フェンダーカスタムショップのマスタービルダーが、その技術力と美学の粋を結集させたPrestige Collection。今回ギタマガWEBでは、世界中が注目するこのコレクションの中から、美しい杢目が魅力のTamo Ash Teleを手がけたグレッグ・フェスラーのインタビューに成功! 渾身の新作に込めた思い、ギター・ビルダーとしての哲学を聞いた。
取材=福崎敬太 翻訳=トミー・モリー
Tamo Ashはその美しさから人気が高く、入手が困難な木材です。
今回のPrestige Collectionであなたが手がけたTamo Ash Teleは、非常にモダンで美しく、エキゾチックな仕上がりです。木材の雰囲気とカスタム・テレキャスターならではのバインディングも相まってすごくゴージャスですね。
私は杢目の浮き出た木材を愛しているので、ずっとタモ・アッシュでギターを作りたかったんです。そしてテレキャスターは、この木材をお披露目する良きプラットフォームだと思いました。
あなたが新たなギターを生み出す時、どのような事柄からインスピレーションを受けることが多いですか?
私はマスタービルダーとして25年以上勤めてきたので、ギターに関するほとんどすべてのものを見てきました。その時折の経験や作りたいと感じてきたものにインスパイアされてきましたが、それらの中でも特に“多くの人に気に入ってもらえるだろうと感じたもの”を私は作ってきました。
2020年にデイル・ウィルソンが手がけたTamo Ash Esquireも印象的でしたが、フェンダーカスタムショップにとって波打つ杢目の美しいタモ・アッシュはどのような木材で、どのようなサウンドの特徴を持っていますか?
タモ・アッシュはその美しさから人気が高く、入手が困難な木材です。今回使った材はそれらの中でも特にレアなものであり、私の知る限り現在では入手不可能となっています。サウンドとしては、本質的にはアッシュですので、それに近いですね。
ボディ本体とネックはローステッド加工を施していますが、これによる作りやサウンドでのメリット/デメリットについてはどう考えていますか?
メリットはまずその“安定性”にあります。木材は水分のほとんどが取り除かれていて、まるでオールドのギターのようになり、サウンド的にも年月を経た木材のトーンが得られます。デメリットは脆くなりうる可能性にあり、特にペグの取り付け穴周辺で見られるかもしれません。
Seymour DuncanのVintage P90ピックアップを搭載していますが、木材との相性をどのようにイメージしてチョイスしましたか?
私はP90が大好きで、チャンスがあればギターに搭載させています。私は特にシンライン・テレキャスターとP90の組み合わせを気に入っていますね。どんな木材と組み合わせても相乗効果によるグレイトなサウンドを生んでくれるので、P90を使って間違えることはないでしょう。それにDuncanはグレイトなサウンドです。
あなたは電気的な知識も豊富です。エレキ・ギターにとって非常に大事な部分だと思うのですが、今回のTamo Ash Teleに使用した電気パーツや配線などでこだわった部分はありますか?
私が手がけるテレキャスターのほとんどに、我々が”Modern Tele”と呼んでいる回路を好んで組み込んでいます。また、私たちが製作するものには特別なワックス・コンデンサーを用いており、これはより一層ビンテージな仕様に近くてサウンドもグッドです。
P90サイズのピックアップを搭載したことにより、ブリッジ・プレートは”Sawed-Off”スタイルになっています。ブリッジ・プレートの厚み、重量、ボディとの設置面積はサウンド面にどのように影響するのでしょうか?
サウンドにどういった変化を及ぼすかについて私にはわかりませんし、少なくとも私はその違いが聴き分けられません。ギターに搭載する際の実用性の理由で選択しているだけだと思います。私個人としては、何よりルックスを気に入っていますね。
このTamo Ash Teleはどのようなサウンドでしょうか?
アッシュとP90を用いたテレキャスターらしいサウンドです。タモ・アッシュであること自体がサウンドを変えることはほとんどないですが、ローステッド・アッシュのボディであることが恐らく何よりもサウンドに大きく影響していることと思います。
プレイアビリティの高さは写真を見れば弾かなくてもわかりますが、このモデルを作るうえで苦労した点や特に工夫した点などがあればぜひ教えて下さい!
製作において特に苦労したことなどありませんでした。私はたくさんの経験があるので、あらかじめ問題を予見したり、それらを解決することができますから。ローストされた木材を扱ううえでは、その含水量の低さから木材に欠けやクラックを入れてしまわないように注意する必要があります。
間違いから学び、そして次のステップへと進むのです。
ロベン・フォードやジョー・ボナマッサ、日本だとL’Arc〜en〜Cielのkenなど、音にこだわりの強いギタリストからの信頼も厚いあなたですが、トップ・プレイヤーがあなたに求めることに共通点などはありますか?
そのアーティストがどういったサウンドを求めているかによります。そういったトップにいる方たちは自分がギターに何を求めているのかを把握していて、私は彼らが求めるものを提供しようと努めるだけです。それはどのアーティストも異なっていて、それに応じて作るものもユニークなものとなるのです。
ギター製作のトップで活躍するあなたにぜひ聞きたいのですが、ギターという楽器の作りにおいて昨今は何かトレンドなどはあるのでしょうか?
ローストされた木材はかなりポピュラーなものとなってきたと思いますし、私も好んでいます。若いプレイヤーの中には60年代の奇抜なデザインのギターを好む人たちもいるようで、そういったモデルがいくつか作られているのを目にするのは興味深くもありますね。
今年はフェンダーの創立75周年ですが、その歴史の中でも最も長く愛されているモデルが、今回あなたが作ったテレキャスターです。あなたが考えるテレキャスターの素晴らしさとは?
シンプルで機能的、そしてそのサウンドがテレキャスターをグレイトなギターとたらしめているのです。レオが振ったバットから放たれた瞬間から、すでにグレイトなギターだったのです。このことを考える度に本当にアメイジングなことだったのだと思わされます。
マスタービルダーは世界中のギター・ビルダーの憧れです。ギター製作家を目指す若い世代にメッセージをお願いします。
ギター製作に関して、ひとつでも多くのことを学んでみてください。そしてあなたのスキルを鍛錬によって磨き上げて下さい。経験に勝るものはありませんし、パーフェクトなものができなかったからといって怖じ気付く必要はありません。間違いから学び、そして次のステップへと進むのです。私がビルダーとして始めた時、何人かのグレイトなビルダーたちに囲まれて多くのことを教わりました。こうやってカスタムショップで過ごすことができて、とても幸せに思っています。
最後に、このTamo Ash Teleをこれから手に入れるギタリストへひと言お願いします!
私のギターを購入してくれて本当にありがとうございます。心から感謝しています。 私がこのギターを製作するのを心から楽しんだように、あなたも心からプレイを楽しんでもらえたらと願います。これは私が作るうえでハートをたくさん注いだ、とてもユニークなギターだと思っています。