インタビュー前半では、フジイケンジに新作『サンバースト』の制作について話してもらったが、後編では使用機材やサウンドメイクについて言及。また、渡辺美里のサポート現場での機材についても語ってくれた。
取材・文=小林弘昂 人物写真=星野俊
チバ君がフロント・ピックアップで弾いてるんですよ。
なのでリアやセンターも使って棲み分けをしています。
最近はよく機材を入れ替えていますよね。例えばTHE BARRETT時代のメイン・ギターだったGrecoのTLタイプを再び使っているようですが。
実はネックを替えたんですよ。72年製のシンラインのネックが1本余ってたから、付けてみようかなと思って。
ええ(笑)! やっぱりネックを付け替えたら音は全然変わりますか?
うん。やっと使う気になりましたね。いつもはジャズマスターのフロント・ピックアップを使ってるんですけど、ちょっと野暮ったいというか、モッサリしてるんですよ。レコーディングだと“もうちょっとエッジがあってもいいかな”と思って、試しにGrecoをセンター・ピックアップで使ってみたら抜けの良い音だったので、「ヒマワリ」と「オルゴール」のレコーディングでも使いました。
そうだったんですね。
あと最近は、チバ君がグレッチをフロント・ピックアップで弾いてるんですよ。今回の楽曲が全部そうかはわからないけど、わりと太マジックでグワーッと書いたような音を作るので、僕もフロントだとバランス的にトゥーマッチになる時もあるから、リアやセンターも使って棲み分けをしています。
今作は1曲1曲ギター・サウンドがけっこう変わっていて、色々試したのかなと思いました。レコーディングで使ったギターは?
「ラドロックのキャデラックさ」は67年製のES-355TDSVで、「月光」と「アンチェイン」は56年製のデュオ・ジェット。あとは61年製ジャズマスターですね。
フジケンさんはジャズマスターを複数本持っていますが、なぜ今回61年製を?
一番音が太いのはメインで使っているサンバーストの59年製なんですけど、61年製のほうがエッジがあるからかなぁ。あ、それと72年製の54年リイシュー・レス・ポール・カスタムも使いました。1曲目の「12月2日」で弾いたかな。
「12月2日」はかなりヘヴィなサウンドになりましたね。
うん。あの音はフロント・ピックアップ(アルニコⅤ)ですね。
「スイセンカ」ではCoralのScorpion 2N12を使ったそうですね。The Birthdayで12弦ギターが登場したのは初めてですか?
初めてです。いや〜、難しかった(笑)。以前、斉藤和義さんのツアーに参加した時に1曲だけ12弦を弾く曲があって別の12弦ギターを使いましたけど、チョーキングもできないし、やっぱり難しいですね。
昨年のツアーでは、アンプをマーシャルLead & Bass 50 ComboとマーシャルSuper Bassの組み合わせに戻していましたよね。
メインはLead & Bassなんですけど、レコーディングではフェンダーのBand-MasterとSuper Bassも置いていて、曲によってどっちかをLead & Bassと組み合わせていくっていう感じでしたね。Super Bassは安定したロー感が出るんです。軽い音にしたくないので、あれを使えば一応安心なんですよ。ライブではステージ上でローがうるさいので、もう使わなくなっちゃったんですけど。
レコーディングでは常に2台のアンプをミックスしているんですね。いつもライブで使っているMusic Manの112 RD One Hundredは?
レコーディングでは使ってないです。あれはライブ用っていうかね。なかなか壊れないから良いんですよ。雑に使える(笑)。
真空管とソリッドステートのハイブリット構造ですもんね(笑)。それとフジケンさんのInstagramを見ていると、最近はブラックフェイスのDeluxe Reverbも使ってるみたいですが。
あれはちょっと前に買ったやつですね。最近のレコーディングではデラリバを使っています。
ビンテージのフェンダー・アンプの歪み感はどうですか?
うーん、ちょっとマットな感じというかね。額縁に収まってくれる感じが好きなんですけど、“それだけだとどうもなぁ”っていうのもありつつ……。
よく行く楽器店があるんですけど、
試奏する部屋の音が一番好き(笑)。
今作のギター・サウンドはかなりミッドに寄った濃密な音になっていますよね。
ミッドに寄り過ぎてた?
いやいや(笑)。『I’M JUST A DOG』(2011年)の頃はもう少し高域が出ていて、ズギャーンと抜けてくるサウンドだったなと思いまして。
そうかぁ〜。
ライブを観ていて、2016年くらいからフジケンさんの出音が変わったなと思ったんですよ。音の重心がより下がってきたというか。
年々、上の音がちょっと耳障りになってきたんですよ。レコーディングの時とか、みんなは全然気にしていないところも気になっちゃって、EQでカットしていて。昔は気にしなかったんだけどなぁ。
フジケンさんは特に高域を気にしますよね? ギター・ソロの時もTONEを絞ったBD-2を踏んでハイを削っていますし。
うん。やっぱり痛いというか、金属音が好きじゃないんですよね。
ジャズマスターのフロント・ピックアップで、真空管アンプのボリュームを上げて歪ませて、よくあそこまで音をコントロールできるなと思うんですよ。
ジャズマスターって強引に作るっていう感覚がないと、ちょっと扱いづらいのかもね。だから今回はペダルに頼ったところもあるかな(笑)。
EarthQuaker DevicesのPlumes(オーバードライブ)など、ペダルも色々と試していますよね。
そうそう。レコーディングでけっこう使ったなぁ。ソロの時に踏んだり、バッキングでもオンにして歪みを足したり。それと最近はボードにJHS PedalsのSuperBolt(オーバードライブ)を入れました。良いですよ。
SuperBoltは今作のレコーディングでは使ってないんですか?
使ってないです。『サンバースト』ではいつものボードとEarthQuaker DevicesのPlumesで。
最近はBOSSのCE-1も足下に置いて、「オルゴール」で踏んでいますよね。
CE-1は昔から好きで、日本の定番のコーラスだなと。Chorusモードに設定して、「オルゴール」ではソロから踏みっぱなしです。
それと黒い63年製のジャガーも使っていますよね?
今またレコーディングしていて、それはジャガーでやっています。デラリバの歪みにBD-2をプラスして。でも、音がカリカリなんですよ(笑)。ローがないし、もう薄っぺらで。その個体の特徴なのもしれないですけど。
ジャガーは難しいですよね。かなり機材を試しているみたいですが、フジケンさんの理想のトーンって?
やっぱり空気感かな。よく行く楽器店があるんですけど、そこに試奏する部屋があって。ブースじゃなくてね。で、そこで試奏してる時の音が一番好き(笑)。
部屋の鳴り方なんですかね?
うん。デラリバがあって、ビンテージ楽器がいっぱいあって。そこの鳴りがちょうど良いんですよ。
最近は渡辺美里さんや宮本浩次さんのバックを務めるなど、セッションマンの活動も活発化してきたと思うのですが、改めてそこから得られたものとは?
それはね、社会人としてのあり方みたいな。美里さんの現場はミュージシャンもみんなパリッとしてるんですよ。僕は普段バンド内である程度ワガママも通るし、そういう感じではないじゃないですか(笑)。でも、発注してもらって現場に行って、“仕事をキチッとしなくちゃ”という気持ちがすごく強いので、パリッとしようと思いますね。
サポート現場だとThe Birthdayとは機材が全然違いますよね。アンプはVOX AC30HWですが、歪みはペダルで作っているんですか?
そうですね。もうステージ上の音量はなるべく下げる感じになってきてます。
お気に入りの歪みペダルは?
ENDROLLっていうメーカーのGeminy/Hod&Hodです。それがメインの歪みですね。
ギターは63年製のストラトが多いですよね?
美里さんの楽曲にオールマイティに合うのがあれかなと思って。美里さんの楽曲のフレーズって、ちょっと佐橋佳幸さんっぽいというかね。自分では作るのが難しいんですけど、ああいう軽やかなギターも好きだし、やっぱり80年代に帰る感じがあって良いんですよ。
美里さんの現場で使うボードにはTC Electronicの3RD DIMENSION(コーラス)が入っていましたもんね。
そうそう(笑)。DIMENSION良いですね。あと最近、美里さんのツアーに一緒に参加している設楽(博臣)君っていうギタリストに教えてもらって、Line 6のM9を買いました。マルチ初めてなんですよ!
え、めちゃくちゃ意外です!
今までZOOMとかBOSSの小さいマルチですら使ったことがなかったんです。
やっぱり便利ですか?
便利(笑)。空間系はもうあれだけで作っています。
作品データ
『サンバースト』
The Birthday
ユニバーサル/UMCK-1690/2021年7月28日リリース
―Track List―
01.12月2日
02.息もできない
03.月光
04.ラドロックのキャデラックさ
05.レボルバー
06.アンチェイン
07.晴れた午後
08.スイセンカ
09.ショートカットのあの娘
10.ギムレット
11.バタフライ
―Guitarists―
チバユウスケ、フジイケンジ