Interview|セイント・ヴィンセント『Daddy’s Home』でのギター・アプローチ Interview|セイント・ヴィンセント『Daddy’s Home』でのギター・アプローチ

Interview|セイント・ヴィンセント
『Daddy’s Home』でのギター・アプローチ

“このメロディ、どこかで聴いたことがある気がする……”って思ったの。

「Down」は、モジュレーションのかかったオブリガート、エレキ・シタール、間奏のクラヴィネットなど、上モノだけでも様々な音色で色彩豊かに仕上げています。こういったアンサンブルの組み立てはどう考えているのでしょう?

 すべては曲に由来していて、そこで何を伝えようとしているのかによるわね。この曲って怒りめいたものと遊び心が共存していて、もしこの曲をヘヴィなディストーションだけでプレイしていたら、かなりシリアスなものになっていたでしょうね。あまりにもシリアスになり過ぎて、どことなく可笑しさを感じるものになっていたかもしれないけど(笑)。でも、クラヴィネットによるファンキーなプレイはダンサブルな感じも与えてくれるし、シタールもそれと同じ音域でプレイすることでさらにダンサブルな感じになっている。常にエネルギーが加え続けられるようなものとは異なり、軽やかなテクスチャーがたくさん入り乱れることで華やかさが加わっているの。

「Somebody Like Me」はフィンガーピッキングでのアコギのバッキングも印象的ですが、ペダル・スティールも加わったオーケストレーションがすごく壮大な印象を与えています。こういったスケールの大きい楽曲もギターを爪弾きながら作曲するのですか?

 この曲は私のスタジオで、ハリー・ニルソンっぽい指弾きのプレイを元に曲を作っていったわ。で、ペダル・スティールは私の友人のグレッグ・リースがやってきてプレイしてくれたの。彼は驚異的なペダル・スティールのプレイヤーで、ボブ・ディランやジョニ・ミッチェルといった誰もが知っている人たちと共演しているくらい凄い人よ。それくらい卓越したミュージシャンに、私は“1つの部屋からまた別の部屋に入っていくような、大きくシーンが切り替わるものにしてほしい”と伝えたの。心に寄り添ったものから徐々に大きなものになり、エンディングで再び心に寄り添ったものにペダル・スティールで持っていってほしかったのよ。

まさにスティールの音が後半につれて、存在感をどんどん増していきます。

 スティール・ギターはかなりロマンティックなものを作り出してくれるサウンドに感じるし、それがどんなものであれ今にも涙を流しそうな美しい心の動きを感じさせてくれるわ。正確で定まった音では表現しきれないものをスライドはもたらしてくれて、そこに感情を感じるの。必ずしもどんな音楽でも使えるものではないかもしれないけど、ペダル・スティールってカントリー音楽で長らく使われてきたという歴史があるでしょ? 私の好きな昔のカントリーの曲には、いつもペダル・スティールがあった。グレッグにプレイしてもらう時は、私はいつもカーペットに寝そべってリラックスしながら彼の美しいプレイを聴いているわ(笑)。

「My Baby Wants a Baby」はシーナ・イーストンの「Morning Train(nine to five)」のメロディを使っていますが、リズムもゆったりになって、原曲のチャーミングな感じを残しつつ幻想的な雰囲気ですね。

 本当に面白い話なのだけど、この曲を録音してから12時間くらい経ってから、“ワォ! 私はなんて凄いメロディを書いたのかしら?!”って満足し切っていたわ。でも翌朝になって、“このメロディ、どこかで聴いたことがある気がする……”って思ったの。それが“My baby takes the morning train~♪”っていう、“あの曲のメロディと同じだ!”と気づいたのよ。

気づいたら引用していたんですね(笑)。

 そうなの(笑)。そのメロディがパーフェクトに感じたのは、すでにナンバーワン・ヒットになっている名曲なんだから当然よね(笑)。でも、このメロディは私の曲にとてもうまくフィットしていて、このアルバムにもマッチしていた。それに、「Down and Out Downtown」で歌っている“Last night’s heels on the morning train”という歌詞はまさしくこの曲を参考にしているし、シーナのこの曲はとても意味のあるものだったのよ。「Morning Train(nine to five)」を作曲したフロリエ・パーマーももちろんこの曲の作曲者としてクレジットを入れさせてもらったし、本当にうまくハマっているわ。

ギターは“最前線のど真ん中”になくちゃならないのよ!

あなたの作品はジャケットのデザイン、MVやステージング、手にしているギターも含めたファッションなど、ビジュアル・イメージも強く印象に残ります。音のイメージとビジュアル・イメージというのは、それぞれ同時に生まれるものなのでしょうか? 逆に映像やファッションからサウンドのインスピレーションを受け取ることもあるんですか?

 両方ともあるわね。特に映画にインスパイアされて音楽を作るようなことは多いわ。“なんてグレイトなストーリーなの!”、“あの色彩のパレットは素晴らしいわ!”といった感じで、それを観て受け取ったものをもとに音楽を書いたりする。大切にしているのは“音楽を通じてストーリーを伝えること”で、それには私の見られ方や、レコードが入っているスリーブの質感やフィーリングといった部分も重要なの。それら一連のものを組み合わせてストーリーを伝えたいと思っている。このアルバムのアートワークでは風変わりなウィッグを私は着用しているし、ストッキングを破ったりもしている。これはグラマラスなルックスでありながらもどことなくチープさを含んでいて、それがこの音楽のストーリーの一部なのよ。

ミュージックマンのシグネチャー・モデルやシルバートーンの1488、ハーモニーのBobkatなどの使用ギターも、楽曲やギター・プレイも非常にオリジナリティに溢れています。自身のアイデンティティを探していたり、“自分らしさ”で悩んでいるギタリストに、どうやってオリジナリティを見つけ出せば良いか、何かアドバイスをいただけますか?

2008年のステージではシルバートーンの1488を使用。その後のメイン器はおおまかに、ハーモニーBobkat、ミュージックマンAlbert Leeモデル、そしてミュージックマンSt. Vincentと変遷をたどる。 (Photo by Roger Kisby/Getty Images)

 最も大切なのは自分らしくあることね。誰もあなたにはなれないのだから、自信を持つべきよ。ラッキーなことに世界にはたくさんのグレイトなギタリストたちがいて、もちろん彼らを崇めて学べるものは最大限に学ぶべきね。かといって“誰かみたいになる”なんて必要はないの。あなたの声はあなたにしかなくて、それは特別なものだからね。

一時期はギターがない音楽も増えていましたが、今はまたポップ・ミュージックの最前線でもギター・ソロをフィーチャーしたり、効果的に使う人もたくさん出てきました。現代の音楽において、ギターはどのような役割が求められていると感じますか?

 ギター・ソロは曲そのものと同じくらい重要なもので、ギターほどにバイオレントな楽器って存在しないものでしょう? 私だって今でもギターにエキサイティングなものを感じるし、単に使い勝手が良いからという理由だけじゃなく必要があってギターを弾き続けていきたいと思っている。ギターが聴こえるだけで誰しも耳が惹き寄せられたり、驚かされたりするものでしょう? ギターは私にとってアグレッシブでエキサイティング、そしてエモーショナルな楽器なのよ。だから私からギタリストたちに送るメッセージとしては、“さぁ、みんなでギターを手にして乗り込みましょう!”ということね(笑)。ポップ・ミュージックは私たちが作るものだし、様々なものだって作っていけるはずよ。ギターをもっと最前線のど真ん中に持っていきましょうよ! そのためにはギターをあるべき場所に持っていくための音楽を作らなくちゃいけないし、そう、やっぱりギターは“最前線のど真ん中”になくちゃならないのよ!

ギター専門媒体としてはあなたがそう言ってくれると非常にうれしいです! そしてあなたは日本も好きでいてくれているんですよね。

 私は本当に日本が大好きよ! Love! すぐにでも戻っていきたいと思っているわ。

現在のこのクレイジーな状況が終わりましたらぜひ、かつてプレイした渋谷クワトロのようなサイズのライブハウスで最高のショウを見せて下さい!

 そう! あのライブは本当に最高だったわ! 今でも覚えているの、渋谷クワトロ、Hell、Yeah!

本日はありがとうございました。日本で会える日を楽しみにしてます!

 私こそ光栄だったわ! バイバイ!

作品データ

『Daddy’s Home』
St.Vincent

ユニバーサル/UICB-10004/2021年5月14日リリース

―Track List―

01. Pay Your Way In Pain
02. Down And Out Downtown
03. Daddy’s Home
04. Live In the Dream
05. The Melting Of The Sun
06. The Laughing Man
07. Down
08. Somebody Like Me
09. My Baby Wants A Baby
10. …At The Holiday Party
11. Candy Darling
12. NEW YORK FEATURING YOSHIKI(日本盤ボーナス・トラック)

―Guitarists―

セイント・ヴィンセント、ジャック・アントノフ