2026年1月に、約5年ぶりとなる9枚目のアルバム『Selling A Vibe』をリリースしたザ・クリブス(The Cribs)。ビヨンセ、MGMT、リル・ヨッティなど、おもにポップ・アーティストとの仕事で知られるパトリック・ウィンバリー(ex.チェアリフト)をプロデューサーに迎えて制作された本作は、これまでのロック然としたアレンジ・プロセスから意図的に抜け出し、バンドの新たな側面を打ち出した1枚に仕上がった。そして10月2日(金)には、本作を引っ提げた8年ぶりとなる来日公演が渋谷duo MUSIC EXCHANGEにて実現。そのタイミングでライアン・ジャーマン(vo,g)にインタビューを行なった。
取材・文=小林弘昂 通訳・翻訳=トミー・モリー 人物撮影=星野俊

バンドからしばらく離れる時間が必要だった。
もうそのことを考えたくなかったからね。
8年ぶりの来日になりますが、久しぶりの日本はいかがですか?
昔からアルバムを出すたびに日本に来ようとしていたから、前回から8年ぶりだなんて本当に信じられないよ。イギリスを出て初めてライブをしたのも日本だった。だからオレたちにとって、日本はずっと重要な場所なんだ。前作(『Night Network』/2020年)の時はパンデミックがあって来られなかったから、こうやってまた戻ってこられて本当に嬉しいよ。
日本にいると、どことなく馴染みの場所に感じるんだ。初めて来た頃はイギリスとはまったく違う場所だと感じていたけど、今ではここが自分たちのホームのようだね。
まずは約5年ぶりとなる新作『Selling A Vibe』について聞かせてください。コロナ・パンデミック以降、初となるアルバムですが、どのように制作を進めたのでしょうか?
制作にいたるまでの経緯は本当に奇妙なものだったよ。パンデミックの頃、オレたちは昔のレーベルと法的な争いをしていてね。それまでに複数のレーベルと契約していたんだけど、過去の作品の権利をめぐって争うことになった。
そのようでしたね。
当時はすでに『Night Network』のレコーディングを終えていたけど、もし権利を取り戻せなかったらバンドを辞めようと考えていたんだ。そんな状態が何年も続いたし、しかもパンデミックの最中だったから、みんなおかしくなりそうでね。もうこれ以上、精神的に苦しむほどの価値はないと思っていたよ。
ようやくその問題に決着がついた時、バンドからしばらく離れる時間が必要だったんだ。もうそのことを考えたくなかったからね。オレ自身、人生の20年間をバンドマンでありギタリストであることに費やしてきたけど、もうそんな自分でいたくなかった。健全な状態に戻りたかったし、自分自身を壊したり、めちゃめちゃにしたりするのをやめたかった。だからかなり長い休みを取って、ほかの2人とはバンド仲間というよりも、ただの兄弟として過ごしていたよ。人生のすべてをともにしてきた兄弟を、兄弟というよりバンド仲間として見るようになってしまうのは奇妙なことだよね。数年間だけでも普通の兄弟に戻れたのは本当に良かった。
数年ぶりに活動を再開したのは、どんなキッカケがあったのでしょうか?
ミュージシャンとして活動するうえで、音楽が仕事のように感じてしまうのは大嫌いだし、絶対にそんな風にはしたくない。ハードワークしたからといって必ずしも良いアルバムができるわけじゃないし、いつも良い結果が得られるわけでもないよね? だから長い休みを取って、本当にアルバムを作りたいと思えるようになるまで待った。そして、また音楽を作ることについて話し始めるようになったんだ。どんなアルバムを作りたいのか、何をしたいのか、そういう話をしていたよ。
そして実際に3人が集まると、曲はあっという間にできた。仕事をしているという感覚はなくて、とても自然に進んでね。その感覚がなくなるまで曲を書き続けて、なくなったらそこでやめた。それだけだよ。だから制作自体は本当に簡単なプロセスだった。レコーディングにはかなり時間がかかったけどね。
そうなんですか?
今回はモダンなポップやラップのプロデューサー(パトリック・ウィンバリー)と一緒に仕事をしたからね。突拍子もない話に聞こえるかもしれないけど、今までとはまったく違ったやり方をしてみたいと思っていたんだ。オレたちは長年オールドスクールな方法でやってきたから、今回のレコーディングは時間がかかったということだね。
でも、おかげで以前より健康的な状態になれたし、休みも取ることができから、このアルバムはすごく新鮮なものに感じられる。ツアーも本当に楽しいよ。なんとかしてツアーを乗り切るというより、実際に楽しんでいる感覚があるんだ。
アルバムは新しい手法で制作した一方で、各楽曲からはロックンロールやソウル・ミュージックのような質感も感じられます。オーセンティックな方向性も意識していたのでしょうか?
意識してやっていたわけではないよ。オレたちのDNAにそういった要素が刻み込まれているんだと思う。時代の流れに完全に迎合してしまったら、いつか振り返った時に、自分たちがやっていたことを恥ずかしく思って、いたたまれなくなるだろう? だからバンドのDNAには忠実でいなければならなくて、昔からずっとパンク・ロックを基盤にしているんだ。ほかに特別な理由があるとすれば、オレたちが育った街にはアンダーグラウンド・シーンがあって、そこでは誠実さや信念を貫くことが何よりも大切にされてきたということかな。そうした価値観が自分の中に深く根付いているんだ。
どれだけ実験的なことをしてもいいし、リック・オケイセックやジョニー・マー、スティーヴ・アルビニみたいに誰かと一緒に仕事をしてもいい。結局はクリブスらしいサウンドになるからね。オレたち兄弟たちは生まれてからずっと一緒に過ごしてきたし、同じような音楽を聴いて共通の価値観を持っているから、逆にそうしたサウンドにさせないようにするほうがよっぽど大変だと思う。結局のところ、オレはそういうサウンドを鳴らしたいんだよね。オレたち自身が愛してやまないクリブスらしいサウンドがあって、そこからあまり離れたいとは思っていないよ。
今作のギターはコード・ストロークを主体としたアプローチが目立ち、どっしりとしたサウンドになっています。どのようなプレイをイメージしていましたか?
オレにとってギターは常に最初にくるものなんだ。曲を書き始める前からギターに意識を向けているからね。リハーサル・スタジオで曲作りをする時もギターだけに集中しているよ。昔からずっと、オレにとって何よりも重要なのはリフなんだ。だから最高にメロディアスなリフを作りたいと常に思ってきたよ。
子どもの頃から一番好きなギタリストはブライアン・メイで、そのあとはもちろんジョニー・マーからも影響を受けた。とにかく、最もメロディアスなパートを作りたいと思ってきたんだ。
今回のメロディアスなフレーズは、どうやって作っていったのでしょうか?
今作では、家でギターを弾きながら作曲をすることがかなり多かった。家でひたすらリフを弾いているだけって、おかしな話だろ? だから、もっと豊かで響きのあるコード……つまりジャズっぽいコードを見つけて、それを曲に取り入れようとしたんだ。
けっこう複雑で、コードからコードへの移動が本当に難しいものもあって、それが1つの挑戦にもなったよ。4本の指を全部使わなければいけなかったり、かなりのストレッチが必要なコードもたくさんあったから、自宅でかなり練習したね。オレにとってはこれまでとは違う、もっとソウルフルなプレイだったと思う。
コードのつながりに重きを置いていたんですね。
家でひたすらメロディアスなリフを作ることよりも、そうしたアプローチを試すことに興味があったんだ。ナイスなリフを作るのと同じくらい、ナイスなコードを使おうとすることからも得られるものがあるからね。

彼女に出会うまで
“自分のプレイはもうピークに達したんじゃないか”と感じていた。
「Never The Same」のスモール・コードを使ったコード・リフがとても美しいと思いました。
この曲は、アルバムがほぼ完成しそうな頃、レコーディング・スタジオに入る直前のリハーサルで本当にあっという間にできたんだ。なんとなくジャムを始めたら、すぐにあのフレーズが出てきて、“これだ!”と思ったね。オレたちは、いつもこういうことが起こるんだよ。スタジオに入る直前に必ず1曲作り上げて、“とりあえずレコーディングしてみるか”という感じで録るんだけど、そういう曲が結果的にアルバムの中でも特にグッドな曲になったりするんだ。
だから、この曲がどこから生まれたのかは正直よくわからない。“もうアルバムはほぼ完成している”という安心感から解放されて、ただ楽しく演奏していたことが大きかったんじゃないかな? この曲のギター・パートに関しては、自然に出てきたものをそのままプレイしていただけなんだ。
「A Point Too Hard To Make」のブリッジではアルペジオを重ねていますよね。あのフレーズはどのようなアイディアから生まれたのでしょうか?
覚えてないな。自分が何を弾いているかについて、そこまで深く考えてないんだよね。もう長いことギターをプレイしているから、ネック上で手がどう動けばいいのかは左手に任せている。そこで気に入ったフレーズが出てきたら覚えておこうとするけど、すべて本能的なものなんだ。座ってじっくり考えながら作るわけじゃなくて、自然と出てくるものなんだよ。
右手についてはどうですか?
最近は右手にもっと意識を向けていてね。今作を作っている時にちょっとした発見があったんだけど、ほとんどのギタリストは自分の右手が何をしているかについて、あまり考えていないということに気づいたんだ。“右手はただの大雑把な道具で、常にリズムどおりに動いてくれるもの”と考えているんじゃないかとね。実際には決して常に正確なタイミングで動いているわけじゃないのに、みんなは右手がちゃんと仕事をしてくれると信じて任せている。
でもオレは、左手が勝手に仕事をしてくれると信じているからこそ、右手に意識を集中させるようになった。右手でも、左手と同じくらい多くのことを表現できると思うんだ。この考え方によって、オレのプレイ・スタイルは完全に変わったよ。
「Brothers Won’t Break」のギター・ソロは、どこか哀愁を感じさせる雰囲気があります。どのようなイメージで弾きましたか?
クリブスの曲には長い間ギター・ソロがなくて、それは残念なことだと思っていた。昔はソロを弾くのが大好きだったんだけど、ある時期から、“ギター・ソロはその代わりになる十分にグッドなセクションがないから入れるものなんだ”と考えるようになってね。どこからそんな考えが出てきたのかはわからないけど、曲を作ってジャムるたびに、できるだけ多くの要素を削ぎ落として短くまとめようとしていたんだ。そういった考えに何年も頑なにこだわっていたよ。オレは初期の頃はソロをプレイしていたし、今でもソロを弾くのが大好きなのに。
そうだったんですか。この曲でソロを弾くことになった経緯は?
ポートランドに住んでいるゲイリー(vo,b)に会いに行った時、そこで一緒にこの曲を書いたんだよね。アイツの家の地下室で作業していた時に、“もっと何かを加えられないか?”と提案されて、オレは“もう長いことソロを弾いていないから、ぜひ入れたい”と伝えたんだ。アイツは完全に同意してくれて、頭に浮かんだソロをそのままプレイしたよ。
『24-7 Rock Star Shit』(2017年)あたりまでのあなたのギター・プレイは、ベースやボーカルに呼応するような単音のメロディ・フレーズが中心だったように思います。現在のコード主体のプレイ・スタイルに変化したのには、何かキッカケがあったのでしょうか?
先述のとおり、オレはずっと強く印象に残る最高のリフを作ることに傾倒してきた。でも家で曲を書く時にはベースを弾いてくれる人がいないわけで、そのアプローチはあまり意味をなさない。同じリフを延々と弾くだけでなく、それに対するハーモニックな情報がなければ意味がないんだ。だから自宅では、“自分に何ができるのか?”ということにすごく重点を置くようになったよ。
あとは、2012年にガールフレンド(ジェン・ターナー/ex.ヒア・ウィ・ゴー・マジック)と付き合い始めたことも大きい。最高のギタリストでありベーシストなんだ。彼女のおかげでギターに対する考え方が完全に変わったね。
2人はエクスラメーション・ポニーとして活動していましたよね。
そう。彼女に出会うまで、“自分のプレイはもうピークに達したんじゃないか”と感じていたんだ。でも彼女はオレがやっていたことを遥かに超えていて、それはフィーリングを何よりも重視していたからだった。同じリフをただくり返し弾いているだけだと、フィーリングを与えられないどころか、ほとんど機械的なプレイになってしまうこともある。彼女から影響を受けたことで、オレの演奏も変わったよ。今でも良いリフを作るのは大好きだけど、ハーモニーの構築や、特にフィーリングに意識を向けるようになった。
ノート・パソコンでなんでもレコーディングして、すべてをグリッドで揃えられる時代だから、フィーリングは失われつつあるものだと感じている。でもフィーリングこそが人間らしさで、“ミュージシャンがどれだけ洗練されているか”を示すものなんだ。

ジョニー・マーと袂を分かってからは、
“ライブでどう機能するか?”という方向に進んでいった。
今作のレコーディングでは、どのようなギター、アンプ、エフェクターを使用しましたか?
ほとんどのパートはOrangeのOR30というアンプでレコーディングした。ギターは今日持ってきた黒いシグネチャー・モデルも使ったし、ほかにはES-335、モズライト、エピフォンのCoronetもあったね。ギターはその4本だ。
ペダルに関しては、オーバードライブとしてMenatoneのKing of the Britainsを使ったよ。あとは少しリバーブを使ったかもしれないけど、ほかに何を使ったかはあまり覚えてないな。このアルバムではエフェクトをほとんど使っていないんだ。ギターをアンプ直でつないで、場合によってはオーバードライブ・ペダルを通すくらいだったね。
全体的にかなりシンプルなサウンドですよね。
「Brothers Won’t Break」ではテープ・エミュレーターのようなものを使って、少し音を劣化させたかもしれない。でもプロセスしたパートは本当に少しだけで、基本的にはすごくシンプルだった。
ギター・パートのいくつかは家でもレコーディングしていて、昔ギター・センターで200ドルくらいで買ったSilvertoneの小さいアンプも使ったね。ただの練習用アンプなんだけど、正直なところ、オレならあのアンプでどんなサウンドでも作れるよ。モダンでもビンテージでも、どっちの音にもできるんだ。だからオーバードライブしているパートの多くは、家であのアンプを使ってレコーディングしたものだね。
モズライトとCoronetの詳細を教えてください。
モズライトは、たしかMark ⅤかGospelというモデルだったと思う。ミディアム・スケールのネックを持つ60年代のギターだね。ライブで使わず家に置いている理由の1つは、オレはミディアム・スケールをステージで弾けないからなんだ。でも、あのギターのサウンドやプレイした時のフィーリングを気に入っている。モズライトは、質屋に置いてあるようなギターと上質なハイエンド・ギターの中間にあるような存在だね。弾いている感触はハイエンド・ギターみたいなのに、サウンドは少しチープなんだ。
たぶんCoronetも60年代のものだね。これはクリブスがレコード契約を結ぶ前に手に入れたんだ。当時はeBayでビンテージを探していたんだけど、まだかなり安く手に入れられるギターがいっぱいあったよ。Coronetが家に届いた時、残念なことにヘッドが折れていて、何度も直して使っていた。今は自宅のソファに立てかけてあって、リフを書く時にいつも使っているんだ。弾いていて楽しいギターだよ。軽くて、サウンドも良くて、良いトーンを持っている。
現在のクリブスの音楽にはロックンロールやソウルの要素が自然に溶け込んでいると感じます。前作『Night Network』は、そうした要素を取り入れる転機になった作品のようにも思えますが、当時を振り返って、音楽の好みや作曲方法に変化があったと思いますか?
そうだね。ジョニー・マーと袂を分かってからは、より勢いを重視して、“ライブでどう機能するか?”という方向に進んでいったと思う。ジョニーとやっていた頃のレコードも好きだけど、少しソウルが薄れてしまっていたように感じているんだ。
当時の作品はやはりアルペジオが印象的で、ギター・ロックの要素が強かったですよね。
たくさんのアイディアが詰まっていた一方で、ソウルの一部が失われてしまっていたと思う。『Night Network』と今作はリハーサル・ルームに集まってすべてを作り上げていったけど、ツアーで使っている機材は持ち込まずに、そこにあるものだけを使ったんだ。あとは『Night Network』では腰を据えて作曲することも多くて、それが大きな違いを生んだと思う。
例えばどんなところですか?
オレとゲイリーのプレイの内容だね。例えばどんなコードを使うかだったり、それらをどう組み合わせるのかについて、たくさんの話し合いがあったよ。お互いの演奏をどう噛み合わせるかについて、より注力していたんだ。それ以前はみんなが自分自身のことばかりを考えていて、それぞれが自分のために曲を書こうとしていた時期があったと思う。でも今回は、“すべてをどう組み合わせるか?”ということが、より重要になった。
『Night Network』は、モータウンやガールズ・コーラス・グループのような、自分たちが育ってきた音楽や影響を受けたものを取り入れていた1stアルバム(『The Cribs/2004年)の頃に少し近かったと思う。『Night Network』では、“パンクであることなんてどうでもいい”と決めたんだ。“もう8枚くらいレコードを作ってきたのに、どうしてまたパンク・ロックのアルバムを作る必要がある?”、“そんな中でオレたちは何を証明しなければならなかったんだ?”っていうことだ。曲作りの技法そのものに集中するほうがずっと楽しかったんだよ。

オレは人生の中の、
あの数年間を本当に楽しんでいた。
『Men’s Needs, Women’s Needs, Whatever』(2007年)は、クリブスにとっても、2000年代のUKロック・シーンにとっても重要な作品だと思います。リリースから長い年月が経った今、このアルバムの楽曲を演奏すると、どのような気持ちになりますか?
「Men’s Needs」や「Be Safe」は今でも演奏しているけど、しばらくの間、あのアルバムの曲の大半をプレイしなくなっていたんだ。でも、それ以外の曲を取り上げるのが、かなり好きなんだよね。時々『Men’s Needs, Women’s Needs, Whatever』の中から適当に曲を選んで、“これをやろう。長いこと演奏していないから楽しいだろうし、ライブでもきっと盛り上がるはずだ”なんて話すことがある。あの曲たちをプレイするのは、今でもワクワクするよ。
ただ、昔の曲の中には本当に飽きてしまったものもあって、「Men’s Needs」なんて目を閉じていても弾けるくらいだ。オーディエンスのエネルギーが感じられるのはいつだって大好きだけど、もうプレイすること自体に挑戦のしがいがない。「Mirror Kissers」もほとんど全部のライブで演奏してきたから同じ感じだね。オレとしては、そういう曲はプレイしなくてもかまわないんだけど、オーディエンスのためにやっているんだ。
ありがとうございます(笑)。
あの頃については、ある意味かなり達観した気持ちでとらえているよ。『Men’s Needs, Women’s Needs, Whatever』は、あの時代だからこそ生まれた作品だからね。オレは人生の中の、あの数年間を本当に楽しんでいた。だからあの曲たちをプレイすることで、ノスタルジックな気持ちとともに何かが得られたら、それで十分なんだ。
20年前と比べると、現在の音楽シーンは大きく変化しています。今のシーンについてどのように感じていますか?
今は少し変化が起きているように感じているんだ。今回のアルバムを引っ提げたツアーはこれまでよりもずっと楽しいけど、2010年代後半はかなり暗い時代だったと思う。ポップ・ミュージックがメインストリームとなった時代で、ギター・バンドでいることが少し時代遅れのように感じられた。ロックンロールは、その居場所を完全に失ってしまったように思えたんだ。
2017年、2018年くらいで一気に流れが変わりましたよね。
でも、過度にプロセスされた音楽に人々が本当にうんざりしてきたことで、ロックンロールが戻ってきているように感じる。先日オーストラリアの人にインタビューしてもらった時、“バッキング・トラックに合わせて演奏するバンドに対する反発が大きくなっている”という話を聞いたんだ。それは本当に良い兆しだし、物事が正しい方向に向かっていると思うね。
とはいえ、本当にロックンロールが戻ってくるまで先は長いとも感じている。グリッドに合わせてレコーディングして、全部の音を完璧なタイミングに揃えたがるのは理解できるけど、そうしている限り本質を見失っている気がするよ。そんな風に音楽から人間らしさを取り除いてしまったら、もはや何の意味もない。
そのとおりだと思います。
オレがバンドを始めた頃、音楽を演奏することは“人と関わるためのもの”だと考えていた。友達と一緒にプレイするっていうことは、みんなで体験を共有することだ。友達や地元のオーディエンスの前で演奏するようにもなるし、とにかくすべてがソーシャルなものだったよ。
でも、ノート・パソコンでのレコーディングが主流になってからは……もちろんそれ自体は理解できるんだけど……もっと孤独な形で音楽を作る人が増えたように感じる。もちろん昔からそういうやり方で活動してきたソロ・アーティストはいたけど、個人ばかりで構成されるような状況ではシーンを作るのは難しいと思うんだ。そしてその結果、音楽の文化が少し損なわれてしまうだろう。まだ楽しいライブができるのならそれでいいのかもしれないけど、それが今の時代のあり方なんだろうね。
作品データ

『Selling A Vibe』
ザ・クリブス
ビッグ・ナッシング/ウルトラ・ヴァイヴ
PIASR1573CDJ
2026年1月9日リリース
―Track List―
01. Dark Luck
02. Selling A Vibe
03. A Point Too Hard To Make
04. Never The Same
05. Summer Seizures
06. Looking For The Wrong Guy
07. If Our Paths Never Crossed
08. Self Respect
09. You’ll Tell Me Anything
10. Rose Mist
11. Distractions
12. Brothers Won’t Break
―Guitarist―
ライアン・ジャーマン
