内省と激情の末に生み出された詩世界を、ラウドなバンド・サウンドと融合させ、独自のアンサンブルを構築する男女4人組ロック・バンド、MOSHIMO。そんな彼らが、1stフル・アルバム『化かし愛』でついにメジャー・デビューを果たした。ストレートさと遊びが同居する本作について、そして今作を貫く歪みへの愛を、岩淵紗貴(vo,g)と一瀬貴之(g)の2人に語ってもらった。
取材・文=新見圭太
笑顔でライブがしたいから、
この作品ができたんだと思います。(岩淵)
まずはメジャー・デビュー作『化かし愛』が完成した現在の心境を教えて下さい。
岩淵 コロナ禍で大変な人も多い中で、こうやってメジャー・デビューさせていただくのは本当にありがたいですね。新しいメンバー(汐碇真也/b、高島一航/d)も迎えて、新しく関わってくださる方も増えて、今後もやれることがさらに増えていくような凄く楽しいメジャー・デビューになりました。
一瀬 色んなバンドが解散したり、悲しいニュースを目にする中で、僕らがここで頑張らなくてどうするんだと思ったんです。それでメジャー・デビューという決断をしました。
そうした思いが詰まっているせいか、今作のサウンドは『TODOME』(2019年)に比べて、さらに殺傷能力の高いバンド・サウンドになっていると感じました。
岩淵 殺傷能力が上がったかどうかはわからないです(笑)。でも、ストレートさが出た楽曲が多くなったとは思いますね。正直に言うと、タイトなスケジュールで今作の制作を進める中で、人間関係について考えることが多かったんですよ。その中で何も恐れず、誰にでも良い顔をするわけでもなく、軸を持って取捨選択をしていかないといけないなと思って。
決断を迫られる場面があった。
岩淵 そうですね。それで過去の自分を振り返ったり、今後のバンド像や自分の将来なりたい姿を考えながらこのアルバムを作っていきました。結果として新しいメンバーやスタッフの方と一緒にスタートを切れるような起爆剤的な作品になったと思いますし、同時に次の作品につながるようなデビュー作になったと思いますね。
なるほど。
岩淵 あとは今の時代、物事をはっきり言えない人も多いじゃないですか。言うことが怖かったり、思っていることを発言することが悪いと言われたり。でも、自分が感じた違和感というのは決して悪いものではないと思うんです。MOSHIMOのお客さんにはそういう人も多いですし、自分も4年間引きこもっていた時期もあったりして。でも、自分が感じた違和感をクリアに言えるようになりたいし、そういう人たちと笑顔でライブをしたいので、このアルバムができたんじゃないかなって思いますね。
同調圧力や自主規制に息苦しさを感じている人は多くいると思いますし、岩淵さんの抜けの良い歌詞に救われる人は多いかもしれません。一瀬さんはどうでしょうか?
一瀬 今作には変わらない部分と、あえて狙った部分があるんです。変わらない部分としてはヨナ抜き音階を使ってMOSHIMOらしいメロディにしてみたり、「3年前に別れた彼はどっかの誰かと結婚したらしい。何とも言えない何とも言えない何とも言えない敗北感の歌」のように殺傷能力が高い曲をブラッシュアップして作ったことですね。“あえて”を狙った部分としては、コロナ禍で季節を感じづらい世の中になっているので、「化かし愛のうた」や「侘び寂び 夜遊び 夏祭り」、「青いサイダー」などの夏っぽい歌を多く収録しました。なので、音だけでも夏感を味わってもらえればと思います。
今作の前半では「化かし愛のうた」に代表される四つ打ちの楽曲が多く収録されていますよね。
一瀬 そうですね。“MOSHIMOはこういうバンドだ!”ということをこのタイミングで提示しておきたかったんですよ。だから、前半はライブ・バンドらしいアッパーな曲を詰め込んでいます。
岩淵 四つ打ちはフェスやライブ文化の中で、切っても切り離せないようなビートだと思うんですよ。MOSHIMOにとってライブは大きな軸の1つなので、それができない状況でもライブ・バンドとして届くようなものにしたい思っていて。それで一瀬とも話し合って、日常でもノれてアガれるような楽曲を多く前半に収録しました。
そうしたストレートなサウンドがある一方で、「倦怠期」では中華料理の名前と中華風のフレーズがあったり、「侘び寂び 夜遊び 夏祭り」も祭りっぽいフレーズが入り、遊び心を感じる楽曲も増えましたよね。
一瀬 そうですね。以前やっていたバンドでは、あまりふざけるのが好きじゃなくて、カッコつけていたんです。でも実際にライブで演奏するとなると、“やりすぎちゃった”くらいのほうが楽しいんですよね。ライブはみんなが心を解放しに来ている部分もあると思うので、ライブが再開されたらみんなで遊べると良いなと思ってふざけてみました(笑)。