マイク・スターンが2025年3月の来日公演で使用した、BOSSで統一されたペダルボードと欠かせないラック機材 マイク・スターンが2025年3月の来日公演で使用した、BOSSで統一されたペダルボードと欠かせないラック機材

マイク・スターンが2025年3月の来日公演で使用した、BOSSで統一されたペダルボードと欠かせないラック機材

2024年に最新作『Echoes and Other Songs』をリリースしたマイク・スターンが、2025年3月に丸の内COTTON CLUBと青山BLUE NOTE TOKYOで合計5日間の来日公演を行なった。来日のタイミングでマイク・スターンが使用した機材の撮影に成功し、本人から機材に対するこだわりを聞くことができた。本記事では、BOSSのコンパクト・エフェクターのみで構成されたペダルボードと、マイクの音作りに欠かせないYamaha SPX90をご紹介。

文=小林弘昂 通訳=トミー・モリー 機材撮影=星野俊

Mike Stern’s Pedalboard

ペダルボード
Yamaha / SPX90

常に3台のエフェクターをオンにした独自のサウンドメイク

【Effect List】
①BOSS / TU-3(チューナー)
②BOSS / SD-1W(オーバードライブ)
③BOSS / MO-2(マルチ・オーバートーン)
④BOSS / SD-1(オーバードライブ)
⑤BOSS / DD-3T(ディレイ)
⑥BOSS / DD-3T(ディレイ)
⑦Yamaha / SPX90(マルチ・エフェクター)
⑧Yamaha / SPX90(マルチ・エフェクター)※未接続

ギターからの接続順は、まず足下のボード内の①〜⑥を番号順にとおり、アンプの裏に置かれた⑦SPX90にインプット。⑦SPX90にはアウトが2つあり、そこから2台のフェンダー’65 Twin Reverbに接続されている。

各ペダルの使い方だが、④SD-1はLEVELをMAX、DRIVEをゼロにし、常時オンでブースター的に使用。マイクが2016年に両腕を骨折してからは右手の力が弱まってしまい、本機はそれを補うためのものだという。

②SD-1WはDRIVEを1時、TONEを2時まで上げて明るめのサウンドに設定し、歪ませる際にオンにする。その場合、“音が大きくなりすぎて濁って聴こえるから”という理由で、④SD-1はオフにするとのこと。ちなみに写真では②SD-1WのモードがCUSTOMになっているが、いつもはSTANDARDモードで使用。

③MO-2は発売されてすぐに導入したものの、8年くらい前から使用機会がどんどん減っているそうだ。

⑤⑥DD-3Tが2台用意されているが、⑤はE.LEVELを8時半くらいまで下げ、薄いディレイを常時オンにしている。もう片方の⑥は、E.LEVELとTIMEをMAXまで上げており、マイク曰く“ループのエフェクトのように使うロング・ディレイ”とのこと。

アンプ裏に置かれた⑦⑧SPX90は⑦のみを使用しており、⑧はサブ。SPX90には様々なエフェクトが内蔵されているが、マイクはパッチ番号23の“PITCH CHANGE C”というピッチ・シフターのみをセレクトし、常時オンにしている。つまり、④SD-1、⑤DD-3T、⑦SPX90の3台をオンにした状態が基本のサウンドなのだ。

⑦SPX90の“PITCH CHANGE C”のセッティングに関して、マイクは“実はピッチの変化量をゼロにしている。でも揺らぎはエフェクト量によって生じていて、いつもは60%くらいがエフェクト、40%以上が原音というミックスにしているよ”と発言。このようなセッティングで常時オンにすると、ファットな感じが出せたり、均一なタッチのレガートが弾けたり、ホーンやボーカルのようなサウンドも出せるそうで、SPX90がマイクのサウンドを形成する最も重要な機材だと言えるだろう。

Interview

BOSSはどこでも手に入るし、
もう慣れ切っているから音作りが上手くいく。

足下は全部BOSSのペダルで統一されていますが、何か理由があるんですか?

BOSSはかなり気に入っているよ。なぜかはわからないけど、これで上手くいっているんだ。ほかのブランドのペダルも試したことがあるけど、結局、僕が求めるものはBOSS製品の中にある気がするね。いつだって見事な仕事をしてくれるよ。

それぞれの使い方は?

SD-1(④)はLEVELがMAX、GAINがゼロの状態で、かなりフラットなサウンドが得られるようにしている。SD-1W(②)はSD-1とは設定が違うんだ。SD-1Wはオーバードライブさせるのが目的で、SD-1はブーストさせるためのものだね。

怪我をしてからは以前と同じ強さでピッキングすることができないんだけど、エフェクターでブーストさせることで、それを補うことができる。コンプレッサーはあんまり好きじゃないから使いたくないんだけど、SD-1とSD-1Wはコンプレッションも少し加えてくれるんだ。

BOSS / SD-1、BOSS / MO-2、BOSS / SD-1W

SD-1とSD-1Wのうち、常にオンにしているものはありますか?

ブースターとして使っているSD-1は、ほとんどでオンにしているよ。SD-1Wと一緒に踏むことはないね。2台を同時にオンにすると音がラウドになって、クリアじゃなくなってしまうから、常にオンなのはSD-1だけなんだ。

SD-1はLEVELがMAX、GAINがゼロと、かなり極端なセッティングです。

これでちょうどいいんだ。それとTONEは少しダーク寄りにしていて、あまりブライトな感じはしないね。SD-1Wのほうはもっとブライトに歪ませていて、レガートなプレイに合う、スムーズでロックなサウンドだ。

先ほどペダルボードを見てきましたが、SD-1WはCUSTOMモードにしているみたいですね。

いつもはスイッチを左側にしているんだけど、これだと何だろう?

左側はSTANDARDモードです。

じゃあCUSTOMモードは間違いだ(笑)。どちらにしても基本的な部分は同じだね(笑)。僕はシンプルなものが好きなんだ。1台のペダルの中にたくさんのエフェクトが入っていて、色んなことがプログラムできるようなものもあるけど、そういうものはイライラしてしまう。僕はアナログ人間だからね。

DD-3T(⑤⑥)は2台用意されていますが、それぞれの使い分けは?

左側(⑥)はループのようなエフェクトとして使うロング・ディレイで、右側のもう1台(⑤)はエコーのようなディレイ/リバーブとして常時オンにしている。アンプのリバーブは使わないんだ。そしてもう1つ、ピッチを少し高めに変える青いペダルがある。

BOSS / DD-3T

MO-2(③)ですね。

1オクターブ上を加えてくれるマルチ・オーバートーン・ペダルで、その名のとおりの使い方だね。発売されてすぐに気に入って使い始めたけど、8年ほど前からはたまに使うくらいに登場回数が減ったんだ。

DD-3TのSHORT LOOP機能を使うことはありますか?

いや、DD-3と同じように普通のディレイとして使っているだけだよ。エフェクト音が少し大きく感じることもあったから、今は常時オンにしているほうのE.LEVELを少し控え目にしている。前は9時ちょうどだったけど、今は8時半くらいだね。

DD-3とDD-3T以外に使ったことのあるBOSSのディレイはありますか?

いや、記憶にないな。DD-3っていつ作られたんだっけ?

86年ですね。

だからやっぱりDD-3を最初に使って、そのままやってきたっていうことだね。BOSSはどこでも手に入るし、もう慣れ切っているから音作りが上手くいくんだ。以前はDS-1を使っていて、ブライトなところが気に入っていてね。ほかのギター……特に最初に持っていたテレキャスターとの相性も良かったんだ。でも黄色いオーバードライブを知り、今の僕がやっている音楽にはベターなサウンドだと思うよ。

可能な限りすべての音をピッキングしている。
だからSPX90は僕のスタイルにピッタリなんだよね。

アンプの裏に置かれたYamahaのSPX90(⑦)は、パッチ番号23番(PITCH CHANGE C)のピッチ・シフターのみを使っているんですよね?

うん。色んなエフェクトが入っているけど、これ1つしか使ってないよ。

Yamaha / SPX90

SPX90の気に入っているところは?

KORGかどこかのものだったと思うんだけど、もともと同じようなラック機材を使っていたんだ。でもSPX90と、このパッチを見つけた時、“こっちのほうが良い”ってことに気がついてね。

何年か前にMXRのコーラス・ペダルを使ったことがあったんだけど、コーラスが好きになれなかったんだ。コーラスって少しトレモロっぽい感じが加わるから、それが苦手でね。でもSPX90のピッチ・シフターにはその感じがなくて、コーラスとは違うスタイルのピッチ・チェンジをしてくれるんだ。

ストレートな音程の変化が好みなんですね。

オンにすると、ファットな感じが出せたり、ピッキング・ノイズがあまり聴こえなくなるメリットもある。あとは均一なタッチのレガートもできるし、ホーンやボーカルのようなサウンドも出せるんだよね。そこがSPX90の気に入っているポイントだ。僕はギターを弾いている時にスキャットすることがあって、ギターもそういう音にしたいと思っているよ。

SPX90のピッチ・シフターでは、どのくらいピッチを変更しているんですか?

実は変化量はゼロにしている。だからピッチの変化はないんだ。でも揺らぎはエフェクト量によって生じていて、いつもは60%くらいがエフェクト、40%以上が原音というミックスにしているよ。僕のプレイ・スタイルだと、この状態でギターがより一層クリアに聴こえるんだ。

今はできないからやらなくなったけど、昔はたまに指でピッキングしていて、そういう時はエフェクト音を少なめにしていたね。今はピックを使って軽くピッキングしているけれど、それでもかなり明瞭なプレイを心がけているよ。スラーを伴うようなプレイはやり過ぎないようにしている。そう聴こえないとしても、可能な限りすべての音をピッキングしているんだ。だからSPX90は僕のスタイルにピッタリなんだよね。

すべての音をピッキングするように心がけているんですね。

そう。でも“スラーしているように聴こえる”って、ジョン・スコフィールドによく言われたよ。これは純粋に僕の弾き方に由来するもので、ラウドにピッキングする時もあれば、静かにする時もあるからなんだ。

SPX90には2つのアウトがあり、そこから2台のアンプへ信号が送られていますが、それらはドライとウェットという使い分けでしょうか?

いや、どちらも同じだ。それぞれドライ用、ウェット用というわけではなく、まったく同じシグナルを2台のアンプに送っている。どちらか片方だけだと音が良くなくて、2台必要なんだ。こうすることでコンプリートなサウンドになるよ。

最後にギタリストたちに向けてメッセージをお願いします。

心の底からプレイすることを大切にするんだ。

私たちはギター・ミュージックなしでは生きていけませんからね。

イェー! そのとおりだ。ギター・ミュージックだけじゃなくて、どんな音楽がなくても僕らは生きていけないよ。でもやっぱり僕はギターが好きだね。