Interview|奥田健介(NONA REEVES)がZEUS名義でソロ活動を始動。 1st作での“隠れ不謹慎(!?)”なギターに迫る。 Interview|奥田健介(NONA REEVES)がZEUS名義でソロ活動を始動。 1st作での“隠れ不謹慎(!?)”なギターに迫る。

Interview|奥田健介(NONA REEVES)がZEUS名義でソロ活動を始動。 1st作での“隠れ不謹慎(!?)”なギターに迫る。

NONA REEVESのギタリスト=奥田健介が“ZEUS”名義でキャリア初となるソロ作、『ZEUS』をリリースした。奥田はNONA REEVES以外にも数多くのミュージシャンのサポート・ギタリストを務めるほか、楽曲提供を行なうなど、ギター・プレイヤーとしてのみならず、ソングライターとしても定評がある。今作では、奥田らしいブラック・ミュージック的な楽曲からクルアンビン・ライクなインスト・カバーまで、幅広いスタイルを披露。その音楽的懐の広さが十全に発揮されたギター・アルバムに仕上がった。今回はソロ活動を始めるきっかけや楽曲について、たっぷり話を聞いた。

取材・文=新見圭太 人物・ギター撮影=小原啓樹


ずっと観られるのは苦手ですが、
たまに凄く注目してほしいという身勝手な願望があるんです(笑)。

奥田健介

初ソロ作のリリース、おめでとうございます。まずは、ソロ活動を始めたきっかけから教えて下さい。

 以前からソロ作品は作ろうと思っていたんですが、なかなか一歩を踏み出せなかったんですよね。いざ、作品を作ろうとした時に何からやって良いのかが、わからなかったんです。あとは何でもできると過信していた部分があって。

と言いますと?

 無限の選択肢があると人は一瞬だけ、自由になった気がするじゃないですか?

そうですね。 

 でも、それって一番ハードルが高いことなんだと気がついて。“こういうものを作って下さい”って言われたほうがよっぽど楽ではあるんですよ。

迷うこともないですもんね

 そうなんですよ。その自由さであまり悩んでいても仕方ないと思い始めて。それで、“納得がいく曲ができたら、とりあえず世の中に出してみよう”と思って、昨年の9月にシングル(「ホライズン」、「Little Bit Better with BONNIE PINK」)を2曲同時に配信したんです。

とにかく動いてみる、と。

 リリースしたという事実が、自分をさらに動かしてくれましたね。アルバムを作る際のコンセプトや意味合いは、あとからついてくるだろうと思って楽観視していました。

今作はR&B的なアプローチのギター・プレイによって、楽曲の持つポップさがグッと引き立っているような印象があったので、先にコンセプトを決めていたんだと思っていました。

 何がなんでもポップなアルバムにしようという意識はなかったですね。結果的に自然と耳馴染みの良い曲が揃った感じです。

もともと奥田さんが持っていたポップネスが発揮された。

 そうかもしれません。結局、ポップな音楽が好きなんだということも、アルバムを作ってみてわかりましたね。実験的な音楽も好きですけど、実験性の中にあるポップな部分を聴いていたというか。

では、コンセプトは特に決めずに今作の制作を進めていったんですね。

 そうです。でも、去年や今年だからこそできた作品にしたかったんですよね。今現在の自分の人脈や音楽性、制作環境などが自然とアウトプットできるものにはしたかったです。

なるほど。制作の際、NONA REEVESでのバンド活動と大きく異なった点はどういう部分でしょうか?

 やっぱり、全部を俯瞰しないといけない点ですかね。あとはソロって反対意見を言う人が基本的にいないんですよ。自分の意見がすべてなんです。そこがとてもリスキーでもあり、スリリングで面白いところでもありましたね。

バンドのギタリストの中にはソロ作を出したあと、ソロ活動は向いてないと感じる人もいるようですが、奥田さんはソロ向きだったんですね。

 いや、そういうわけでもないですね。ソロ作を出してみてわかったんですけど、とにかくずっと注目されるのが苦手なんですよ。たまに凄く観てほしいという身勝手な願望が僕の中にはあって。“そんなにずっと観るなよ! やりにくい!”って(笑)

(笑)。

 天性のフロントマンは“よそ見しないで、ちゃんと観てくれ!”って感じだと思うんですけどね。バンド出身のギタリストは共感してくれると思うんですが、一番良いところを一番良い“角度”で観てほしいんですよ。自分も例に漏れず、そういうタイプだとわかったのは、大きな収穫でしたね(笑)。

僕にとってオブリは
“チャチャ入れ”なんです。

奥田健介

今作では奥田さんの“一番良いところ”である、ソウル系統のブラック・フィーリング溢れるプレイが遺憾なく発揮されています。その中でも、「Little Bit Better with BONNIE PINK」に代表される絶妙な塩梅のオブリは“良い角度”の1つにあたると思うのですが、こうしたフレーズはどのようにして作っていくのでしょうか。

 僕はオブリって歌に対する“チャチャ入れ”だと思っているんですよ。歌がある時は邪魔しちゃいけないし、入れないほうが良いこともあって。オブリを入れた場合に意味合いが増すような“ここぞ!”という時に入れるんです。

その押し引きって感覚的なものなんでしょうか?

 うーん、経験もあると思います。あとはレコーディングだとフレーズを消したり、移植することもできるんで、余分に弾いておく。それで、編集マインドを働かせつつ、曲のストーリーとして面白いものを採用していくことが多いですかね。

なるほど。オブリをたくさん弾いていると、つい手癖だけで構成してしまうというギタリストって多いと思うんですよ。そういったマンネリを防ぐような方法ってあるんでしょうか?

 やっぱり、メロディをぶつけていく感覚は大事ですね。楽曲に馴染ませすぎないというか。例えば、どんなにポップな楽曲でも、すぐにブルー・ノート・スケールに移行する準備をしておく。そうすると破綻スレスレのオブリを作れるようになると思います。安易に相槌を打つだけのオブリなら入れないほうがスマートだとも思いますね。

耳馴染みが良く、かつ、存在感があるオブリは“チャチャ入れ”から始まる。

 こういう考え方に、僕の性格の悪さが表われているとも言えますけど(笑)。

(笑)。

 でも、どこかでサディスティックな視点のある表現のほうが面白いですからね。相槌ばかりの音楽ではやはり、物足りない。常にやましいことを考えていそうな雰囲気は持っておきたいですね。

隠れ変態と言いますか。

 どちらかと言うと隠れ不謹慎、かな(笑)。

パワー・ワードが出ました(笑)。本作はブラック・ミュージック的な雰囲気が漂う作風となっていますが、その最後を飾る「今日もどこかでデビルマン」は異色のインスト・カバーとなっています。先ほどの“隠れ不謹慎”的な楽曲で、安易にレッテルを貼らせないという心意気を感じました。

 そうかもしれないですね。その前の曲(「マスク feat.入江陽」)はネオソウル的なアプローチをしたメロウな楽曲なんですよ。歌詞はけっこうブラックなんですけどね。で、本来であれば聴き馴染みの良いこの曲を最後にして、気持ちよく聴き終われるはずが、なぜかドロドロした曲が始まる。最後はフニャーっとした音で終わるんですが、これは魂が浄化されて天上に登っていくイメージで。そして、また1曲目に戻ると言う構図になっているんですよ。

なるほど。確かにアルバム後半に向かうに連れて、カラーが少しずつ変わっていってますよね。表題作「ZEUS」では強烈な歪んだソロが飛び出したり、「Dogs feat.入江陽,没a.k.a.NGS」の終盤では、ワウ&速いパッセージのフリーキーなソロも印象的です。

 やっぱり、レコードのB面を意識していた最後の世代ですからね。B面はB面らしくということは意識しました。

今作で使用したギターについても教えて下さい。

 基本的には77年製のストラトで、あとは去年、手に入れた90年代の日本製カジノも使いましたね。ストラトはコード・カッティングで、カジノはポコポコとしたミュート・カッティングというふうに使い分けました。それと63年製のジャガーも使っています。「今日もどこかでデビルマン」のマーク・リーボウ的なソロや「それは、ウェンズデー with 一十三十一」のアウトロのフレーズなんかはこれで録っていて。音色にクセが欲しい時にジャガーを弾くことが多いです。

なるほど。「Little Bit Better with BONNIE PINK」ではガット・ギターも弾いていますよね?

 これは亡くなった親父の形見で、河野賢さんが若い時に作ったものなんですよ。楽器としての作りが良いから、音も凄く良いんですよね。

アンプに関してはいかがでしょう?

 今作ではアンプは使わず、strymonのIRIDIUMというアンプ・シミュレーターで音を作ってから、基本的に自宅でLogic Proで録りましたね。

ありがとうございます。最後に今後のソロ活動の展望についても教えて下さい。

 自然に考えると、このアルバムをもとにしたライブということになるんでしょうけど、なにせ10曲しかないですし、ライブで実際に演奏できる曲はさらに限られてくると思うんですよ。そう考えると、もう少し曲作りをしたいという気持ちがありますね。ゲストを呼んで、歌っていただくというのは今回で満足したんで、次はインストも良いなと思っています。3、4曲インストがあるとまた別の景色が見えてきそうな気がするんですよね。

今作でも異世界が広がっていました(笑)。

 (笑)。いずれにせよ、次はより個人的なアルバムを作りたいですね。でも、これも1st作をリリースしたからこそ言えることなのかもしれません。作品を出す前に色々考えると、また動き出すのが遅れてしまうので、今日はこのくらいでやめておきます(笑)。

OKUDA’S GUITAR

1977
Fender Stratocaster

1977
Fender Stratocaster

初ソロ作の主軸を務めたメイン器

5年前に手に入れたという奥田の今作におけるメイン器、77年製フェンダー・ストラトキャスター。ペグのみシャーラー製のものへ交換している。“アームのないハード・テイル・モデルのため、ストラトとテレキャスの中間のような音で、枯れたトーン”がお気に入りと本人談。今作のコード・カッティングは基本的に本器で奏でられているそうだ。

作品データ

『ZEUS』
ZEUS

『ZEUS』
ZEUS

Daydream park Records/DPR-0005/2021年4月7日リリース

―Track List―

01.ホライズン
02.それは、ウェンズデーwith一十三十一
03.Foxy Love
04.Little Bit Better with BONNIE PINK
05.ごめんね
06.ZEUS
07.Dogs feat.入江陽,没a.k.a.NGS
08.ミッドナイト・シーサイド・テンダーレイン
09.マスク feat.入江陽
10.今日もどこかでデビルマン

―Guitarist―

奥田健介

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