をじっくりと反芻して、ジョン・メイオールが牽引した英国ブルース・ロックの初期衝動に想いを馳せてみたい。 

文=安東滋 Photo=Getty Images

ジョン・メイオールの足跡を知る必聴アルバム5選

John Mayall & The Bluesbreakers
『Blues Breakers With Eric Clapton』
1966年

~英国ブルース・ロックの金字塔~

エリック・クラプトン在籍時に録音された唯一のスタジオ盤(レコーディングは1966年4月、発売は同年7月)。野太い音色で伸び伸びとブルースを弾きまくる若き日のクラプトン節の魅力が満載された、まさに英国ブルース・ロックの金字塔と言える問答無用のマスターピースだ。レコーディング期間はたったの3日間、もちろん一発録りであったらしい。

ちなみに本盤録音時クラプトンは(1945年3月生まれなので)21歳になったばかり。収録曲は伝統的なブルースのカバー作品とジョン・メイオール作曲のオリジナル・ブルースがほぼ半々で並ぶ。クラプトンの才能を前面に押し出すと同時に、バンドとしての独自性もオリジナル・トラックで担保する……この絶妙なバランス感覚にジョン・メイオールならではのプロデュース感覚が垣間見れる。

クラプトンの演奏にフォーカスすると、一番の聴きどころはオーティス・ラッシュ作のマイナー・ブルース「All Your Love」や、フレディ・キング作の「Hide Away」とメンフィス・スリムの「Steppin’ Out」。この2曲のインスト・ブルース(両曲はクリーム期にも再演)、そしてクラプトンが初ボーカルを披露したロバート・ジョンソンの「Ramblin’ On My Mind」などの多彩なブルース・スタンダード群。それらの楽曲を自信満々で堂々と弾きまくるクラプトン印のアクティヴなギター・プレイが堪能できる。当時の愛器、60年製レス・ポール・スタンダードから発音される絶品のオーバードライブ・トーンも伝説(後項参照)。

John Mayall
『Primal Solos』
1977年

~クラプトン期とミック・テイラー期のレア・ライブ音源~

エリック・クラプトン在籍期とミック・テイラー在籍期、それぞれの貴重なライブ音源をコンパイルした編集盤。アルバム発売は1977年だが、録音はそれぞれ1965年4月と1968年5月。つまり、クラプトン期はヤードバーズを脱退してブルースブレイカーズに加入した直後(前記の名盤『Blues Breakers With Eric Clapton』録音の1年前)、テイラー期は同期の3rdアルバム『Bare Wires』のレコーディング直後、という時代考証。  

アナログ版ではA面にまとめられたクラプトン・サイドの収録曲は全5トラック。「Have You Ever LovedA Woman」や「I’m Your Hoochie Coochie Man」など、すべてブルース・スタンダードで構成されている(この2曲は後のソロ活動期の重要レパートリーともなったのはご承知のとおり)。一発録りライブならではの緊張感が漂う中で、端正な王道フレーズをガンガン弾き倒す若きクラプトンのフレッシュな演奏が記録されたレアな作品だ。ちなみにこのクラプトン・サイドのベース奏者はジャック・ブルース。

ミック・テイラー・サイドの全3トラックは、すべてジョン・メイオール作のオリジナル曲。一番の聴きどころは、8分を超える1コード系ジャム「Start Walkin’」で爆発させる長尺インプロヴィゼーション。ブルース・フレーズを基盤にしながらも、フィードバック奏法や開放弦に向けてのプリング・リック、スケール的な節回しなどの斬新なアイディアも織り混ぜながらサイケで奔放なロング・ソロを展開していく。良い意味でミック・テイラーの端正なイメージを覆させられる興味深いトラックだ。 

John Mayall & The Bluesbreakers
『A Hard Road』
1967年

~“緑神”ピーター・グリーンの出世作~

ヴァンガード移籍後の2作目にして、初のライブ・アルバム。十八番のスロー・ブルースはもちろん、メンターであるギター・スリム、ジャズ・シンガーのペギー・リー、ソウル・シンガーのエディ・フロイドなどと選曲が幅広く、そのいずれもがハイ・テンションで、こんな楽しい(けど疲れそうな)ライブはおそらくほかにはない! ジミヘンも真っ青の制御不能といった様子のギターも随所で炸裂しており、特に「I Had A Dream Last Night」での壊れっぷりは凄まじい。テナー・サックスは、のちにアルバート・コリンズらと共演するシカゴNo.1プレイヤーのA.C.リードだ。

John Mayall & The Bluesbreakers
『Crusade』
1967年

~クラプトン小僧のキャラ全開!~

ミック・テイラーが加入した1stアルバム(1967年7月録音)。当時、“クラプトン小僧”とも呼ばれたほどのエリック・クラプトン大好き少年であったミック・テイラーの初々しい弾きっぷりが一番の聴きどころだ。レコーディング時は(1949年1月生まれなので)若干18歳と6ヵ月!

収録された12曲はブルース・カバーが計7曲、ジョン・メイオール作のオリジナル曲が5トラック。この両タイプがほぼ半々で並ぶ楽曲構成も先に紹介したクラプトン期の『Blues Breakers With Eric Clapton』と、ピーター・グリーン期の『A Hard Road』両名盤(「必聴アルバム5選」参照)とほぼ同様であることから、この比率はジョン・メイオールの中で各ギタリストの個性とバンドの存在感を両立させる“黄金比”的なバランスであったのかも知れない。

その中で若き日のミック・テイラーが既存のブルース曲をどのように料理したのか?……ここにどうしても耳がいってしまうのはブルース・ファンの悲しいサガだろう(笑)。アルバート・キングのフレーズを完コピした「Oh, Pretty Woman」は“若気のいたり”と脇に置いておいても(笑)、バディ・ガイの「My Time After Awhile」やオーティス・ラッシュの「I Can’t Quit You Baby」など、スロー・ブルース曲でのたっぷりと紡ぐ王道的な節回し、フレディ・キング作のインスト曲「Driving Sideways」でのリズミカルに躍動するフレージングなど、クラプトン・マナーを土台にしながらも堂々のパフォーマンスをくり広げている。

同時代のブルースブレイカーズが徐々にジャズ的な指向も取り入れていく中で、この初期アルバムはある意味でミック・テイラーのブルース・ギタリストとしての“素”の演奏がクローズ・アップされた充実した作品と言えるだろう。当時の愛器、59年製レス・ポール・モデルの絶品トーンも鮮やかに発色させる、まさに“クラプトン小僧”のキャラ全開の1枚!

John Mayall
『London Blues 1964-1969』
1992年

~ジョン・メイオールのキャリアをたどるアーカイブ盤~

本アルバムは現在廃盤ですが、中古市場では見つけることができるようです。音楽配信サービスでも視聴可能。

ジョン・メイオールが英国ブルース・シーンをグイグイと牽引していた1964年~69年の間に発表された重要な作品群をギュッとまとめた2枚組アーカイブ盤(註)。これを聴けば、各時代ごとのブルースブレイカーズの音とバンド変遷がまるわかり!……という、ジョン・メイオールの長~い軌跡をたどるのにピッタリのお勧めアイテムだ。ディスク1にはブルースブレイカーズの初レコーディング曲からエリック・クラプトン期とピーター・グリーン期の中盤あたりまでの楽曲が並び、ディスク2にはピーター・グリーン期の後半からミック・テイラー期までの音源が集められている。

ファンにとっての一番のお楽しみポイントは、各ギタリストそれぞれの時代にシングル盤として発表された貴重な音源が収録されている点。クラプトン期だと名盤『Blues Breakers With Eric Clapton』に先行して発表された計3曲のシングル・トラック(1965年10月録音:うち2曲はジミー・ペイジのプロデュース)。その中の1曲、クラプトンとジョン・メイオールのデュオ編成で演奏されるインスト・ブルース「Bernard Jenkins」はファン必聴だ。

ピーター・グリーン期は、ブルースブレイカーズ加入直後の1966年9月と10月に録音された計3曲のシングル、ポール・バターフィールドと共演した1967年1月録音の3曲、そして1967年の4月と12月に録音された計4曲のシングル曲がそれぞれ収録されている。その中にはオーティス・ラッシュで有名な「So Many Roads」や「Double Trouble」、エルモア・ジェイムス版を下地にしたと思われる「It Hurts Me Too」などのブルース・カバーも含まれている。

ミック・テイラー期は1967年9月録音のシングル曲「Suspicions (Part One)」を収録。