夏のナイアガラ・ギター放談!鈴木茂 × 村松邦男(前編) 夏のナイアガラ・ギター放談!鈴木茂 × 村松邦男(前編)

夏のナイアガラ・ギター放談!
鈴木茂 × 村松邦男(前編)

本特集の目玉として、鈴木茂と村松邦男の特別対談をお送りしよう! “夏のナイアガラ・ギター放談”と題し、大滝詠一をテーマに思う存分語ってもらった。まずこの前編では『A LONG VACATION』以前、70年代を中心としたトークをお届け。70年代の大滝名盤の1つに『NIAGARA MOON』が挙げられるが、本作を発表した1975年は鈴木茂が『BAND WAGON』を、SUGAR BABEが『SONGS』をリリースしており、この頃は2人にとっても絶頂期だったと言える。果たしてどんなエピソードが飛び出すのか? お楽しみに!

取材=山本諒 撮影=山川哲矢

最後のライブで初めて
はっぴいえんどを観たんです。(村松邦男)

今回は“夏のナイアガラ・ギター放談”ということで、よろしくお願いします。まず本題に入る前に、2人の出会いから聞かせてもらえますか?

村松 はっぴいえんどの最後のコンサートが初めてかな?

“CITY-Last Time Around”(1973年9月21日 於:文京公会堂)ですね。SUGAR BABEがコーラスで出演したという。

村松 大滝さんのステージ(大滝詠一&ココナツ・バンク名義)でコーラスしたりしましたね。で、はっぴいえんどのライブもあの日初めて観たんですよ。“おおっ、生だ!”と。あの時にすごいびっくりしたのが、茂さんはテレキャスターを弾いてたんですけど、レスリー・スピーカーの前に行ってテレキャスを押し付けてるんですよ。いろいろと角度を変えながら。あとで聞いたら、“レスリーの回転する風が弦に当たって、それで弦が揺れてフェイザーがかかる”とか……。

 そんなことしてた(笑)?

村松 してたと思いますよ。本当だったんですか? あれ。

 覚えてない。いい加減なことを言った可能性があるね(笑)。

村松 (笑)。でも、すごいカッコよかったですよ。

 正直、あの解散の頃って、すごく心がザワザワしていて、周りを見る余裕があまりなかったんですよ。だからあまり細かいことを覚えてないんですよね。

70年代初頭の茂さんやはっぴいえんどって、村松さんにはどういう風に映っていましたか?

村松 あの頃はアンダーグラウンドに近かったっていうか。今こそね、あの頃の日本のバンドって持ち上げられてるけど、はっぴいえんどだって学園祭に出ることが多かったと思うし……。

 うん、ほとんど学園祭がメインだね。たまに“日本のロックとフォークのコンサート”みたいなのはあったけど。

村松 地方に行く時なんて、機材を全部自分たちで持って、列車に乗ってね。

 そう。松本(隆)さんがドラム・セットを電車で運んでたこともあった(笑)。今思うとすごいよね。

村松 当時はそういう扱いだったんですよ。全然偉くないというか。

 かなりワイルドだったよね。学園祭も当時は酷くてさ、楽屋として運動部の部室を案内されたことがあったんですよ。もう汗臭い部室で(笑)。しかも“そこに泊まってくれ”って言うから、“それは勘弁してくれ”と断って、急遽、知り合いのお寺の本堂で寝たこともありますよ。

村松 僕らは活動が3年くらい後ですけど、SUGAR BABEも大変なことがありましたよ。とある学祭に出た時、主催者側がもうステージに上がってきちゃったわけ。一升瓶持って。

 (笑)。

村松 “うわ、これヤバいな”と思って。うち、大貫(妙子)さんがいたから“お酌しろ”みたいな瞬間もあって、大変でしたよ。

 とにかく、ロック・バンドはビジネスとしてそれほど成立しなかった時期だよね。当時ちゃんと売れたのは、キャロルぐらいだったんじゃないかな。

75年の『NIAGARA MOON』、
『SONGS』、『BAND WAGON』。
どれも“リズムの音楽”だった。(鈴木茂)

大滝さんもはっぴいえんど時代はそういうハードな現場で叩き上げてきたんですね。村松さんは、大滝さんが書いたはっぴいえんどの曲で特に好きなものは?

村松 「12月の雨の日」。あの曲を聴いてから“カッコいい”と思ってやられちゃったんですよ。

 「12月の雨の日」って、大滝さんの曲の中でも調がよく変わるんですよ。そのモヤッとした感じが“12月の雨が降ってる風景みたい”ってイメージする人もいる。反対に“調がわかりづらい”って感じる人もいて、尾崎亜美ちゃんがそう言ってた(笑)。

村松 (笑)。

 でも、解釈が色々あるような、曖昧さがとても良い曲でね。イントロのギターは、1発目で思いついたフレーズなんですよ。細野(晴臣)さんがアコギで披露して、僕が即興で弾いてみたのがそのまま採用されて。僕にとっても思い出深い曲ですね。

茂さんが好きな大滝さんの楽曲はなんですか?

 僕はやっぱり、ティン・パン・アレーのメンバーとやった「雨のウェンズデイ」(『A LONG VACATION』収録)っていう曲。

村松 あれはいい曲だったね~。茂さんのギター・ソロも、一番気持ち良い。

 うん、あれは印象に残ってるかな。あとは『A LONG VACATION』なら「さらばシベリア鉄道」。それ以前のアルバムなら「論寒牛男」(『NIAGARA MOON』収録)だね。

「論寒牛男」のギター・ソロは茂さんの速弾きが聴けることでファンの間では有名ですよね。

村松 「論寒牛男」はテレキャス?

 確かテレキャスだね。

村松 あのギター・ソロ、指で弾いたんじゃないですか? シビれましたよ。

 うん。親指と人差し指の2本で弾いたのかな。当時はポコ、エリア・コード615、ジェリー・リードとか、そういうカントリー・ロック系の音楽をよく聴いてた時期で。

「論寒牛男」に関しては、大滝さんも過去のインタビューで“あの時の茂は『BAND WAGON』を完成させて、洋行帰りで無敵状態だった”と語っています。

 そうだったかもしれない。今、あれと同じのが弾けなくて困ってるんだけどさ。“なんであんな速く弾けたんだろう?”って(笑)。

村松 そういうのあるよね(笑)。

 福生の大滝さんの部屋で、こたつに入りながらずっとフレーズを考えてたんだよね。自宅録音だから、ゆったりとした気持ちで臨めたのも良かったのかもしれない。

ところで、『NIAGARA MOON』はリリースが1975年5月30日ですが、75年ってお2人にとっても凄く重要ですよね? まず、『NIAGARA MOON』の1ヵ月前にSUGAR BABEが『SONGS』を発表しています。

村松 もうね、最後のほうは2枚を一緒にレコーディングしてたもん。僕らはアマチュアで下手だったから、時間がかかるんです。リズム隊を録ってダビングをやってるうちに、大滝さんが『NIAGARA MOON』を録り始めたから、“今日はどっちのレコーディングで福生行くのかな?”みたいなこともありましたね。

なるほど。それで、『SONGS』からちょうど1ヵ月前の3月25日に茂さんの『BAND WAGON』が発売になっているんですよね。

 そうそう。ひとつ言えるのは、どれも“リズム・セクションで完成させる音楽だった”ってことだよね。その頃は大体そういう作り方で、ストリングスなんてむしろ必要なのか? っていう雰囲気だった。大滝さんも『A LONG VACATION』みたいなサウンドになる前の状態で、僕はその感じが好きなんですよ。“バンドで音楽を仕上げよう”っていう。

村松 『BAND WAGON』はもう、武者修行っぽい感じで海外に行きましたよね。

 そうそう。もう本当に、塀の上を歩くような感じで、いつ落っこちるかわからないまま作りましたから。

村松 でも山下(達郎)くんがさ、ライブで「砂の女」をやったりして……SUGAR BABEの解散コンサートでもやったし。

 うん。嬉しいよね。

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