Interview|ベン・ギバード(Death Cab For Cutie)愛器ムスタングへの想い。 Interview|ベン・ギバード(Death Cab For Cutie)愛器ムスタングへの想い。

Interview|ベン・ギバード(Death Cab For Cutie)
愛器ムスタングへの想い。

Death Cab For Cutieのフロントマン、ベン・ギバードのシグネチャー・モデルがフェンダーから発売された。彼は70年代製ムスタングを数本所有しているが、どの個体もコントロール極限までシンプルに削ぎ落としているのが彼のこだわりポイント。今回リリースされたBen Gibbard Mustangはそれらと同様のスペックを持ちながら、さらにフェンダーのアイディアとしてロータリー式のピックアップ・セレクターをトーン・ノブが担うという改良も加えられた。ベンの夢だったというこのシグネチャー・モデルに掛けた想い、そして彼がギターに求めることについて、本人の言葉から探っていこう。

質問作成=福崎敬太 協力=フェンダーミュージック

ベン・ギバード・ムスタング

ヘッドの裏に自分のサインが入っているのを見た時は最高の気分だったよ!

あなたのトレードマークとも言えるムスタングが、フェンダーからシグネチャー・モデルとしてリリースされました。まずはあなたがムスタングを使う理由を教えて下さい。

 僕がムスタングを選んだのは、もともとシングルコイル・ピックアップの音が好きだったからなんだ。バンドでは、たいてい片方がハムバッカー、もう片方がシングルコイルを使っているけど、単音でアルペジオを弾く僕のスタイルにはシングルコイルのほうがいいと思ったんだよ。それから、指板上を素早く移動できるネックのサイズ感もすごく気に入っている。これは、活動初期にフェンダーのバレットを弾いていた時から思っていて、僕にとってとても重要なことなんだよ。

シグネチャー・モデルを作ることになった時の率直な感想は?

 “夢が叶った”と言っても過言ではないよ! フェンダーのストラトキャスターやテレキャスターは、僕の青春時代に欠かせないギターで、MTVやいろんなレコード・ジャケットでも目にしていたからね。僕は、父が暖炉に立て掛けていたナイロン弦のギターで、ビートルズの本からコードを学ぶところからギターを始めるんだけど、その頃から自分のストラトキャスターを持つことが夢だったんだ。ただ、当時は本物のストラトキャスターを買う余裕がなかったから、結局はコピー・モデルを買って何年も弾いていた。そんな自分がフェンダーのシグネチャー・ギターを持つ時がくるとはね……! 自分自身が本当に好きなギターを持って人前で演奏できることを楽しみにしている。本当に最高の気分だよ!

完成したBen Gibbard Mustangと対面した瞬間はどう感じましたか?

 一番不思議に感じたのは、ギターの裏に自分のサインがあるのを見た時だよ。このプロジェクトのために3〜4年前から開発途中のギターを使い始めてきたんだけど、ヘッドストックに自分のサインがあるのを見て、とてもリアルに感じたんだ。このプロジェクトの完成を目の当たりにして、“本当に実現したんだ!”という気持ちになった。別に疑っていたわけではないけど、“ああ、自分のギターが本当にできるんだ”という感じというか。とにかく、ギターのデザイン、そして裏に自分のサインが入っているのを見た時は最高の気分だったよ!

ヘッド裏には“Ben Gibbard”のサインがプリントされている。

フェンダー側に出した要望や、開発でどのようなディスカッションがされたかを聞かせて下さい。

 僕がリクエストしたことのほとんどがギターに反映されたよ。まず僕は、メイプル指板が好きだからそうしてもらった。もちろん好みは人それぞれだと思うけど、メイプルのほうが見た目が良いと思うんだよね。ほかには、自分のムスタングを計測のためにフェンダーに送った時、“シグネチャー・モデルの音をこういうサウンドにしてほしい”というシンプルな指示を出しただけで、彼らはとても良い仕事をしてくれた。50年以上もの間、煙たいバーで鳴らされ続けたピックアップのビンテージ・トーンを再現するのは事実上不可能だけど、僕が以前からステージで演奏してきたモディファイド・ムスタングと比較して、このシグネチャー・モデルのサウンドがどれほど近くて忠実であるかは驚きだよ。

ピックアップは専用にカスタマイズされたものですが、サウンドはどのようなものですか?

 本当にレスポンスがいいんだ。楽器のダイナミクスをしっかりとコントロールできるプレイヤーで構成されたバンドで演奏すると、このギターの楽しさが本当によくわかるよ。小音量でも切れ味が良くて、表現力に優れている。それに非常に温かみのあるトーンを維持してくれるんだ。時には、ギターでダイナミックに演奏したいと思ってもうまくいかないことがあるけど、このギターはそれを実現してくれるよ。

“何かに機能を追加することでそれがより良くなる”という考え方が好きじゃないんだ。

その言葉どおり、あなたの1970年代製のムスタングもスイッチ類を極限まで削ぎ落としたシンプルなコントロールが特徴です。このシンプルさに対してのこだわりを聞かせて下さい。

 そのポイントについて聞いてくれて嬉しいよ。僕は、音楽や楽器だけでなく、一般的にも人生においても、“何かに機能を追加することでそれがより良くなる”という考え方が好きじゃないんだ。例えば、僕はトレイルランナーやウルトラ・ランナーとして、自分の靴にとても愛着を持っているんだけど、それは自分の足にフィットしているからで。でも、そのシューズを作っている会社は“新しいシューズができました”と言えるように、その靴に何か違いを加える。企業や会社は、モノを売らなければ存続できないからね。だけど僕としては、自分の足に馴染んでいたもとの靴の機能が欲しいだけなんだ。だから、このギターでは、“最初から不要と思われるものをできるだけ取り除いていく”ということを成し遂げたかったんだ。

今回、オリジナルのムスタングからは、ピックアップのスイッチとトーン・コントロール、トレモロ・ユニットが取り除かれていますね。

 ピックアップの極性スイッチを使っている人はいると思うけど、僕は今まで使っている人に出会ったことがないし、自分自身が便利だと思ったことも一度もなかったから、はずしたかったんだ。それとトーン・コントロール。スタジオでギターを使う時にはトーン・ノブは凄く大事だと思うけど、僕のシグネチャー・モデルとしては特にトーンは必要なかった。僕は常にトーンは全開にしているし、ステージ上で意図的にトーンを調整したことは一度もないからね。誤って手がぶつかって設定が変わってしまうことはあるかもしれないけど。

そのトーン・コントロールはピックアップ・セレクターなんですよね?

 トーン・ノブをピックアップ・スイッチにするというアイデアを思いついたのはフェンダーのデザイナーで、それを提案された時には“おぉ! 凄く良いじゃないか!”と思ったよ。このアイディアは、僕の友人であるムスタング・ファンがお気に入りの機能だって言ってくれてとてもうれしかったね。

“TONE”と書かれているノブは、ピックアップ・セレクト用のロータリー・スイッチ。

あなたの1970年代製ムスタング同様、ハードテイル仕様というのもポイントですね。

 僕はフローティング・ブリッジをライブで使用したことがないから、今回は取りはずしてハードテイル仕様にしたんだ。僕はできるだけチューニングを維持できるギターが欲しかったんだけど、フローティング・ブリッジではそれが難しかった。僕がこのギターに求めたのは、“3~4曲続けて演奏してもチューニングが狂う心配がなく、別のギターを用意する必要がない”ということだったんだ。今のところ、このギターはそのテストに見事に合格しているよ。

実は子供の頃、日本に4年間住んでいたんだ。
世界のどこよりも行くのを楽しみにしている場所。

最新作『The Georgia E.P.』は温かみのある素晴らしい作品でした。ギター・サウンドはどのようなものになったと感じていますか?

 すべて自分たちで録音したから、僕のも含めてメンバーの音は“手作りの音”だよ。このEPは、各自のホーム・スタジオでリモートで制作したんだ。自分の機材しかなかったから、自然と“お気に入りのペダルは何だろう? お気に入りのギターは何だろう? お気に入りのアンプは?”って機材を選んだから、このEPで使っている音色は、自分にとっての自然な音色になったと感じている。

『The Georgia E.P.』では、どの曲でムスタングを使いましたか?

 「Waterfalls」で使ったね。2コーラス目に僕のギターが入ってきて、ちょっとしたアルペジオのようなラインになっているところだよ。あとは「Metal Heart」でもムスタングを弾いている。

レコーディングの時、ムスタングでのサウンドメイクで気をつけていることは何ですか?

 僕たちがミネアポリスの会場で長い間演奏していた時、かなり深刻なRFノイズの問題を抱えてたんだ。シングルコイルのギターはRFノイズに本当に弱くて、聴くに耐えないサウンドになってしまう。だから、ムスタングを使う時は常にRFノイズに注意しなければならない。これは僕にもよくわからないことで、いつ起こるかも予想できないから、それに合わせて調整しなければならない。気をつけているのはそれくらいかな。

Ben Gibbard Mustangのもとになった個体のほかに、ホワイト・ピックガードのものとサンバーストのムスタングを使っていますが、それぞれどのように使い分けているのですか?

 僕は70年代のビンテージ・ムスタングをいくつも持っているんだ。ツアーの時を除けば、これらのギターのどれを渡されても同じようにプレイできるよ。ただ、それぞれ少しずつ違っていて、サンバーストの個体が少しグランジな感じがするから、「Crooked Teeth」のようなダウン・ストロークが多い曲で使うね。少し膨らみがあって、少し暗い感じがするんだ。コードを多用したり、大きな音程を演奏したりする曲に使うよ。それから、白いピックガードの黄色いムスタングがあるんだけど、これはとても明瞭なサウンドが特徴で、アルペジオのパートにとても適しているんだ。このギターは、とても繊細でかわいらしい曲で使うようにしている。これらのギターは、ちょっとした音の違いがわかるような特定の曲に使うギターだよ。

さて、新しいBen Gibbard ムスタングはどのようなギタリストにオススメでしょうか?

 このギターは、バンドのフロントマンや、歌いながらギターを弾く人にぴったりのギターだと思うよ。オリジナルのムスタングからの改造において、僕個人が演奏したりギターを弾いたりする時に“いらない”と思ったものを省いたからね。だから、ソニック・ユースのトリビュート・バンドを始めようとしている人には向かないギターだけど、シンガーソングライターやバンドのフロントマンで、長時間チューニングを維持できて、存在感のある音を出したい人には向いていると思うよ。

最後に、日本のデス・キャブ・フォー・キューティー・ファンにメッセージをお願いします!

 日本に戻るのが待ち遠しいよ! 実は子供の頃、日本に4年間住んでいたんだ。父が軍に駐留していたからね。僕の最も古い記憶は、2歳か3歳の頃のことで、基地のそとの日本人居住区に住んでいたんだよ。だから、“帰国”するたびに、以前ここに来たことがあるようなノスタルジックな感覚に陥ったり、記憶が蘇ったりする。だから、世界のどこよりも行くのを楽しみにしている場所だし、状況が改善して安全に戻れるようになるのを願っているよ。

Fender
Ben Gibbard Mustang®

【スペック】
Series:Artist
Body Material:Chambered Ash
Body Finish:Gloss Polyester
Neck:Maple, Modern “C”
Neck Finish:Gloss Urethane
Fingerboard:Maple, 9.5” (241 mm)
Frets:22, Medium Jumbo
Position Inlays:Black Dot (Maple)
Nut (Material/Width):Synthetic Bone, 1.650” (42 mm)
Tuning Machines:Vintage-Style with Fender Logo
Scale Length:24” (610 mm)
Bridge:6-Saddle Vintage-Style Mustang Tremolo
Pickguard:3-Ply Black/White/Black
Pickups:Vintage-Style Single-Coil Mustang® (Bridge), (Middle), Vintage-Style Single-Coil Mustang® (Neck)
Pickup Switching:3-Position Rotary:Position 1. Neck Pickup (Full Clockwise), Position 2. Bridge and Neck Pickups (Middle), Position 3. Bridge Pickup (Full Counterclockwise)
Controls:Master Volume
Control Knobs:Black Plastic
Hardware Finish:Nickel/Chrome
Strings:Fender® USA 250L Nickel Plated Steel (.009-.042 Gauges), PN 0730250403
Case/Gig Bag:Gig Bag

【価格】
140,000円(税抜)

【問い合わせ】
フェンダーミュージック TEL:0120-1946-60 http://fender.co.jp