2018年にイギリス・ウィガンで結成された4人組ロック・バンドのザ・ラサムズが、2025年10月14日(火)に代官山SPACE ODDで初の来日公演を行なった。本公演でスコット・コンセプション(g)が使用したペダルボードを、本人の解説と共にご紹介しよう。
取材・文=小林弘昂 通訳=トミー・モーリー 人物・機材撮影=小原啓樹
Scott Concepcion’s Pedalboard


アンプを使わないライン出し前提のボード
【Pedal List】
①Handmade / Junction Box
②BOSS / TU-3(チューナー)
③Analog.Man / King of Tone(オーバードライブ)
④Jim Dunlop / 535Q Cry Baby Multi-Wah(ワウ)
⑤Aclam Guitars / Dr. Robert v2(オーバードライブ)
⑥Coopersonic / VALVESLAPPER(ディストーション)
⑦strymon / TIMELINE(ディレイ)
⑧strymon / BigSky(リバーブ)
⑨Handmade / Junction Box
⑩Universal Audio / UAFX Woodrow ’55 Instrument Amplifier(アンプ・シミュレーター)
⑪Radial / SB-1 Active(DI)
⑫IK Multimedia / TONEX One(アンプ/エフェクト・シミュレーター)
⑬BOSS / CE-2W(コーラス)
⑭Radial / SB-1 Active(DI)
⑮Radial / SB-1 Active(DI)
⑯strymon / Zuma(パワー・サプライ)
イギリスや周辺国でのライブではフェンダーBlues JuniorとRoland JC-40という2台のアンプを使用しているスコットだが、今回は飛行機移動ということもあり、アンプを使わずライン出力用のペダルボードを活用してサウンドメイクを行なっていた。
ギターからの接続順は、まずスコットの足下に置かれたボード内の①ジャンクション・ボックスを経由し、②〜⑧の番号どおりにつながれている。⑧BigSkyからステレオ・アウトになり、再び①ジャンクション・ボックスへ。そこからステージ袖に置かれたボードに接続される。

①ジャンクション・ボックスのアウトから⑨ジャンクション・ボックスを経由し、ここから出力先が2つに分かれる。1つは50年代のフェンダーTweedアンプのサウンドをエミュレートした⑩Woodrowを通り、⑪SB-1 Activeを経由してPAへ。ちなみに、もう1台のWoodrowはアレックス・ムーア(vo,g)のもの。

もう1つは、JCのアンプ・サウンドをインストールした⑫TONEX Oneと⑬CE-2Wを経由し、ステレオで⑭⑮SB-1 Activeを通ってPAに信号が流れている。
⑬CE-2WはVIBRATOモードに設定し、常時オンでJCのサウンドを再現。RATEノブが控えめなセッティングになっており、スコット曰く“ほんのちょっと質感が加わっていればいい”とのこと。また、本機のコーラス・サウンドは実機のJCとそっくりだともコメントしていた。

メインの歪みは③King of Toneで、左側のchを常時オン。ToneノブはMAXにセッティングされていた。ストラトキャスターのリア・ピックアップを使用するロックな楽曲では、右側のchも同時にオンにしてゲインを稼いでいる。
④535Qは「Say My Name」と「Artificial Screens」のソロで強烈なフィルター効果を演出していた。

⑤Dr. Roberは「No Direction」などのギター・ソロのみでオンにするそうで、スコットはBYPASSスイッチとMach Schau!スイッチを同時にオン/オフしている。2つのスイッチの同時オン/オフがしやすいように、ギター・テックにより板のようなものがテープで固定されていた。

⑥VALVESLAPPERはアークティック・モンキーズのアレックス・ターナー(vo,g)が使用していることを知り、数ヵ月かけて見つけたという1台。こちらはファズのようなサウンドのギター・ソロ用で、「Steller Cast」などでオンにしているとのこと。
⑦TIMELINEはTAPEモードのみを使用しており、ディレイ・タイム違いのプリセットを活用している。スコットは“ディレイさえあればなんとかなるし、むしろそれくらいがちょうどいい(笑)”とコメント。
⑧BigSkyもSPRINGモードしか使用しておらず、エフェクトが浅いリバーブと深いリバーブの2つしかプリセットしていないとのこと。
Interview
それ以来、一度もValveslapperが売られているのを
見たことがないよ。
ペダルボードに搭載されているジャンクション・ボックス(①)は誰が作ったものですか?
ブロッサムズというバンドと一緒に仕事をしている、ジョーという人が作ってくれたんだ。彼はペダルを作るのがすごく上手で、僕らのボードを組んでくれたのも彼なんだよ。ジャックや電源ケーブルはロック式になっていて、アクシデントで抜けないようになっている。とにかく全部キレイに仕上げてくれた。ジョーは本当に天才だよ。

メインの歪みはKing of Tone(③)ですか?
うん。左側の黄色いLEDのチャンネルは常にオンにしている。Toneノブはフルでね。これは最高にグッドなペダルだよ。右側のLEDが赤いチャンネルは、ロックな曲でアグレッシヴにしたい時にオンにしている。特にストラトキャスターのリア・ピックアップ使う時に両方のチャンネルをオンにして、よりラウドにしているんだ。

Dr. Robert(⑤)はどういう時に使いますか?
ソロの時だけ踏むんだ。例えば「No Direction」のソロとかで使っているよ。1曲通してオンにすることはないね。これはビートルズのレコードで使われていたアンプを再現しているらしくて、実際にそれっぽいサウンドなんだよね。けっこう良くて、かなり暴れるんだ。
CoopersonicのVALVESLAPPER(⑥)は中に真空管が2本入っていて、ディストーションというよりかはファズに近い感じがする。「Steller Cast」のソロとかでオンにしているよ。ちなみにこれはアークティック・モンキーズのアレックス・ターナー(vo,g)がオススメしていて僕も使い始めたんだ。
Dr. Robertのフット・スイッチ部分に黒いカバーが付いているのが気になりました。
このペダルにはスイッチが2つあるんだけど、僕はいつも同時にオン/オフしている。ブーツを履いていると片方のスイッチしか踏めなかったりするから、2つオンにするのはけっこう面倒だったんだよね。だから真ん中を踏めば両方がオンになるようにギター・テックが手を加えてくれたんだ。

TIMELINE(⑦)とBigSky(⑧)で使用しているプリセットやモードについて教えて下さい。
BigSkyは2つのプリセットしか使ってなくて、SPRINGモードの浅いリバーブと深いリバーブだけ。それ以外は一切使ってないよ。TIMELINEも使うのはTAPEモードだけで、ディレイ・タイムが違うプリセットを保存している。TIMELINEはちょっと調子が悪くてね。タップ・テンポを使うとタイムが固定されちゃって、再起動しないと変更できなくなるんだ。だからタップ機能が使えないんだよね。
あなたは個性的なペダルと定番モデルを分け隔てなく使っているというイメージですが、どういった基準でエフェクターを選んでいるんですか?
Dr. Robertに関してはリヴァプールのKempston Street Studioというスタジオに置いてあって、新しいアルバムの何曲かのソロで使ったから、“もう自分で買ってボードに入れたほうがいいんじゃないか?”と思ったんだよね。
King of Toneも同じスタジオで見つけたんだ。スタジオに行くたびに借りていたから、僕も1台手に入れることにしたんだよね。とにかくサウンドが良くて、オフにする必要がない。
あとアークティック・モンキーズと一緒のフェスに出演した時の話なんだけど、一緒にいた友達がアレックス・ターナーに“どうやってギター・サウンドを作っているの?”と尋ねたら、“CoopersonicのVALVESLAPPERだよ”って教えてくれたんだ。そのあと何ヵ月も探し続けたのに全然見つからなかったんだけど、ツアー・マネージャーのジェームズが見つけてくれて、“買ってくれ!”と頼んだんだよね(笑)。それ以来、一度もVALVESLAPPERが売られているのを見たことがないよ。本当にレアなペダルなんだ。

良いパートさえあれば、
それに合うギター・サウンドなんていくらでもある。
今回のライブではアンプを使わないんですね。
これは基本的に飛行機に乗る際のセットだね。イギリスではフェンダーのBlues JuniorとRolandのJC-40を使っていて、どっちのサウンドも同時に鳴らしているんだ。JCにはマイクを2本立てて、Blues Juniorはその真ん中に置く感じでミックスしている。今回はアンプを使わずに、TONEX One(⑫)でJCをエミュレートしていて、そのうしろにつないだCE-2W(⑬)からステレオ・アウトさせているよ。CE-2WはJCを完璧に再現していて驚いたね。今回はBlues Juniorの代わりとして、Universal Audioのアンプ・シミュレーター・ペダル(⑩)を持ち込んでいる。
このシステムは僕1人じゃ何年かかっても絶対に無理だったけど、ジョーが全部組んでくれたんだ(笑)。イギリスや車で移動できるドイツとかフランスでは自前のアンプを使うけど、ツアーの途中で壊れたりもするし大変でね。今は飛行機移動も多いし、このセットが標準みたいなものだよ。

なぜアンプを2台同時に鳴らしているんですか?
昔はJCだけでライブをやっていたけど、ビッグなソロをプレイすると、ちょっと薄っぺらく感じたんだよね。クリーンなアルペジオとかでは最高なんだけど、ソロになるとちょっと物足りなかった。だから真空管が入っていて、なおかつドライブできる小さめのBlues Juniorを足して、サウンドに厚みと温かさを加えているんだ。
このセットを使えば、実機のアンプを鳴らさなくても大丈夫だと。
現地でアンプを借りてライブをしたことがあるけど、だいたい何かしらの問題があってね。いつもと違うフェンダー・アンプが用意されていたり、何かが上手くいかなかったりするんだ。でも、こういうシステムがあればどこに行っても同じサウンドでプレイできるし、“JC-40がレンタルできなかったらどうしよう”という心配もしなくて済む。会場に用意されているのはだいたいJC-120で、ボリュームを絞ってもかなりラウドなんだよね。僕にはJC-40でも十分すぎるくらいだよ。
レコーディングではどんなアンプを使っているんですか?
正直、自分でアンプを選ぶことはあんまりないんだよね。スタジオには自分が知らないアンプがたくさんあって、エンジニアに任せちゃっているけど、だいたいグッドなサウンドになるんだ。70年代のVibroluxを何曲かで使ったのを覚えているけど、あれは本当に良かったね。クリーン・トーンにコーラスをかけたらすごくクリアだった。あとはHot Rod DeVilleもよく使ったね。
CE-2WはVIBTAROモードでRATEノブの設定が控えめですが、薄くかけるのがポイントのようですね。
ガッツリ揺れるのは好きじゃなくて、ほんのちょっとの質感だけ加わっていればいいっていう感じだね。しっかりとエフェクトがかかっているようには聴こえないと思うけど、オフにするとわかる。その程度なんだ。

サウンドメイクのこだわりはありますか?
僕の基本的な考えは、“サウンドよりもパートに集中する”こと。良いパートさえあれば、それに合うギター・サウンドなんていくらでもあると思っている。だから僕はギターとアンプをセットして、ディレイを設定したら、あとはパートに集中するだけ。どんなエフェクト使うかとかはあまり考えないんだ。正直なところ、僕はたくさんのエフェクトを使うのが得意じゃなくて、ディレイがあればなんとかなるし、むしろそれくらいがちょうどいい(笑)。
頭の中で鳴っているサウンドはあるけど、自分の力だけじゃそこまでたどり着けない。グッドなプロデューサーがいればそれを言葉で伝えて一緒にサウンドを探せるけど、自分だけでは上手くいかないんだよね。だから僕は弾くだけという感覚なんだ。どっちかというとプレイヤーなんだよね。
2025年10月14日(火)代官山SPACE ODD
【Setlist】
01. Stellar Cast
02. No Direction
03. Say My Name
04. The Great Escape
05. Knotted Bed Of Roses
06. How Beautiful Life Can Be
07. All My Life
08. Struggle
09. Heartbreaker
10. I See Your Ghosts
11. Artificial Screens
12. Long Shadows
13. Fight On
14. Sad Face Baby


