高中正義の数々のレコーディングやライブに参加してきた鳥山雄司、そしてこの夏に高中リスペクトを感じさせるソロ1stアルバム『SHIMONAKA』をリリースした下中洋介(DYGL)を迎えて、“高中正義”をキーワードにスペシャル対談をお届けしたギター・マガジン2026年10月号。ここでは本誌の番外編として、現在の音楽シーンにおけるTAKANAKA人気再沸騰について、ざっくばらんに音楽談義に花を咲かせてもらった。なぜ今、高中正義なのか? 世代も活躍するシーンも異なる2人による、濃密な対談内容は必見!
取材・文=柴崎祐二 撮影=鈴木千佳

鳥山雄司(左)、下中洋介(右)
インストゥルメンタルだからこそ
言葉の壁も関係なくそのまま聴ける。
──下中洋介
本誌10月号では高中さんのプレイや音作りの魅力について対談してもらいましたが、このWEB版では少し視点を変えて話を聞けたらと思います。まず近年の高中さんの急速な人気の高まりをどのように見ていますか?
鳥山 もちろんすごいことなんだけど、正直なところ“なんで今なんだろう?”という感覚はありますよね。
海外公演の規模もどんどん大きくなっていますが、そうした背景にはネット上の動画などを通じて、それまで高中さんを知らなかった人たちにも届いたという部分も大きいと感じます。
鳥山 間違いなくサブスクと動画サイトが導いた状況ですよね。それがなかったら、こういう風にはなっていないと思います。
下中 高中さんの後追い世代の1人として、僕もそう思いますね。今みたいにショート動画とかでものすごく流行る前、アメリカの友達から高中さんが例のサーフボード型のギターを弾いている動画が送られてきたことがあったんです。“お前もこれ見てみろよ!”みたいな感じで。その頃はまだ今ほどは盛り上がっていなかったので、向こうでも知られ始めているんだと思って驚いた記憶がありますね。
確かにあのサーフボード型のギターは、映像で切り取られても即座に“何だこれは?”となる強さがありますよね。そこが音楽作品への入口になっていくという意味でも、やはりビジュアル面のキャッチーさもすごく重要だったんだろうなと。
下中 そうだと思います。しかも音楽自体がインストゥルメンタルだから、言語的な壁も関係なくそのまま聴ける。あとは、その前からシティ・ポップが流行っていた流れもあるのかなと感じますね。そういうものがいろいろ重なって、今の時代にすごく合っていたのかなと。そもそも曲が良すぎるというのも大きいと思いますけどね(笑)。
YouTubeのレコメンドで偶然耳にしたとしても、メロディ自体がすごく強い。だからこそギター・プレイに集中して聴くこともできる一方で、ある種のBGMとして流しておくこともできる。その両方が成立するところも、現在の聴取環境と相性が良い気がします。
下中 まさにそうした多角的な魅力があると思いますね。
そう考えると一層興味深いのは、かねてから鳥山さんの作品にも似たことが起きているということです。1980年代にキャニオン・レコードから出た諸作がネット上で注目されて、2018年にはロンドンのレーベル、Time Capsuleから『Choice Works 1982-1985』というコンピレーション盤も出ています。いわば当時のリスナーとはまったく違う世代や地域の人にも発見されたりしているわけですよね。
鳥山 そうなんです。僕からすると、正直なところ狐につままれたような感じなんですよ。だから、もうわけがわからない(笑)。“なんで今?”って思い続けていますから。
本人としてはそういう感覚なんですね(笑)。
鳥山 “オリジナル盤が出た当時に買ってくれよ”っていう(笑)。
当時はむしろ、海外のマーケットへどう出ていくかを考えていた時代ですよね。それが数十年後になって、別のルートから海外に届いて、しかも逆輸入的に日本でも再び盛り上がりを見せているという。
鳥山 不思議でなりません。以前にロンドンから来たクラブDJに、僕の曲をミックスに使いたいという話をされたことがあって。“いいですよ”って言ったら、“こういうサウンドは今「バレアリック」っていう視点からも高く評価されているんだ”って言われたんですよ。
スペインのイビザでのパーティー・シーンから派生したタームですね。少しトロピカルな味わいがあって、シンセやパーカッションなどが印象的に使われている祝祭感あるサウンドがそう呼ばれています。
鳥山 らしいですね。だけど、その彼から話を聴いた時は“そもそも「バレアリック」って何?”みたいな感じで、もう全然わけがわからなかった。でも、きっと向こうからすると、そういうサウンド面で魅力的に感じるものがあるんでしょうね。
今、再発見されている背景として
“ディスコ感”もポイントだと思います。
──鳥山雄司
作った側が当時想定していたポイントと、のちのリスナーが見出す魅力の力点が必ずしも重なり合うわけではないという点にも面白さがあります。昨今は鳥山さんの作品に限らず、70〜80年代の日本のクロスオーバーやフュージョンが、ディスコ/ブギーやバレアリックなど別の文脈から再発見されるという現象があります。鳥山さんがサウンド・プロダクションに関わっていた高中さんのアルバム『CAN I SING?』(1983年)は、80年代半ばのデジタル感を強めている頃の作品で、まさにそうした感覚でも魅力的に感じられるものがたくさんありますよね。
下中 それ、すごくわかります。
鳥山 今話に挙がった“ディスコ感”というのは確かに重要なポイントだと思います。乗りやすいビートにコンガやパーカッションが絡みながら鳴っているようなあの感じ。クロスオーバーの文脈だと、1970年代後半以降のジョージ・デュークのあの感じが特にわかりやすい気がしますよね。めちゃくちゃテクニカルな演奏をする一方で、そういうキャッチーでディスコ的なものもやっていたでしょう。あとはナラダ・マイケル・ウォルデンとかね。
ほかにも一時期のハービー・ハンコックとか。
鳥山 そうそう。
下中 しかもそうしたサウンドの中にトロピカルな要素が入っていると、やっぱりグッときますよね。今、周りのミュージシャンや若い人たちの間ではブラジル音楽を聴く人も増えている印象があって。だからこそ高中さんの作品は、そうした世界観が好きな人にも自然に届くんだと思うんです。
まさに『BRASILIAN SKIES』(1978年)のような作品は、ラテンやブラジル音楽などの入口にもなるように感じます。
下中 そうですよね。僕もあのアルバムはすごく好きです。アレンジもいいし、もちろんギターも素晴らしい。
しかも、その主役のギターも間違いなくテクニカルではあるけれど、テクニックそのものを前面に押し出した音楽ではないというところがポイントな気がします。ギターを弾けなくても、あのギターのメロディを追うだけで楽しめる。そこも非プレイヤーの若いリスナーが高中さんの音楽に入りやすい理由かもしれません。
鳥山 そうだと思いますよ。だから、ともするとテクニック至上主義みたいなものと結びつきがちな“フュージョン”という言葉の範囲だけで考えるより、DJをやっている人の考え方のように“サウンド傾向”の点からとらえたほうが、今の聴かれ方には近いのかもしれないですね。
1990年代、もっとさかのぼれば、イギリスでは80年代からクラブ・ミュージックとして日本のフュージョンを聴くという流れがありました。そして今はそうしたクラブ・ミュージック内部でのセグメントのような意識も相対化されてきたことで、よりライトなところにも届くようになったのかなと思います。
下中 前提として、今はポップ・ミュージックのド真ん中に君臨して誰もが聴いているという意味での“メインストリーム”ってなくなっているじゃないですか。それってある意味では良いことだと思うんですね。みんな好きな音楽を好きに聴いて楽しめるということですから。だからこそ、高中さんの作品に代表される日本のクロスオーバー/フュージョンの作品も、熱心に聴こうとする人が現われるわけだし、僕みたいに完全に高中さんリスペクトのアルバムを作るようなヤツも現われるという(笑)。
鳥山 うん、それはやっぱり面白いよね。下中君みたいな30代のミュージシャンがこれだけ熱心に聴いていて、自分の作品につなげているというのはやっぱりすごいことだと思いますよ。
あえてフュージョン専門の人に限らず
同世代でオムニバス盤を作ってみたい。
──下中洋介
下中さんは、今回のソロ1st作『SHIMONAKA』を経て、新たにクロスオーバー/フュージョンの文脈でやってみたいことなどはありますか?
下中 1970年代末に、大村憲司さん、渡辺香津美さん、森園勝敏さん、山岸潤史さん、秋山一将さんをフィーチャーした『ギター・ワークショップ』っていうオムニバスのシリーズがあったじゃないですか。おこがましいですけど、あれを今やってみるのはどうかなと思っているんです。フュージョン専門の人に限らず、僕と同じような世代のギタリストで集まって、ああいうオムニバス盤を作れたら面白いなと思っています。
鳥山 僕にとったらなんとも懐かしいけど……(笑)。へえ〜、そうなんだ。
下中 あえて普段フュージョン的なプレイをしていないような人に参加してほしいんです。スタジオ・ミュージシャンの方ってやっぱり上手いから、ソツなくフュージョン・ギターもできちゃいそうじゃないですか。逆に、そういうことを普段していない人に、演奏のみならず曲作りの段階から参加してほしいな、と。
下中さんのオムニバス・アルバム、今から楽しみです。鳥山さんも当時『ギター・ワークショップ』を聴いていましたか?
鳥山 もちろん知っていましたし聴きましたよ。僕よりほんの3、4歳上くらいの世代だったので、“へえ、こういうものが出たんだな”という感じで見ていましたね。僕もそのあと、松原正樹さん、元ツイストの松浦由寛さん、TENSAWのTAKEさんとオムニバス・アルバムの『Guitar Kids. 1』(1982年)に参加しましたけれど、当時はそういうような流れがあったんでしょうね。
もし今オムニバスを作るなら、当時以上にバック・グラウンドの異なるギタリストにも参加してもらえそうですよね。
鳥山 そうですね、今は本当にいろんなタイプがいるからね。
オムニバス・アルバムとはまた異なりますが、今回鳥山さんがリリースしたPYRAMIDの新作アルバム『PYRAMID 6』にも、Ovall、Jairoさん、Gaku Kanoさん、松井秀太郎さんなど、多くの後輩ミュージシャンが参加しています。下中さんのように下の世代が先達たちの作品や演奏を熱心に聴いているのと同じく、鳥山さんを始め、ベテランの方々もまた世代の違う若いミュージシャンたちの動向をリアルタイムでチェックしていますよね。
鳥山 そうですね。PYRAMIDについては、メンバーの神保(彰)君と、急逝された和泉(宏隆)君が高校時代からの友人で、学生時代にやっていたアマチュア・バンドがもとになっているんです。だからこそただ懐かしいことをやるだけじゃなくて、基本的な姿勢として、今自分たちが面白いと思うミュージシャンについては積極的にコラボレーションしていきたいと思っているんです。
神保君もわりと新しい音楽にハマりやすいほうですからね。彼はここ数年ずっとルイス・コールにハマっていて、一方では(ドミ&)JD・ベックを観に行ったり、ギタリストだったらマテウス・アサトを聴いていたり。“もう年齢的にこれくらいでいいでしょう”という感じじゃなくて、“ここは突き詰めましょう”という感覚で続けているんです。
下中 その姿勢には本当に敬意を表したいです。
ここまで “高中正義”をキーワードにざっくばらんとお話を聞いてきましたが、世代も活躍するシーンも異なる2人だからこその充実の内容となりました。長時間の取材をありがとうございました!
鳥山 ありがとうございました。今回の対談が初めましてでしたけど、下中さんとはまたお会いしたいですね。良ければこのあと連絡先を交換しましょう(笑)。
下中 おおっ! そんな恐れ多いですが……ありがとうございます!
Profile
鳥山雄司
1959年生まれ、ギタリスト/プロデューサー。81年、慶應大学在学中にセルフ・プロデュースによるソロ作『take a break』でデビュー。以降数々のアーティストを手がける一方で映画などのサントラも担当。高中正義とは『CAN I SING?』(83年)へ全面的に参加したのを皮切りに、キャリアを通してレコーディングやライブで共演を果たしていく。また、現在は学生時代からの朋友 神保彰とのユニット、PYRAMIDでも活動中。最新アルバムは『PYRAMID 6』(9/18配信)をリリース。
下中洋介
2012年結成の4人組バンド、DYGL(デイグロー)のギタリストとして世界各国を駆けめぐりながら、一方でnever young beachのサポートでは岡田拓郎とのツイン・ギターで話題に。ロック・バンドの最前線で活躍してきたが、このたび高中正義へのリスペクトを感じさせるソロ1stアルバム『SHIMONAKA』(8/19配信)をリリース。Jフュージョン/クロスオーバーを2026年の感覚でアップデートしたトロピカル・サウンドに仕上がっている。
ギター・マガジン2026年10月号
『ソロ・デビュー50周年総力特集 高中正義』
好評発売中のギター・マガジン2026年10月号では、世界的にムーブメントを巻き起こしているTAKANAKAサウンドを、本人インタビューや最新使用機材の紹介、奏法分析など多角的に分析する総力特集を掲載。“高中正義”をキーワードにその魅力を語り尽くす、鳥山雄司×下中洋介のスペシャル対談ページも要チェック!

