ギター・マガジン2026年6月号の表紙・巻頭特集は、5年ぶりとなるケヴィン・シールズ(マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン)! 2月に行なわれた来日公演のタイミングでのケヴィン・シールズへの対面インタビューやライブ機材の解説から、彼の音作りの秘密に迫った。今回ギター・マガジンWEBでは、取材&機材解説を担当した村田善行とギタマガWEB編集部の小林による振り返りインタビューを実施。誌面には収まりきらなかった裏話を公開しよう。2026年6月号を読んでから本記事を読み進めてください!
取材・文=小林弘昂

ギター・マガジン2026年6月号
my bloody valentine
ケヴィン・シールズが描く恍惚のシューゲイザー・サウンド
2026年5月13日(水)発売
とにかく音源どおりのバランスで
事を運びたいわけですよ。
今回の取材をとおしてケヴィンの音作りについて判明したことがたくさんあったんですが、誌面はページ数が限られているので、解説がところどころカットされてしまったんですよね。なのでギタマガWEBで情報を補完しようかなと思い、この記事を作ることにしました。まず、村田さんが今回のマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン(以下、mbv)のライブを観た第一印象は?
村田 前回、mbvを観たのがDOMMUNE主催の国際フォーラムでのライブだったんですよ。
2013年で相対性理論が出演していた時ですね(DOMMUNE LIVE PREMIUM Presents「My Bloody Valentine – World Premium Live “NEW TRACKS” with 相対性理論」)。
そうそう。あの時は“音がすごくデカいぞ”と言われていたんですけど、大きかったのは「you made me realize」のノイズ・ピットのところだけで、ほかは全然落ち着いていましたね。ホールってデッドな響きだから、“聴きやすくて良かったな”という感じだったんです。
そうだったんですか。
椅子に座っていたからライブを冷静に観ちゃったという。今回のライブは音源にかなり忠実にやろうとしている感じがすごく良かったですね。mbvの音源ってパンパンな音圧ではないじゃないですか?
そうですね。けっこう抑えられています。
音やギターはギッチリ入っているけど、スカスカしている部分もあって、ライブでもそういう風に聴かせたいというケヴィンの意思がそのまま出ていたから、すごく良かったなと思います。
それは2013年のライブにはなかったという。
なかったと思うな〜。
ケヴィンが今回のインタビューでも話していたとおり、新しいPAエンジニアの採用や機材の導入が大きいんでしょうか?
そうじゃないですかね。ケヴィンは“サウンドマンに外音のバランスを握らせているけど、勝手なことはさせない”みたいなことを言っていたじゃないですか? とにかく音源どおりのバランスで事を運びたいわけですよ。綿密に作られた音源があるのに、“ライブではただ音がデカいだけ”と言われるのも嫌だし、自分がいちいち音量を上げたり下げたりして外音のバランスが悪くなるのも嫌だから、サウンドマンと打ち合わせして揃えたという。
だからあれは、中音が下がったからできたことなんだろうなっていう感じ。外音の音量を下げてもステージで鳴っちゃっていて、それ以上は下げられないみたいなことって、爆音バンドだとあるあるですよね。PA側ではもう何をやっても変わらないですよと。
そうですね(笑)。
それがないということは、中音をコントロールしやすい音量まで下げて、外音でダイナミクスを再現したんでしょうね。ケヴィンはドラムのトリガーに合わせてギターにコンプをかけたり、そういうレコーディングの手法もライブで取り入れていて、それがモロに音に出ていたかな。お客さんがスマホで録ってYouTubeに上げた映像を観てもそういう印象でしたよ。曲によってドラムの音量も全然違ったし、音源を聴いていた人にとっては、むしろ良かったんじゃないかな。
アーティストによっては音源とライブは別物だと分ける人も多いですが、ケヴィンにとっては音源こそが理想のサウンドで、それをライブでも再現したいと。
そうですよ。“オレはこういう風にやったんだから、同じように聴かせてくれよ”みたいな。たぶん自分が客としてライブを観に行ったら、音源と全然違うように聴こえるのは嫌なんでしょうね。“音源はあんなに良かったのにライブはイマイチだ”なんて思われたくないし、自分も思いたくないという感じがあるんだろうな。
そこに完璧主義が表われているという。
あれは相当ですよ。ケヴィンは機材のことに関して何を聞いてもすぐに答えてくれたじゃないですか? たぶん値段や、いつどこで買ったかまで覚えてるんじゃないのっていうくらい全部頭に入っていたし、“あの曲ではこれを使っている”って、あんなに機材があるのにすぐ出てくるのは相当だなって(笑)。
“ライブでそれをやるんだ!”みたいな
執念の塊みたいなステージだった。
今回のケヴィンのインタビューで一番印象に残ったのは、“サグ(SAG)”というワードがたくさん出てきたことなんですよ。サグって、いわゆるシューゲイザーをやっている人が気にするようなところではないと思うんですね(笑)。
そうだね(笑)。僕は逆に胸のつかえが取れたというか。僕たちって楽器を扱っているから、音を磨いていこうとするじゃないですか? そうすると“このアンプにはこのスピーカー・ケーブルが良いよ”とか、こだわりが出てきちゃうんです。だけどそんなに大した差はない。そんな世界ですよね?
自分以外の人にはあまり理解されないところですね。
今回けっこう感激したんですけど、ケヴィンの全部のアンプのスピーカー・ケーブルが違っていたり、“やっぱりPete Cornishのケーブルをこのアンプに使うんだな”みたいなことがわかって、すごく嬉しかった。“やっぱりそうだよね!”みたいな。よくある“Beldenのウミヘビ(9497)を使ってたらいいや”みたいな感じではなかったですね。
ウミヘビは大音量だったら良いんですけど、小さい音のマーシャル・アンプで使うとカスカスになると思っていて。でもPete Cornishのスピーカー・ケーブルは、アンプの音量が下がっていても、ある程度ローが出るというイメージがあって、“僕も絶対そうするな”というところが合致してすごく嬉しかった。キャビネットの使い分けもそうだし、サグに関してもそうですね。
隅々まで自分でこだわっていて、本物の機材オタクでしたね。Stand Alone X AnaloguetubeのLove Bomb(プリアンプ)も導入していて驚きました。
ウチのお店でもLove Bombを売っていたんですけど、“こんなものに20万円払う人はいないよ”と、日本だけじゃなく世界中で言われていたんです。だけど僕は、“これはすごく役に立つな”と思っていたんですね。
例えばRECでよく使われるUreiのコンプって100万円とか200万円とかするけど、“絶対にこれじゃないとダメだ!”って言う人がいるじゃないですか? それがないと成り立たないわけじゃないけど、あると全然違うものですよね。その観点から言うと、Love Bombに20万円払うのは全然良いと思っているんです。だからケヴィンが僕らと同じことを言っていたのが感動的だったというか(笑)。
なるほど。
“Love Bombは何のために使ってるんですか?”と聞いたら“サグのため”と答えていて、“ですよね!”と。ケヴィンは、“ボリュームを上げればアンプのサグが出るけど、マーシャル1959を小さいボリュームで鳴らすとサグが出ないから、Love Bombを入れることによって整流管が入っていた時代のJTM45の音になる”と言っていて、まさにそのとおりなんですよ。
レコーディングだったらまだわかるんです。でも、“ライブでそれをやるんだ!”みたいな執念の塊みたいなステージだったから、そこにまず感動しましたね。
そんな人いないですよね。
いないと思う。そもそも、たくさんのスタッフがツアーに同行しないと無理だし。たとえスタッフが優秀だとしても、あれだけの機材を全部認識して、“どのアンプからどのエフェクターの音が出ているか”まで自分でわかっているのは半端じゃない。
ケヴィンは1曲の中で鳴らすアンプやエフェクターを何台も変えているじゃないですか? そういう組み合わせを試すだけでも疲れるというか、何回フル・セットのリハーサルをやらなきゃいけないんだと、想像するだけで大変です。
そう。あと、“レコーディングした時の機材の組み合わせを覚えてるの?”っていうね。数年前にようやくラックの中に何のペダルが入っているのかがわかったけど、それらをどう使っているのかまでは明らかになっていなかったじゃないですか。
そうですね。2021年の特集号でタテミツヲさんや黒田隆憲さんから写真をお借りしてラックの中身が判明しました。
ケヴィンに聞いたら、“この曲のレコーディングではこのペダルをこういういう順番でつないでいたから、その組み合わせは崩せない”と言っていて、それが1曲分の1セットだと(笑)。だから10曲あったら10セット必要という。でも基本は、リバーブとファズとトレモロがあればいいんだろうなというのがよくわかりました。
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ギター・マガジン2021年6月号
表紙:ケヴィン・シールズ(マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン)
全部削ぎ落としていくと
普通の音なんですよ。
今回のインタビューでは、ケヴィンの音作りの核となっている機材がわかりましたよね。ストレートな音が欲しいということで、まずはVOXのアンプだと。しかもダブラーのエフェクターを使って2台のVOXアンプを同時に鳴らすことが重要だったんですよね。
例えばRoyerのR121(リボン)とShureのSM57(ダイナミック)をアンプに立てて、“ボンッ”っていう音と“ジャリッ”とした音を同時に録るのはレコーディングの大定番じゃないですか? それがライブになるとSM57が1本で、みんなは“それはしょうがないじゃん”と言いますよね。でもケヴィンはそれを全部ちゃんとやっていて、アンプに立てているマイクも全部違っていた。
そういうことを考えつつも、その核になっているのはVOXだったと。しかもVOXをダブルで鳴らしているんだけど、自分でダブル・トラックは録れないから、ダブラーで遅らせて2台鳴らしているという。
ダブラーを使う人、今ではほとんど見かけませんよね。
bloodthirsty butchersの吉村(秀樹)さんは、常にアンプを2台鳴らしていたんですよ。アナログ・ディレイを超ショート・ディレイに設定してダブリングみたいなことをしていたこともあるし、異なるアンプ同士でステレオ/パンしていたこともあった。そうやってトリオ時代は3人でも音に厚みを出していましたね。田渕ひさ子さんが加入してからは、片方のアンプのオンとミュートを切り替えたりしてダイナミクスをつけていたと思う。ケヴィンは、それのハイパー拡張版みたいな感じだなと思いました。
あとはAC15でもあの規模のライブができるんだとも思ったし、そういう意味では考えを刷新させてもらいましたね。もうヘヴィな音を出すのにマーシャルのデカいアンプはいらないなと。もちろんあるのはいいんだけど、今のケヴィンは歌をちゃんと聴かせたいし、音源どおりにやりたいからそうしていて、VOXが核になっているということを聞けただけでもすごく良かったな。
しかもVOXにはほとんどエフェクターを使っていない、かなりドライなサウンドだったというのが驚きでした。「when you sleep」や「you made me realize」のバッキングがすごく良い音でしたし。
あれがケヴィンの音でしたね。僕も小林君もVOXアンプが好きで、あの音のコアの部分がわかるから“VOX良いよ!”って言うんだけど、ドライでストレートだから、多くの人は“ちょっとこれだけだと寂しいな”となりがちで。だからMatchlessみたいにローが出ていたほうがいいとか、Divided by 13みたいに上が出ているほうがいいと言うんだけど、ケヴィンはMatchlessやBad Catではダメだと言っていたじゃないですか? つまりケヴィンはクラシックのセオリーからははずさず、ほかのものではずしていくんです。
肝にあるのはイギリスの音楽で、例えばスペースマン3の(VOX)Repeat Percussionのトレモロの音。そこにケヴィンらしいリバース・リバーブとかのレイヤーを付けることによって、何かすごいものを作っているんだけど、全部削ぎ落としていくと普通の音なんですよ。それがわかってホッとしたというか(笑)。ケヴィンって“とんでもない人だ”みたいに言われているでしょう?
かなりのパブリック・イメージができあがっていますよね(笑)。
実はVOXアンプがあればいいんだよっていう。
5年前の特集と今回の特集で、
だいぶケヴィン・シールズのことが理解できる。
それと今はリバース・リバーブもそこまで重要ではないのではと思ったんです。
そうですね。割り切っちゃってる。“この間、新しいデジタル・デバイスを試してみたよ”とか、“『loveless』はデジタルで作ったアルバムだから、今後はあのサウンドをデジタルで再現できればいい”という発言が、“すごく柔軟だな!”って思いました。
僕たちからするとケヴィンは病的に音を作っている人だとイメージするんですけど、こだわっている部分がみんなの想像と違っていましたね。彼の真ん中にあるのはVOXの“ジャリーン”っていうベル・クリーンで、サグがあって、サチュレーションしている音。すごく普通のことを言っていますよね。
紐解いていくとロック・サウンドなんだなと思いました。
ケヴィンの新しいスタジオが、ビーチ・ボーイズの『Pet Sounds』を録ったスタジオと同じサイズだと言っていたじゃないですか? ケヴィンの口から『Pet Sounds』が出てくるとは誰も思わないですよね(笑)。
サウンド的視点で『Pet Sounds』とmbvをつなごうとは思いません(笑)。
ケヴィンはそういう良い音楽が好きでやっているんでしょうね。自分なりにやるとああなるけど、本人的には全然変わった音楽をやっているつもりはない。普通に良い音楽をやろうとしていて、ちょっと手法がこじれているだけなんだなと(笑)。だから逆に、なんで今までのインタビューでそういう話にならなかったのかなと思ったくらい。
2021年のインタビューは、あくまでも“過去の発見”が話題の中心で。
そうですよね。
その中でリバース・リバーブやジャズマスター、VOX Tone Benderについても語っていますけど、ライブでの音作りに関する詳しい発言は今回が初めてなんじゃないかなと思います。
それだけのインタビューの中で話題に出なかったことのほうが驚きだけど、それくらい語ることが多いというわけですね。だから5年前の特集と今回の特集で、だいぶケヴィン・シールズのことが理解できるんじゃないかな。
この2冊があれば、かなり詳しくなれると思います。
相当だと思う。翻訳して世界中で出すべきですよ。mbvファンの方って、けっこうこじらせてるじゃないですか?
今回のライブでもずっと“Louder!”って叫んでる人がいましたね(笑)。
そのこじらせ感が逆にケヴィンを神格化させてしまったのではと思っていて。実際にケヴィンと話したら、普段ウチのお店に来ているお客さんとあまり変わらなかったというか、“そこはこだわりたいよね”っていうところが一緒だったんですよ。ちゃんとしたギア・コレクターというか、“音に対して向き合っている人はみんなそう思うよね”っていうことを、ただやっているだけ。
だから今回のライブの音量が小さいからってガッカリもしなかったし、むしろ“ちゃんと聴かせてくれてありがたいっす!”と思いましたよ。僕は『m b v 』が一番好きだから、「wonder 2」とかの曲をそのままやってくれたのが良くて。もちろん『loveless』の曲も良かったんだけど、本人たち的には新しい曲が一番しっくりきていたじゃないですか。その感じが良かったなと。
若い人たちは、“あのmbvだ! あの『loveless』だ!”という期待感を持ってライブに来ていたと思うんですけど、僕たちからすると「only tomorrow」とかの『m b v』の楽曲のサウンドが素晴らしかったですよね。
そうだね。「only tomorrow」は超良かったですよ。古い曲をやる時にわざとドラムを大きいミックスにしてくれていて、それは昔のファンの人も“良いな”と感じていたんじゃないかなと僕は思ったけど、ライブに来ていた知り合いに感想を聞いてみたら、ちょっと違ったみたい(笑)。だからみんなそれぞれ好きなところは違うけど、僕らは幸いにも本人とお話させてもらったので、ケヴィンのやりたいことがそのまま出ているライブだなと思えましたね。
「Nothing Much To Lose」のドラムがすごく大きくて、会場は盛り上がっていましたけど、いろんな反応があったんですね。
ケヴィンたちは、もちろん楽しんでやっていましたけどね。だから近年のアルバムの曲をああいう風に演奏してくれるライブを、観ているほうももっと楽しめれば良かったのにな、という感じはしたかな。今なら高度な『loveless』再現ライブもできますよね。
たしかに。
新しいPAの人がいれば大丈夫ですよね。でも個人的には次作に期待しちゃいます。“これはやっぱりVOXアンプを使ってるんだな”とか思いながらmbvを聴こうと思ったことはないので(笑)。どういう感じの曲になるのかな?
今のモードで作られる新曲が気になりますよね。
もしかしたら普通にバランス良く聴こえて、ただの良いバンドになっちゃうかもしれないし、下手すればリバース・リバーブすらも使わない気もするし。でも、まだまだmbvはやれるんだという感じはありますよね。新しいことも試しているみたいだし。
意外にも、ケヴィンは以前Quad Cortexを試してみたそうですね。
ね。ぜひ新作で取り入れてほしいな。U2のジ・エッジはもともとすごくデカいシステムを使っていたのに、ある時からFractal AudioのAxe-Fxが8台とかになって、ガッカリした人もいたんですよ。でも彼ら的にはライブで音源みたいに聴かせられるし、360°ステージでも良い音が出せるメリットがあるんでしょうね。メタリカもそう。
だからもしmbvのライブでステージ上にアンプがなかったらガッカリするのかもしれないけど、やっぱり基本的には曲が良くてライブを観に行っているので、曲が音源と同じイメージで聴ければそれが一番良いんじゃないかなと思いました。デジタルをどんどん取り込んで、本来やろうと思っていたことが明確に出てくれたほうが、観ている側も楽しいんじゃないかな。そういう発言も含めて、“ケヴィン・シールズ、まだまだいろんなことやってくれそうだな”と思いましたね。
続きは5月23日(土)と24日(日)に有料会員限定記事にて公開!
村田善行 Profile

むらた・よしゆき/東京・渋谷の楽器店Hoochie’sに在籍し、そのかたわら専門誌などでライター業や製品デモも行なう。新製品やビンテージを問わず、ギター、ペダル、アンプに関する確かな知識と経験に基づいた機材レビューの的確さは高い評価を得ている。

ギター・マガジン2026年6月号
my bloody valentine
ケヴィン・シールズが描く恍惚のシューゲイザー・サウンド
2026年5月13日(水)発売
