イカサマイマサ『立てろ、きき耳。欲張れ、目利き。』 イカサマイマサ『立てろ、きき耳。欲張れ、目利き。』

イカサマイマサ
『立てろ、きき耳。欲張れ、目利き。』

時も場所も(望むなら性別からも)解き放たれてトリップできる簡単で合法的な手段のひとつ、読書。読後感がグッドな本も、なかにはバッドなものもあるだろう。だけど読書量が増えれば増えるほど相性含め、自分の望むチューニングを施してくれるブツを嗅ぎ分けるスキルも高まっていく。

自分が高3の夏、他校のひとつ年下の男が組むバンドにギターで加入した。同世代バンド4組で公会堂を借り自主コンサートを開いたり、と異才を放っていたリーダー格のそいつは鍵盤にもアレンジにも強いのに、なぜかドラムだった。「ドラマーは皆の出す音を俯瞰で聴いて監督できるからいいんだよ」と言い放つ彼に、「モノホンのロートタム持ってるって自慢したいからだろ?」などと混ぜ返す自分は、皆の中で少し浮いてたかもしれないけれど、「予測不能なプレイで言うこと聞かないイマミチ君みたいなヒトが居ると面白くなるよ」と軽くいなされてしまうんだから、かなわない。

コンサートを2回やったあとは、それぞれの進路に向けた独自の行動を取るようになりバンドは自然散解、以来連絡を取ることもなくなった。

7年前の大型連休前、そんな彼から突然「BS-TBSの『僕たちは昭和を生きた』って番組に出るんだけど、その中の対談コーナーにイマミチくん来てよ」というオファーが届き驚いた。“え? 俺、今を生きてるし”と思わないこともなかったけれど、皆から浮いていたはずの口悪い自分を指名してくれた彼への親しみのほうが勝って、収録現場まで出かけて行った。

そこは高校生の頃に溜まっていた音楽喫茶で、事前打ち合わせなしの久々の再会冒頭、カメラが回る前に「やぁご無沙汰。覚えてる? これ我々が開いたコンサートのステージ写真だよ、あげる、持ってないでしょ」と紙焼き写真を差し出してきた。遅ればせながら、千住明、キミっていい奴なんだな!

いまみち高校三年生@荒川区民会館(写真=本人提供)。

クラシック畑に根を置きつつ多ジャンルで活躍する作曲家との対談は、彼が久々にドラム叩いてみせたりという御愛嬌も挟み楽しく終わったのだけど、収録中に放った彼の言葉がとても印象に残った。

「世の中に発表された音楽をどれだけ聴いてきているか、吸収してきたか、その量の差がプロとアマの違いだと思っている。そうすることで自分の作品がホントに新しいかどうかを判断できるようになるはずだ」

さすが高校生の分際でジャズからAOR、ファンク、フュージョンまで種々のジャンルのカバーを選曲していただけのことあるよなぁ。

“ロックンロールが最高だ!”とか言っていた自分は気づかなかったけど、彼にとってバンドは当時から将来オリジナルを作るための実験場だったのかもしれない。彼に「このバンドで演ろうぜ」と聴かせたオリジナルをことごとく却下されたおかげで、一緒にコンサートを開いた別のバンドのボーカルだったKONTAを誘い、オリジナルだけをやるバンドを組んだっていうのはまた別の話。

読書にしても、映画鑑賞にしても、音楽にしても、貪欲な受け手のほうが楽しみは深まるだろうし、作り手、送る側になったとしても、いろんなモノを吸収し、そのツボを理解している絶対量が多いほど、強みになるのかもしれない。

まずは先入観を捨て、食わず嫌いもせず、これからもいろんな音楽を(俺の曲も✌️ )聴く、素敵な受け手でいて下さい。

では、また!

いまみちともたか

Profile

いまみちともたか

いまみちともたか◎1959年生まれ。BARBEE BOYSのギタリストとして1984年にデビュー後、佐野元春や井上陽水のレコーディングに参加するなど、多方面で活躍。ほかにも、椎名純平らとのヒトサライ、自身がホストとなってゲストを迎えるスタジオ・ライブ・シリーズ=“カメを止めるな”を主催するなど、精力的に活動中。

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