Interview | 大竹雅生(ミツメ)ギターでどこまでできるか、それを試したかったんです。 Interview | 大竹雅生(ミツメ)ギターでどこまでできるか、それを試したかったんです。

Interview | 大竹雅生(ミツメ)
ギターでどこまでできるか、それを試したかったんです。

“平熱のグルーヴ”で独自の音像を紡ぎ出すロック・バンド、ミツメがバンド6枚目となる最新作『VI』をリリースした。バンドのギタリスト大竹雅生は、自粛期間中に日本フリー・ジャズの巨匠=高柳昌行を聴き、初心にかえって基礎練に熱中。その結果どうなったか。“ギターをもっと使いたい”という気持ちが噴出し、多重録音による美しいギター・アンサンブルが新しいミツメの側面として花開いた。制作では大竹曰く、“メンバーとは言葉なくして進んだ”というが、その真意とは一体?

取材・文=辻昌志 写真=トヤマタクロウ 機材写真=本人提供

自粛期間はずっと基礎練の日々。

今作『VI』ですが「フィクション」など、ギターを何層も重ねた美しいアンサンブルが特に印象的でした。

 テーマとして“重ねる”ことがあったわけじゃないんです。でも、ギターでできることを増やそうとは思っていましたね。前作『Ghosts』ではシンセを多重録音しましたが、今作ではそれがギターに取って替わった。ギターでどこまでできるか、っていうことを試そうという思いはありましたね。

結果的に、今作はギター・アルバムとも言える内容だと思いました。何かきっかけがあったんでしょうか?

 まず、去年の春頃に自粛期間でバンドの予定もなくなり、時間ができたんです。ただ家でダラダラ過ごすのももったいないので、やりたいことを考えていて。自分は一応メインの楽器がギターなのに、プレイヤーとしての自覚や自信があまりないというか……ギターとちゃんと向き合えていないんじゃないかと思いがどこかにあったんです(笑)。で、改めて基礎からちゃんとやり直そうと思って、日々ギターの練習をしていました。

初心にかえったのですね。

 あとその時、高柳昌行さんのアルバムを聴いていて。それで気づいたことがあったんです。彼はフリー・ジャズやノイズ寄りの作品のイメージが強いですが、ちゃんとした基礎が下地にあるんだなと。それで自分も基礎を見直してみようと思ったのもあって、地味な練習をしたり、ジャズの理論書を読んだりしていました。

高柳さんのアルバムでは何がお気に入りですか?

 何枚かありますが、『COOL JOJO』は好きです。ただ、そこで聴いてたものとか練習などが直接的に今作に結び付いたかというと、必ずしもそうではないかもしれないです。

練習の効果はまだ実感されていないと(笑)。

 そういう地味な練習って数ヵ月で何か劇的に効果が出るものでもないし(笑)。というより、それによってギターをメインに据えたいという思いが出てきたというほうが大きいのかなと。

なるほど! それが今作でギターの録音を増やす方向になった面もあると。ギターへの関わり方が変わった、とも言えると思いますが、実際にフレーズの作り方も変化したのでしょうか?

 そうですね。今まではフレーズ自体のおもしろさやフレーズの流れを重要視していたんです。でも、今作ではそれに加えてもっとハーモニーのおもしろさも突き詰めてみたいと。アルバム全体にそのテーマがあったわけではないんですけど。

川辺(素/vo,g)さんとは、ギター・フレーズについて話し合うことはありましたか?

 ギターに関しては僕が考えていくので、制作の段階ではなかったですね。川辺にもギターを弾いてもらう曲で、レコーディング時に“こう弾いてほしい”と伝えることはありましたけど。ただ、今回はわりとメンバー全員が、それぞれのやることに対してあまり意見は出さずして終わりました。

言葉なくしてできあがっていったと。ミツメはずっとそうなんでしょうか?

 普段のようにセッションで曲を作っていく中でも、言葉にして方向性を確認し合うことはあまりないですね。でも集まると“ここはこうしたほうがいいんじゃない?”ってことはその場で言いやすいし、事実多少は言っていましたが。ただ、曲作りの段階でほとんど何も言わないっていうのは今回が初めてかもしれないです。例えばデモに対してドラムの録音が上がってきたらまずはそのまま全部活かしたうえで、どう重ねるかを考える、という感じで。

10年以上バンドをやっていく中で蓄積された信頼ゆえに可能なことなのかもしれませんね。ということは暗黙の了解というか、“こういうことは禁止”みたいな、ミツメにおける不文律ができあがっていると思うんです。それをあえて言葉にするなら?

 全員が意識してるものかはわからないですが、すでにある完成形とかフォーマットにはまらないようにする、というのはひとつあるかもしれないですね。

すでにある完成形というと?

 すでに様式として完成されてるアンサンブルというか……フレーズにしても、定型文になってるものがあると思うんですよね。そういうのはなるべくやめようという。

なるほど。そう考えると、「メッセージ」は展開ごとのフレーズの変化に富んでますね。

 そうですね。これは最初のほうに作った曲だから、ということも大きいんですけど。まだどういうアルバムになるのか、全体像が全然見えてない段階だったから。

挑戦できる段階にあったと。イントロの空気感も独特ですが、何かモチーフにしたものがあったんですか?

 ギターのアレンジ自体は違いますが、構成のイメージとしてはプログレ的というか、場面ごとに雰囲気が違う感じにしたいなと。そこでこの曲は場面ごとにアレンジを練っていって。

ラストのサビのあと、歌に絡み合いながら増えていくギター・フレーズも印象的でした。ここはどういう風に作っていったんですか?

 そこはけっこう紆余曲折があって、何回もアレンジし直しました。この曲は拍の取り方とかも試行錯誤していて。6/8から4/4に戻ったりとか、場面でリズムの感じが変わっていく展開の中で、曲として1本筋が通る状態にするにはどうしたらいいか? と考えて。で、サビではループ的なフレーズを弾いているんですが、さらにリード・ギターだけは場面が切り替わっていく中で、一連のつながったメロディを歌の裏で弾くということをしました。

ループ的に鳴らすっていうのは「システム」のアルペジオにも感じました。

 「システム」もそうですね。よくやってるやり方かもしれません。例えば曲がAメロ、Bメロ、サビという歌モノ的な構成だと、ミニマルな印象をギターで出すことが多くて。ミニマルってことを考えると「システム」と「メッセージ」でアプローチの違いはありますが。反復することによるミニマルと、アンサンブルとしてのミニマルというか。

「ダンス」1曲のために
ファズ・ファクトリーを導入。

アンサンブルのミニマルさと言う点では、今作はギターの多重録音している割にはスッキリとした聴感でした。

 ギターに関して言うと、今回はエフェクターもあまり使いませんでした。ディレイやモジュレーション系もあまり使用せず。それも素朴な感じに結びついてるのかもしれません。

「リピート」など、コード・バッキングのサウンドはすこしエアリーな感じですよね。ギター・サウンドの方向性は何かありましたか?

 全体としてひとつの方向を向いているかはわからないですが、ギターの音作りとしてはなるべく音色のバリエーションを少なくしようとは思いました。アンプやエフェクターでのサウンドメイクではなく、フレーズ、ハーモニー、弾き方のニュアンスとか、強弱だったり……そういうところで違いをつけようと。

なるほど。少ない音色の中でも「ダンス」ではファズのギター・ソロが一際目立ちますね。ただ、一般的にファズは攻撃性の強いイメージがあると思うのですが、ミツメの楽曲にあると独特の響きが生まれています。大竹さんはファズの使い方で何か考えていることはありますか?

 これまでミツメでは、ファズまでいくような歪みはほとんど使ってこなかったんです。「ダンス」は間奏部分が珍しく長く取ってあったので、ここに何か入れないとちょっと物足りないなと。その段階での雰囲気としてはきれいにまとまりすぎている感じもあり、ちょっと異物感のあるものを入れたかった。それでファズを選びました。周りが軽やかな演奏をしている中で急にファズ・ギターが入ってきたら、違和感があっておもしろいんじゃないかと。実験として入れてみたら、すごくハマりましたね。

ファズは何のペダルを?

 ファズ・ファクトリーですね。実は「ダンス」のために入手したんです(笑)。

1曲のためにファズ・ファクトリーを買ったんですね(笑)。

 (笑)。音作りの幅が広いペダルを探していたんです。これはパラメーターの幅も広いし、ブチブチしたサウンドや、サステインが残らないサウンドにできる点も気に入って買いました。でも、レコーディングの時に出した音がなかなか再現できないのですが(笑)。

(笑)。アンプは何を?

 VOXのAC30です。2nd(『eye』)の頃からずっとそうですね。

では、最後にギタリストとして今後の目標を聞かせて下さい。

 プレイヤーとしてこうなりたいというより、良い作品を作りたいって気持ちのほうが強いですね。ギターに限らず、おもしろい音を残せればいいかなと。ただ、ずっとギターをやってきたこともあるので、引き続きもう少しギターと向き合っていこうと思います。

Mao’s Guitar

1966 Fender Mustang

1966 Fender Mustang

大竹のメインは4~5年前に入手したという1966年製フェンダー・ムスタング。今作でも本器が活躍した。ピックアップは3ポジションを満遍なく使用するという。フェイズ・スイッチは使わない。ちなみに、4/13発売予定のギター・マガジン2021年5月号“ムスタング特集”では本器が登場予定。お楽しみに!

Mao’s Pedalboard

Mao’s Pedalboard

【Pedal List】
①TC Electronic/Polytune(チューナー)
②MXR/Phase 95(フェイザー)
③BOSS/PS-5(ピッチ・シフター)
④Electro-Harmonix/Micro Q-Tron(エンベロープ・フィルター)
⑤BOSS/CS-3(コンプレッサー)
⑥Z.Vex/Box Of Rock(オーバードライブ)
⑦Z.Vex/Fuzz Factory(ファズ)
⑧Maxon/CS-550(コーラス)
⑨Strymon/Volante(ディレイ)
⑩TC Electronic/Hall Of Fame 2(リバーブ)
⑪DigiTech/Digiverb(リバーブ)
⑫Xotic/EP Booster(ブースター)
⑬One Control/Gecko MKⅢ(MIDIコントローラー)

大竹がライブ/レコーディングで使用するメインのペダルボード。接続順はすべて直列で①~⑫のとおりだ。歪みは愛用アンプVOX AC30で作り、歪み量を増やしたい時などは⑥をオン。ツマミはすべて12時前後に設定することが多い。が、DRIVEツマミだけ曲によって調整する(ツマミをプロペラ型に付け替えており、大竹はこれを足で操作するそう!)。より歪みが欲しい時は⑫を踏む。⑤は踏みっぱなしにすることも多々あり。今作「リピート」では常時オンにしたという。一番気に入っているペダルはディレイ⑨。タップ機能や音価を指定できることに加え、テープ・エコーのシミュレートの音が気に入っているそう。

ライブ専用で活躍するボード。

【Pedal List】
①MASF Pedals/Raptio(グリッチ/ホールド)
②Chase Bliss Audio/Mood(グラニュラー)
③Chase Bliss Audio/Blooper(ルーパー)
④The Montreal Assembly/Count to 5(ピッチシフター/ディレイ/ルーパー)

こちらはライブ専用で活躍するボード。ペダルは①~④の順で接続され、ボードごと前写真の①(TC Electronic/Polytune)と②(MXR/Phase 95)の間に接続する。個性的なサウンドを作り出すこれら4つのいわば変態ペダルは、当初ライブのために用意されたものではなく“単純におもしろそうだったから買った”という。そうして遊びで使っているうちにライブ使用をしたくなり、ボードを組むにいたったというわけだ。ライブではテンポフリーになる場面などで使うそうだが、それぞれのペダルの用途は特に決まっていないそう。

作品データ

『VI』 ミツメ

『VI』 ミツメ

スペースシャワー/PECF-1183/2021年3月24日リリース

―Track List―

[DISC1]
01.Intro
02. フィクション
03. 変身
04. ダンス
05. 睡魔
06. メッセージ
07. システム
08. VIDEO
09. リピート
10. コンタクト
11. Interlude
12. トニック・ラブ

[DISC2]
01. Intro
02. フィクション(instrumental)
03. 変身(instrumental)
04. ダンス(instrumental)
05. 睡魔(instrumental)
06. メッセージ(instrumental)
07. システム(instrumental)
08. VIDEO(instrumental)
09. リピート(instrumental)
10. コンタクト(instrumental)
11. Interlude
12. トニック・ラブ(instrumental)

―Guitarists―

大竹雅生、川辺素