ソロ名義としては通算8枚目となる新作『Sob Rock』がついに発売された。明確なコンセプトを設けた本作だが、実際のところどんなアルバムなのか? ギター・マガジン2021年8月号のジョン・メイヤー特集に掲載した、ギタリスト青山陽一による『Sob Rock』の徹底解説記事を、ギタマガWEBでも特別に無料公開! その謎を解き明かしていこう。次頁の全曲解説まで、楽曲を聴きながらじっくりと読んでほしい。
文:青山陽一
80’sというコンセプトの裏で光り輝く、
ジョン・メイヤー・クオリティの上質なポップス。
『Sob Rock』
ソニー/SICP-31454/2021年7月21日リリース
【参加クレジット】
ジョン・メイヤー(vo,g,b,k)、ショーン・ハーレイ/ピノ・パラディーノ(b)、アーロン・スターリング(d)、レニー・カストロ(perc)、グレッグ・フィリゲインズ(k)、他
【曲目】
①ラスト・トレイン・ホーム
②シュドゥント・マター・バット・イット・ダズ
③ニュー・ライト
④ホワイ・ユー・ノー・ラヴ・ミー
⑤ワイルド・ブルー
⑥ショット・イン・ザ・ダーク
⑦アイ・ゲス・アイ・ジャスト・フィール・ライク
⑧ティル・ザ・ライト・ワン・カムズ
⑨キャリー・ミー・アウェイ
⑩オール・アイ・ウォント・トゥ・ビー・ウィズ・ユー
80年代へのノスタルジーではなく
あくまで“2021年発表の新作”
スタジオ作品としては2017年の『The Search For Everything』以来、ジョン・メイヤーの4年ぶり8枚目となる新作『Sob Rock』が発表された。
聴く前にまず、驚くのはこの80’s臭漂うジャケット・デザイン。パステル・カラーを基調とした写真の質感といい、斜体の文字フォントや周囲のデザインといい、そのユーモアに思わず苦笑してしまう。さらにアルバムを再生すると、冒頭「Last Train Home」から派手にリバーブ処理されたドラム、そして分厚いボイシングのシンセサイザーによるバッキングが登場。一体これはいつのレコードなのだろうと錯覚してしまうサウンドで、この時点では、頭の中に“?”が点滅しっぱなし。こうした方向性にどことなく陳腐さを感じてしまう80’sリアルタイム世代は筆者を含め相当数いるはずだが、“ヨット・ロック”などという言葉(つまり日本で言うAORと同じような意味)も広まってきた昨今、若い世代には新鮮に響き、最先端と受け取るのかもしれない。
今回ジョンと共同プロデュースにあたっているのはドン・ウォズ。2012年の『Bone And Raised』、2013年の『Paradise Valley』でもジョンと仕事をしてきた間柄だが、その頃からブルー・ノート・レコードの社長職にも就き、以来伝統あるこの会社に新風を吹き込んできた。ジャズに限らずすべてのアメリカン・ミュージックの歴史に造詣が深い人でもあり、ジョンとの相性も良いのだろう。
ギター・プレイも達者なシンガーソングライターとして01年に彗星のように現われたジョンも、いつの間にか40代前半になった。キャリアも20年目に突入し、中堅からベテランの域に入って行く年代だ。77年生まれの彼がなぜ、このようなコンセプトのアルバムを制作したのかはギター・マガジン本誌のインタビューに譲るが、自身の幼少期に巷で流れていたであろう音楽への愛を込めているのは間違いない。また先述のように、AOR的なサウンドが今、一周回ってスタイリッシュに聴こえるという状況も大いにあるだろう。本作の制作のポイントについてジョンは、単純な80年代へのノスタルジーではなく、あくまで“2021年発表の新作”として聴かせることが重要だったようで、機材選びやプロダクションに様々な試行錯誤があったという。
内にソウルを秘めたオブリや
ソロなどの“大人のギター・プレイ”
本作の参加メンバーにはレニー・カストロ(perc)やグレッグ・フィリゲインズ(k)といったレコード産業が栄華を極めた時代のセッション・マンの名前もチラホラ。確かに先行でMVと共に公開されていた「Last Train Home」はいかにもザ・80’sなプロダクションだ。エリック・クラプトンの80年代作品から聴こえてくるようなリード・ギターが鳴り響いていたりするが、そのあたりは確信犯とのこと。
さて、ここまで80年代感について言及してきたが、実は重要なのはここから。冒頭の「Last Train Home」以降は次第にサウンドの意匠についてはさほど気にならなくなり、本作がただの80’sオマージュ・アルバムではないことが次第にわかってくるのだ。結局は、揺るぎないいつものジョン・メイヤー節が耳に残るアルバムに仕上がっているのである。
彼の音楽はデビューの頃から、決して派手なタイプではなく、どちらかというと聴き手の心をジワリと温めてくれるようなものが多い。本作もその“らしさ”はきちんと存在している。また、やろうと思えばAOR的なテンション・コードやジャジィな速弾きなどは朝飯前なはずだが、使われているコードやハーモニー、リズムなどは誰にでもわかる基本的なものばかり。実質半分以上がアコースティック・ギターをベースに弾き語りを延長していく伝統的なシンガーソングライターのレコードの作り方だと思うし、アメリカにおいてはポップ・カントリーの範疇に入るものかもしれない。
そしてギター・プレイにおいては、弾きまくるような局面はそれほど多くなく、シンプルながらツボを押さえて内にソウルを秘めたようなオブリやカッティング、コンパクトで歌えるギター・ソロなど、大人のプレイが目立つ。ギミック的な音色も使わず、大抵は彼らしい透き通ったトーンを貫いている。つまり何が言いたいかと言うと、80’sというコンセプトこそあれど、基本的にはジョン・メイヤー・クオリティの上質なギター・ポップス作品である、ということだ。トリッキー(?)なジャケットに惑わされず、じっくりと付き合ってみてほしい。
『ギター・マガジン2021年8月号』
特集:ジョン・メイヤー
最新作『Sob Rock』を軸に、デビュー20周年を迎えたジョン・メイヤーを徹底深堀り! 奇跡の本人インタビューに加え、トム・ミッシュやコリー・ウォン、アイザイア・シャーキーら超豪華フォロワーたちのインタビューも収録!!