今や多くのギタリストたちが愛用するようになったアンプ・シミュレーター。このページでは、ZOOMのMS-80IR+を、ギタリストの小川翔による試奏レビューとともに紹介する。
文=鈴木誠 製品撮影=星野俊
*本記事は、ギター・マガジン2025年9月号の特集記事『自宅からステージまで1台で完結! アンプ・シミュレーターのススメ』の一部を抜粋し、再構成したものです。
ZOOM
MS-80IR+
独自技術“マルチレイヤーIR”のリアルかつダイナミックな響き


ここがポイント!
- 定番アンプの再現16種類のほか、ZOOMオリジナルのアンプ・モデルを7種類用意。
- 三段階の音量で取り込んだIRをブレンドするマルチレイヤーIR。
- コンパクト・サイズかつ電池駆動も可能。
- 各種EQなど音色の仕上げに役立つエフェクトを12種類搭載。
- アンプ用スピーカーの大手、ジェンセンのJensen IR Collectionを30種類利用可能。
23種類のギター・アンプ/キャビネットのモデルをコンパクト・エフェクターのサイズに搭載。定番のセッティングを50種類から選べるプリセットのほか、アンプ&キャビネットにエフェクトやアンビエンスを組み合わせたオリジナル・セッティングを最大80種類まで保存できる。本特集の紹介製品の中で最も手頃な、2万円を切る販売価格も大きな魅力だ。
アンプ・モデルは、ギターの歴史を彩る伝説的なギター・アンプをシミュレートしたものから、現代の音楽シーンにマッチするモダンな機種の再現まで16種類を内蔵。また、名機のサウンドを解析する中でインスパイアされたZOOMオリジナルのアンプ&キャビネット・モデルも7種類を用意している。
特許出願中のZOOM独自技術“マルチレイヤーIR”も特徴の1つ。従来はスピーカー・キャビネットの特性をとらえる際に単一のインパルス応答(IR)が用いられていたが、マルチレイヤーIRでは、ラウド/ミディアム/ソフトの三段階の音量で取り込んだIRを、演奏の強弱に応じて動的にブレンド。より忠実かつ有機的な響きを生み出す。
ギター・サウンドに空気感を加える機能として、レコーディング・スタジオ、ライブハウス、コンサート・ホール、教会の残響をキャプチャしたStudio Ambienceも搭載。
加えて、トーンの最終調整を行なうために12のエフェクトも装備。ステレオ7バンド、パラメトリックEQ、低域専用など5種類のイコライザーと、ノイズ・ゲート、ノイズ・リダクション、4種類のディレイなどを駆使し、バンド・アンサンブルに応じた細やかなサウンド・チューニングが可能だ。
小型軽量かつ、電源もDC9Vアダプター、単3電池2本、USB-C端子のバスパワー動作に対応。モバイル・バッテリーでも駆動できる。USBオーディオ・インターフェースとしてPCやタブレット端末とも組み合わせられるほか、ヘッドフォン端子も搭載。ライブからレコーディング、自宅練習にまで多方面に活躍する1台だ。
OGAWA’s IMPRESSION
最初の1台としてもアリですが、
出音はプロの現場でも問題ないクオリティ。

評価が高いZOOMのマルチストンプ・シリーズからの1台です。
アンプとキャビネット・シミュレーションだけでなく、ノイズ・リダクションとか、部屋鳴りを与えられるエフェクトもありますね。EQ、ディレイもある。エフェクト・ボードの最後段に入れてアンプとして使う感じかな。
ZOOMのマルチには懐かしい思い出もありますが、昔に比べると音のクオリティが物凄く上がってますよね。もうビットの粗さは感じません。最近のZOOMでいえば、空間系専用のマルチ・ストンプ“MS-70CDR”を持っています。従来モデルでは矢印ボタンを足で操作できるように工夫している人も多かったので、矢印ボタンが足でも踏めるスイッチになったのは大きいですね。僕はプリセットを“空のプリセット(オフ)”、“ディレイON”、“リバーブON”という具合に作って、それをフット・スイッチのトグル操作で順番に切り換えられるようにして使っていました。
この新シリーズも、ちょっと触ったら操作はすぐにわかりますね。ZOOMのマルチストンプ・シリーズの他機種を触ったことがあれば、より簡単に扱えそうな気がします。
サウンドの第一印象は?
定番といえるアンプ・サウンドがひと通りある感じですね。マーシャル系のJCM800やSuper Leadはもちろん、僕が好きなフェンダー系もTwin ReverbやDeluxeが揃っています。Bassmanのモデリングは10インチ・スピーカーを搭載している感じがよく出ていますね。それぞれのキャラクターの違いがよくわかります。
個人的にはHiwattの音がお気に入りです。僕は1982年製の実機を長く使っていたんですが、その雰囲気が感じられます。僕が持っているのは音が太めの個体で、70年代のHiwattといえばもっと音も速くてバキバキな印象なんですけど、これぐらいのほうが太いクリーンを作れると思います。
本機の特徴であるマルチレイヤーIRについてはどんな印象ですか?
ギター・ボリュームやピッキングへの反応が細やかで良いと思います。音量によってキャビネットの鳴り方が変わる感じがリアルで、強く弾けば太い箱鳴り、弱く弾けばスッキリしたトーンになり、手元で演奏に表情が付けられます。
ZOOMオリジナルのアンプ・サウンドはどうでしょう?
いくつか試してみましょうか。……この“WHITE CANVAS”という音はまさに、ペダル・プラットフォーム的な雰囲気がありますね。僕はペダルで音を作るので、アンプ側はこういう無機質なクリーン・トーンが好きなんです。ライン直の雰囲気もありますし、EQでミドルを削ればフェンダーっぽくなったり、ミッドを張り出せばVOXっぽくなったり、いろんなサウンドの下地として使えそうです。
“7 HEAVEN”は7弦や8弦ギター用で、“MUDDY”はマディ・ウォーターズのイメージでしょうか。ツイードのChampっぽい雰囲気も感じられますね
リーズナブルなモデルですが、どんな人に向きそうですか?
出てくるサウンドが全然“ぽい”ですね。それぞれのアンプがどういう音かわかるし、アンプやエフェクトごとに元ネタをイメージさせるアイコンも表示されるので、初心者にとってはアンプの種類の勉強にもなりそうです。これで2万円未満って、ZOOMは本当に凄い(笑)。
弾いている感触としては、ほかの高級モデルとも価格ほどの差があるとは思えません。学生や若いバンドマンなら、これだけ持っていればマーシャル・アンプの音もフェンダー・アンプの音も出せるし、ありがたい選択肢だと思います。最初の1台としてもアリな印象ですが、出音はプロの現場でも全然問題ないクオリティです。ライブやリハスタ以外でもオーディオ・インターフェースとして宅録にも使えますから……これとiPhoneとGarageBandがあったらギターが録れちゃうわけですよね。例えばバンドメンバーの家にこれを持っていって、色んなギター・サウンドを試しながら録音して……みたいなことが身軽に楽しめると思います。現場でも制作でも、とにかく遊べる1台ですね。
ZOOM
MS-80IR+
【スペック】
●プリセット数:50(最大80種まで保存可能)
●アンプ・モデル:23種類
●エフェクト:12種類
●アンビエンス:5種類
●外形寸法:79(W)×133(D)×61(H)mm
●重量:369g(電池を除く)
●専用アプリケーション:Handy Guitar Lab for MS-80IR+
【価格】
オープン・プライス (市場実勢価格:19,900円前後)
【問い合わせ】
ズーム カスタマーサポートセンター TEL:0570-078-206
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ZOOM
G11

現行のZOOM製マルチ・エフェクターの最上位機種。アンプ・モデルは定番が16種類と、6種類のZOOMオリジナルを搭載。エフェクトは135種類を内蔵し、最大9エフェクト+1アンプ・モデルの同時使用に対応する。
アンプ・セクションとエフェクト・セクションにはそれぞれ独立した操作部があり、アンプ1台に5台のコンパクト・エフェクターを並べて直接操作しているような操作性が魅力。
5インチのタッチ式カラー・ディスプレイは、ドラッグ&ドロップでエフェクトの並び替えも可能だ。
ZOOM
G11
【価格】
オープン・プライス (市場実勢価格:99,000円前後)
【問い合わせ】
ズーム カスタマーサポートセンター TEL:0570-078-206