新作で聴ける全10曲にそれぞれフォーカス! ギター的なポイントを中心にレビューしていこう。
「Last Train Home」
この曲だけはモロに80年代を意識
先行で配信されたシングル曲で、アルバムのオープニングを飾るナンバー。80’sモード全開なシンセ・パッドのバッキングが耳に残るが、Bメロの2音でミュート気味にカッティングするリフなども当時よく聴いたニュアンスだ。コーダからはオーバードライブを聴かせたギター・ソロが登場するが、これも80年代のエリック・クラプトンを思わせるミッド・ブースト的な音色。シンプルなペンタトニック中心でぐいぐい歌わせており、リズムやフレージングの巧みさはいつもながらお見事である。後半に登場する女性ボーカルはポップ・カントリー歌手のマレン・モリス。
「Shouldn’t Matter but It Does」
リバーブ感がグッドなアコギ・バラード
80年代にナッシュヴィルあたりのソングライターが書いた曲、と言われたら信じてしまいそうなアコースティックなバラード。タンバリンにかかっている長いリバーブやアンビエント感あるピアノの処理はさりげなく80’sなムードだ。セクションによって定位を変えてくる技ありのアコースティック・ギターも心地良く響く。途中から出てくるエレクトリックのクリーンなアルペジオも、弦ごとに左右に定位されているような不思議な音像だ。
「New Light」
中盤のカッティングが光るダンスAOR
2018年発表のシングル曲。やはり80年代にこんな曲あった気が……というデジャ・ヴ感を引き起こすポップ・ロックだが、80’sというよりはフリートウッド・マック「Dreams」あたりにも通じる8ビートのグルーヴ。低い音域の白玉コーラスや可愛らしい音色の各種シンセでふんわり感を出す方向性なので、ギターはコンプの効いた単音ミュートのリフが入っている程度。だが2分過ぎからはソリッドなカッティングで引っ張るブリッジ→色気のあるコンパクトなソロへ。耳を引くフックを作っている。
「Why You No Love Me」
浮遊感が心地良いアコギ歌曲
再びアコースティック・ギターを中心にしたアンサンブルのミディアム・バラード。イントロはDm-A(on C♯)-Am(on C)-Eというベースラインの半音下降だが、2弦開放のB音を効果的に使ったアルペジオが心憎い。背後のスライド・ギターもシンプルながら浮遊感を演出している。間奏のクリーン・トーンによる8小節ギター・ソロの音使いはシンプルながら3連のノリを入れたグルーヴ感のあるメロディが粋で、こういう短いパートのソロをどうするか悩みがちな人には参考になるかもしれない。
「Wild Blue」
絶妙な間合いで魅せる屈指のギター曲
「New Light」と似たような始まりだが、さらに地味なので最初は素通りしてしまうかもしれない。だがダブルで処理されたボーカルは歌い出しがほとんどJ.J.ケイル。ギター・ソロが始まるとモロにマーク・ノップラーのニュアンスで、このあたりが好きな人にはたまらないかも。よく聴くとジョンによるギターはあちこちから耳に飛び込んできて、実はアルバム中屈指のギター・ナンバーかもしれない。ハーフ・トーン的音色の間奏、コーダのフロントPU的音色のソロはいずれも素晴らしい間合いとフレージングだ。
「Shot in the Dark」
80’sヒッツ的楽曲に溶け込む甘い歌声
イントロから涼しげな空間系エフェクターたっぷりのコード・リフや、それをなぞるピアノ音色がやはり80’sヒッツっぽいミディアム・ナンバー。“Shot In The Dark”という歌詞の前後に入る“C#、D、A”というピアノとギターのユニゾンだと思われるカウンター・メロも当時よく耳にしたパターン。中盤に出てくるディレイを効かせたドライブ・トーンでのちょっとしたメロディや、後半に出てくる複音のカッティングなどはポップスにおけるギター・アレンジのお手本のようなプレイだ。
「I Guess I Just Feel Like」
終盤の歌う絶品ギター・ソロを聴け!
先行配信されたアコースティックなポップ・バラード。ほぼI~IVの2コードに時折VImや経過的な♭VIIが入るだけの超シンプル進行だが、間奏のギター・ソロ部分だけ違うコード進行になるあたりのアイディアも心憎い。コーダ部分ではトレモロのかかったリフが出てきて重量感を増す。終盤のソロでマイナー・ペンタトニック中心のブルージィな空気感に変わるところなどは、やはりクラプトン的なニュアンス。タッチの感じからするとピックを使わず指で弾いているように聴こえるが、これも派手に弾き倒すような方向ではなく、歌うような感覚を大事にしているのが伝わってくる。
「Til the Right One Comes」
さりげないアメリカ音楽の要素が粋!
少々カントリーっぽい味もあるアコースティック・ベースのミディアム・ポップ。イントロの王道ダブル・ストップ・フレーズに始まり、色々なところから気の利いたカウンター・メロディが聴こえてくるが、どれもシンプルながらアメリカン・ミュージックのエッセンスが詰まったリックばかり。短いソロだけ軽いクランチ音色でタメを効かせたマイナー・ペンタトニック・フレーズになっているのも粋だ。VIm-V-IV-Iのこれまた王道の循環コードも効果的。
「Carry Me Away」
基本的なバッキングに徹してムードを重視
2019年に配信で公開されていた曲。前2曲に続いてベーシックにアコースティック・ギターが配されたポップスだが、全体に霞のようにかかっている深めのリバーブやイントロのシンセ、シーケンスっぽいギター・リズムなどはまるで、60年代のフィル・スペクター好きが80年代的な解釈で作ったポップスといった趣。数本入っているギターは特にソロなどはなく、どれも基本的なバッキングに徹している。
「All I Want Is To BE With You」
クラプトン的に唸る終盤のソロに歓喜!
締めもアコースティックをベースにしたバラード。メロディも地味だし、I-IVを基本にVIやVが時折出てくるくらいでコード進行も簡単だが、複雑な進行に頼らない分、むしろソングライターとしての深みが出てくるタイプの曲かもしれない。前半の低音弦を中心にしたエレキもアメリカ大陸の広さや空の大きさを感じさせる映像的な音色。ハイライトは終盤のサステインが効いたギター・ソロ。やはりマイナー・ペンタで唸りを上げるようなクラプトン的展開が印象に残るソロで、お馴染みの塗装が剥げた黒いストラトを使用したという。『Continuum』(2006年)ファンにはビビっと来るかも。
『ギター・マガジン2021年8月号』
特集:ジョン・メイヤー
最新作『Sob Rock』を軸に、デビュー20周年を迎えたジョン・メイヤーを徹底深堀り! 奇跡の本人インタビューに加え、トム・ミッシュやコリー・ウォン、アイザイア・シャーキーら超豪華フォロワーたちのインタビューも収録!!
作品データ
『Sob Rock』 ジョン・メイヤー
ソニー/SICP-31454/2021年7月21日リリース
―Track List―
01. ラスト・トレイン・ホーム
02. シュドゥント・マター・バット・イット・ダズ
03. ニュー・ライト
04. ホワイ・ユー・ノー・ラヴ・ミー
05. ワイルド・ブルー
06. ショット・イン・ザ・ダーク
07. アイ・ゲス・アイ・ジャスト・フィール・ライク
08. ティル・ザ・ライト・ワン・カムズ
09. キャリー・ミー・アウェイ
10. オール・アイ・ウォント・トゥ・ビー・ウィズ・ユー
―Guitarist―
ジョン・メイヤー