伝説のシンガー・ソングライターのピーター・ゴールウェイと、国内トップ・ギタリストの佐橋佳幸による共同名義のアルバム『EN』のリリースに伴うジャパン・ツアーが全国3箇所で開催され、熟練ミュージシャンたちによる充実のステージがくり広げられた。本記事では最終公演、6月26日(木)のBillboard Live TOKYOの模様をお届けする。
取材・文=鈴木伸明

色褪せない70年代の
ピーター・ゴールウェイの代表曲もプレイ
国内のトップ・アーティストらと共演してきた膨大なキャリアをまとめた書籍『佐橋佳幸の仕事1983-2025EN』(能地祐子著/小社刊)も発売され、改めてプロデューサー/ソングライターとしての存在感も注目されているギタリストの佐橋佳幸。
佐橋が長年交流を続けてきたのが、ザ・フィフス・アベニュー・バンドやオハイオ・ノックスなどでの活動で知られるシンガー・ソングライターのピーター・ゴールウェイだ。ピーターと佐橋に加えて豪華ゲストが参加したアルバム『EN』(2025年)の楽曲を中心に、レア・ナンバーも披露されたライブの様子をレポートしていこう。
バックを固めるのは、アルバム・レコーディングにも参加していた屋敷豪太(d)、小原礼(b)、Dr.kyOn(k)というトップ・ミュージシャンたち。佐橋はトレードマークのキャンディ・アップル・レッドの64年製ストラトキャスターを、ピーターはP-90を搭載したレス・ポール・トラディショナルを抱えてステージに登場した。
オープニングは「On The Bandstand」。ピーターの2ndソロ・アルバム『On The Bandstand』(1978年)のタイトル・ナンバーで、味わい深いピーターのボーカルと、なめらかにメロディを描いていく佐橋の絶品リード・ギターが、温かい空気感を作り出していく。
Dr.kyOnのブルージィなピアノに先導されるように始まった「Running, Walking, Kicking The Ball」は、ピーターの1stソロ・アルバム『Peter Gallway』(1972年)に収録されたナンバー。ピアノ・リフを中心したアレンジが施されており、各メンバーの演奏の“旨み”が際立つような仕上がりとなっていた。今回のバンドが素晴らしいことを差し引いても、70年代のピーターの楽曲は、今聴いてもまったく色褪せていないことに驚いた。
ピーターが、プロデューサーとして関わったこともあるローラ・ニーロとの思い出を語ったあと、彼女のカバー曲「Save The Country」を演奏。佐橋の鮮やかなクリーン・トーンと、アコーディオンに持ち替えたDr.kyOnの演奏が見事に溶け合って、エモーショナルなムードを作り上げていた。

大貫妙子と松たか子のコーラスが加わり
ステージは一気に華やかな雰囲気に
ここからは、今年リリースされたアルバム『EN』収録のナンバーへ突入。佐橋の曲にピーターが詞をつけた「French Is Spoken Far From Here」はボーカル・メロディが際立ち、2人のコーラスがしっとりと印象的に響いてきた。この曲で佐橋はbeffnick braceworkのアコースティック・ギターをプレイ、Dr.kyOnのアコーディオンと息の合ったバッキングを展開していた。
「Coltraine’s Blue World」ではゲストとして山本拓夫(sax)が加わり、艶やかなサックスの音色でジャジィな曲調にアクセントをつけていく。続く「Tokyo Me To」では松たか子がコーラスとして加わり、さらに華やかさが増していった。佐橋のストラトのクリーンの響きが絶品で、楽曲に奥行きを与えていたのが印象的だった。
ピーターがMCで、“新宿の歌舞伎町はホームのニューヨークみたいでとても好きなんだ”と語ったあとに「Shinjuku Neon」を演奏。ここからは大貫妙子もコーラスに加わった豪華な編成となり、豊潤なサウンドが空間を埋め尽くしていった。極上のクリーン・アルペジオが曲の骨格を形づくり、ボーカルとサックスが絡み合い、絶品の女性コーラスが華を添える。リラックスした演奏の中にも、リッチさが生み出されていった。

beffnick braceworkのナイロン弦の温かい音色が耳に残った「Kyoto」、熟練の演奏に引っ張られるように観客も一緒になってサビを歌い上げた「English Football At The Prince Hotel」と続き、会場の熱はさらに上がっていった。
ゲスト陣が一旦ステージを降り、バンドだけでソリッドに演奏されたのは「Land Of Music」。1966年にストレンジャーズ名義でリリースされたピーターのデビュー曲であり、オハイオ・ノックスのアルバム『Ohio Knox』(1971年)にもセルフ・カバーが収録されたナンバーである。バンド・メンバーだけのコーラスが曲を盛り上げ、歌心に満ちたギター・ソロも素晴らしく、滋味溢れるバンド演奏に酔いしれた。

芯の強い歌声を盛り上げる
凄腕バンドマンたちのグルーヴ
アンコールでは、ピーターと佐橋の2人だけがステージへ立ち、ザ・フィフス・アベニュー・バンドの「Good Lady Of Toronto」を演奏。佐橋は61年製のストラトに持ち替えて、ウォームで豊かなサステインが心地よいスライド・プレイを披露。2人だけの演奏でもドラマチックな曲の世界を見事に表現していた。
会場販売のグッズを笑いを交えつつ紹介したあと、再びゲスト陣も加わり、最後にプレイされたのは「Sunday Basketball」だった。1970年代中盤、都会を離れて暮らしていたピーターのデモ・テープが日本のファンの元に届き、めぐりめぐって日本のみでリリースされることになった2ndソロ・アルバム『On The Bandstand』の1曲目のナンバーである。メロウで洒脱さを感じる、今聴いても新鮮さのあるこの曲を、日本が誇るこのメンバーの演奏で聴けることに贅沢さを感じた。
長年の友情と音楽的信頼関係、そして日本との深い結びつきが、この特別な夜を実現させたのだろう。伝説のソングライターが紡ぎ出す芯の強い歌声と、佐橋の極上のギターを中心にした凄腕バンドマンたちのグルーヴが、ほかにはないような熱を生み出した贅沢なコンサートだった。アルバム『EN』のジャケットには“Volume One”と入っているので、ぜひ近いうちに続編が聴きたい……会場で彼らのサウンドを浴びた観客は皆、そう思っていたに違いない。

Peter Gallway & 佐橋佳幸
“EN” Japan Tour 2025 with 屋敷豪太, 小原礼, Dr.kyOn
2025年6月26日(木)@Billboard Live TOKYO
【Setlist】
01. On The Bandstand
02. Running, Walking, Kicking The Ball
03. Save The Country
04. French Is Spoken Far From Here
05. Coltrane’s Blue World(with 山本拓夫)
06. Tokyo To Me(with 山本拓夫、松たか子)
07. Shinjuku Neon(with 山本拓夫、大貫妙子、松たか子)
08. Kyoto(with 山本拓夫、大貫妙子、松たか子)
09. English Football At The Prince Hotel(with 山本拓夫、大貫妙子、松たか子)
10. Land Of Music
-Encore-
11. Good Lady Of Toronto
12. Sunday Basketball(with 山本拓夫、大貫妙子、松たか子)





