長谷川白紙と細井徳太郎が語る、即興で紡いだ 『素直な気持ちアルバム』の新たな音の交差。 長谷川白紙と細井徳太郎が語る、即興で紡いだ 『素直な気持ちアルバム』の新たな音の交差。

長谷川白紙と細井徳太郎が語る、即興で紡いだ 『素直な気持ちアルバム』の新たな音の交差。

ギター・マガジン2026年11月号では、長谷川白紙の新作『素直な気持ちアルバム』について、本人と、今作に参加したジャズ/即興演奏にも精通するギタリスト・細井徳太郎の対談を掲載。楽曲ごとのアプローチを始め、2人がどのように音を重ねていったのか、その制作背景を聞いた。

ここでは本誌のWEB拡大版として、2人の出会いやライブでの共演、そして『素直な気持ちアルバム』で細井が挑んだ即興演奏まで、対談の一部を紹介する。演奏や音楽的な文脈だけではなく、対話をする時の精神的な共鳴を大事にする長谷川と、楽曲に対してオープンに反応しながら自分らしい演奏を追求する細井。2人の言葉から、“ハハとヘアピンズ”という場がどのように生まれ、音楽を形にしていったのかを紐解いていく。

取材・文=錦織文子 写真=鈴木千佳

長谷川白紙(左)、細井徳太郎(右)
長谷川白紙(左)、細井徳太郎(右)

今会って話している瞬間の
精神的な共鳴のほうを大事に。
──長谷川白紙

新作『素直な気持ちアルバム』に際して結成されたバンド“ハハとヘアピンズ”としてギターに細井さんが参加していますが、それ以前から2人はライブ演奏などで共演したり、友人として交流があったそうですね。そもそも知り合ったきっかけは?

細井 (君島)大空を含めて3人で忘年会だか新年会で会ったのが最初じゃない?

長谷川 そうかも。どこだっけ?

細井 新宿。コロナが流行する直前だったよね。

長谷川 そんなに前? ということは私が21歳だったってことか。その頃はまだ新宿MARZでわけわかんなくなってた時期だから、あなたたちと仲良く話せるとは思えなかった……(笑)。

その時はどんな話をしたんですか?

細井 おでんの具は何が好きかとか、そういう話(笑)。

長谷川 私が覚えているのは、保湿がヤバいリップ・クリームをオススメしたの覚えてる。

細井 それから普通に友達として遊んだりはたびたびありましたね。

そこから一緒に演奏するようになったのは、何か音楽的な共通点があったからでしょうか?

長谷川 どうなんでしょう? ハハとヘアピンズはあまりプレイの内容で一緒にやっているわけではないようなところもあって。それより精神性が大事なことのほうが多い気がしますね。だから、メンバーがもともと何をやってたかとかもあんまり知らなくて。私、松丸(契)さんがバークレーにいたのをこの前初めて知って、“そら上手いわな”と思いつつすごくびっくりしたんです(笑)。それで言うと、あなたがもともと何をやってたかとかもいまだにちゃんと知らない。徳太郎のやってきた文脈というより、今会って話している瞬間の精神的な共鳴のほうを大事にして、このメンバーになったという感覚があります。

今年3月に開催されたnoir kei ninomiyaのパリ・ファッション・ウィークのショウでは細井さんと演奏されていました。共演することになったキッカケは?

長谷川 演奏+ライブ・エレクトロニクスという形だったんですけど、デザイナーの二宮(啓)さんが“次はギターがいいな”とおっしゃっていたのと、インプロヴィゼーションで構築していくことも条件だったので、そしたらもう徳太郎だなと。あと、単純に徳太郎をパリに連れていきたかったっていうのもあります。

細井さんの激しいフィードバックから始まり、完全即興のように思いましたが、実際はどうでしたか?

細井 出てくる服のルックや順番に応じて、イメージやピーク、なんとなくキーも決めたりしたよね。

長谷川 そうだったっけ? 私全然覚えてない……。

細井 最初の3〜4分はキーもクソもないんですけど(笑)、ある服が来たら調整感を出そうとか、ここはD♭にしようとか、こっそり「April in Paris」を弾こうとか(笑)。でも、ほとんど完全即興と言っていいですね。

即興演奏を一緒にやってみてどうでした?

細井 けっこう達成感あったと思うんだけど。

長谷川 それは確かに。ただ、大変すぎてあまり記憶にないんですよね(笑)。即興と言えば、ビルボード・ライブでやったハーフ・ヘアピンズ(長谷川白紙、細井徳太郎、相川瞳)での演奏もめっちゃ楽しかったです。今作『素直な気持ちアルバム』も即興的に演奏してもらったものが多かったんですよ。

挑戦したり、曲や演奏者を尊重し合う
開けた空気感が自分らしい演奏につながった。
──細井徳太郎

今作は大半の楽曲で細井さんがガット・ギターを演奏していますが、中でも即興的に聴こえる楽曲の1つとして、「Witchkeeper(돌보미 마녀)」が印象的でした。イ・ランさんのリーディングに合わせたスピーチ・メロディを各パートが奏でたり、ガット・ギターに関しては全体を俯瞰してアルペジオと単音を差し引きしているようですが、実際のところは?

長谷川 ギターに関しては大まかなディレクションをしただけでほとんど即興なんですけど、実は徳太郎以外のほかのメンバーは完全に譜面どおりに演奏してもらったんです。ランが書いてくれたテキストとリーディングがまず最初にあって、それを全部、各パートに割り振って五線譜上に書き起こしたんです。それがけっこう難解なリズムだったのもあって、徳太郎の場合はかっちり決められたとおりに弾いてもらうよりも、自由に弾いてもらったほうが良いかなと思いました。

細井 実際のレコーディングでは、ブースの外ではっきゅんが指揮をしてくれていたんですよ。手の感じで調整に対してイン/アウトするのか、音量を小さく/大きくするのかを見て、あとは即興で弾きました。

長谷川 そうですね。手元で“ちっちゃーい……”とか“大きくていい”とかがわかる感じにしていた気がする(笑)。でもあの指揮って本当にけっこう抽象的なジェスチャーだったので、最終的にはかなり徳太郎だなという感じになったと思います。あれは完全に徳太郎がすごいだけですよ。

細井 結局、自分の中で何を基準としてインとするのかがあれば、わりと即興するのってそんなに難しくてなくて。例えば、調性だったり、ベースやドラム、ランさんの詩だったりね。基準が1個でもあると迷うことはないかもしれないです。

では、その基準点をインと解釈して演奏していったんですか?

細井 そうですね。あとはランさんのテキストを少し日本語訳したものを読ませてもらったというのもあって、自分の中でけっこう大事だったのが終盤の環境音や物音。ちょっと鳥の音が聴こえたりもして、ランさんの物語と同時に、実際にランさんが録った場所のイメージも頭の中で生まれてきたんですよね。

長谷川 あれね、私が入れてる。

細井 え、そうだったの?!

長谷川 実はとんでもなく細かいことをしていて。バック・グラウンド・ノイズを10種類くらい、すごく小さい物音を60種類くらい作って、そのレイヤーで徐々に現実度が上がっていくみたいな装飾をしてるんです。

細井 やるな〜。オレはその音を聴いて、ランさんは韓国のこの辺で、こういう家に住んでるんだろうな、みたいに空間のイメージを膨らませてたんだけど。

長谷川 もう手の上です(笑)。

細井 孫悟空状態だ……。

でも、鳴っている音に対してすごく細井さんらしくオープンに演奏している感覚は伝わってきました。

細井 そうですね。良い意味で、いわゆるサポート・ワークのようにこなす感覚はなくて、楽曲で鳴ってる音に対してオープンでいることは心がけていましたね。何よりそうして演奏できたのは、長谷川白紙、ハハとヘアピンズが作る音楽がそうさせてくれた部分が本当に大きい。挑戦したり、曲や演奏者を尊重し合う開けた空気感が自分らしい演奏につながったと思います。

作品データ

『素直な気持ちアルバム』
長谷川白紙

Beat Records / Brainfeeder
2026年8月28日リリース

―Track List―

01. 荊姫
02. きたれりルート (feat. 月ノ美兎)
03. 嘔吐
04. ボス・モワレ・FS (feat. tofubeats)
05. 我々不吉戦士
06. なんでなんでもかんでも一から十までいちいちいちいちいちいちいちいち言わなあかんねん (feat. あっこりんりん)
07. 蜜の主
08. 恩寵
09. ジ・エンド・FS
10. 泥棒猫泥棒
11. パーマネント・トロンプルイユ・FS
12. 窒息日記
13. 돌보미 마녀 (feat. イ・ラン)
14. ヴァニラ・ヴァリュー
15. 失せ物知らず

―Guitarist―

細井徳太郎

ギター・マガジン2026年11月号

2026年10月13日(火)発売

ギタマガ11月号では、『素直な気持ちアルバム』の制作背景やギター・アプローチについて、長谷川白紙と細井徳太郎の対談インタビュー本編を掲載。