Interview|若林純(お風呂でピーナッツ)次世代デュオが魅せる洒脱なポップス Interview|若林純(お風呂でピーナッツ)次世代デュオが魅せる洒脱なポップス

Interview|若林純(お風呂でピーナッツ)
次世代デュオが魅せる洒脱なポップス

 編集部注目の新人アーティストを紹介する本コーナー。今月は男女2人組のポップ・デュオ、お風呂でピーナッツをピックアップした。

 彼らの魅力は、ジャズやR&Bをテクニカルかつユニークに構築したトラックだろう。そして、そこにエモーショナルかつ繊細な歌声が乗ることで、楽曲をいっそう洗練されたものにしている。

 デビュー作『スーパー銭湯』は、垢抜けたポップスの要素を持ちつつも、変幻自在なギター・プレイの魅力をしっかりと味わえる作品だ。例えば、速いパッセージのソロをのびのび弾きこなす「sento2」があったかと思えば、「minamo」で聴かせるシンセの音使いなど、多彩なアプローチの数々を堪能できる。

 今回はそんなアンサンブルを支える若林純(g)に登場願い、ギターを手にしたきっかけから教えてもらった。

取材/文:編集部

▲L→R:樋口可弥子(vo)、若林純(g)

プレイの自由を求めて
ジャズ・ギターを始めた。

 “小学5年生の時にゆずやコブクロといったアコースティック・デュオを好んで聴くようになったんです。それで親にアコギを買ってもらって、弾き語りを始めたのがきっかけですね。中学生になって、RADWIMPSやONE OK ROCKの影響でエレキ・ギターに持ち替えるんですけど、本格的にエレキを弾くようになったのは高校生くらいかなぁ。高校に音楽好きの先輩がいて、その人からガンズ・アンド・ローゼズやレッド・ホット・チリ・ペッパーズなどを教えてもらいました。それで、ギターを弾きまくるギタリストにのめり込んでしまって(笑)。そこからパット・メセニーや、上原ひろみさんのようなジャズ・プレイヤーを聴いて、もっと自由にギターをプレイしたいと思うようになりました。それで大学ではビッグ・バンド部に入ったり、ジャズ・ギタリストの井上智さんに手ほどきを受けたりしましたね。井上さんから教えてもらったことで、今でも覚えていることがあるんですよ。当時、僕はとにかく弾きまくるようなギタリストだったんですけど、「料理で例えると、お前は相手の口に詰め込んでるだけや、噛む時間をあげろ」と言われて。この一言は今のようなプレイ・スタイルになるきっかけになりましたね”。

 初めてギターを手にした時からの来歴がわかったところで、次に影響を受けたギタリストについて聞いてみる。

 “色んなジャンルのギタリストから影響を受けているので難しいですが、初めてギター・プレイを聴いてソロのかっこよさに衝撃を受けたのはジョン・メイヤーとジミ・ヘンドリックスでしたね。その影響もあってストラトを購入したんですよ。あとはレッチリのジョン・フルシアンテ。彼のギター・プレイからは色んな音楽の影響を感じられますし、なにより彼のフレーズって頭が柔らかい感じがするんですよ。手癖をあまり使わずに、独創的に弾き倒すところが自分にとっては魅力的なんです”。

▲若林のメイン器は、高校生の頃に入手したという89年製のフェンダーのストラト・プラス。改造点は特になく、“様々な音色に対応できる汎用性の高さ”がお気に入りだそう。

頭の中で鳴る感覚を大事に
プレイに落とし込んでいます。

 今作『スーパー銭湯』では、「sento2」や「海の影」に代表される、楽曲を駆け回るような自由奔放なフレーズが魅力的だ。こうした既成概念にとらわれないプレイはどのようにして生まれるのだろうか?

 “基本的には、既存の音楽から自分たちの作品を生み出したくないと思っているんです。例えば、ある風景を作品にする時に手癖だけでフレーズを作ってしまうと、それを純粋に表現できなくなってしまう。なので、ギターではないものからインスピレーションを受けたり、サックスやほかの楽器のフレーズを練習したりして、試行錯誤して作っていますね。あと、ギターという楽器は奏法やピッチを含めて一番色んな音が出せると思うので、様々な音が頭の中で鳴っている感覚を大事にしてプレイに落とし込んでいます”。

 本作では多様なギターの音色が聴けるのもポイントの1つ。特に印象的なのは「minamo」で聴けるギター然としたサウンドと、空間系を用いてアタック音を感じさせないシンセのような音。こうしたサウンドの数々を創出した機材について教えてもらおう。

 “今作のギターは全部自宅でライン録りしたものなんです。基本的にはマーシャルのアンプ・シミュレーターの音をベースに、BOSSのCE-5やBF-2、strymonのblue Skyなどのペダルを使ったかな。モジュレーションについてはDAWであとがけしたものもあります。「disconnection(feat.Kingo)」ではBF-2をかなり攻めた設定にすることで、いわゆる「ギターっぽい音」から離れることを意識してサウンドメイクをしていきましたね。あとは「minamo」では、前半で音の広がりを意識した音色にしていて、そこから後半に向けて密度をあげていくような音作りを目指しました。こういった機材の使い分けは、ギタリストというよりはコンポーザー的な意識が強いからだと思います。全体を俯瞰した時のギターのあり方にもこだわって機材を使っています”。

 機材の次はプレイについても話を聞こう。様々なジャンルを柔軟にクロスオーバーさせ、都会的なサウンドに昇華した今作のギター的な聴きどころを挙げてもらった。

 “「sento2」の長尺のギター・ソロはぜひ聴いてほしいですね。ロックやジャズのニュアンスが入っていて、自分の音楽人生を感じさせるようなソロです。聴いてもらえれば、自分はどういったギタリストなのかわかる名刺のようなプレイだと思います。あとは「海の影」のラストのソロ。ここはギタリストとしての主張が激しく出ていて、ギターが楽曲の中で映える瞬間の楽しさを感じてもらえると思います”。

 さらに今作について聞き進めていく。綿密な音作りもさることながらアドリブ的なプレイの展開が多いのも聴きどころの1つだ。こうした即興的な演奏を通して彼が表現したかったこととは?

 “実はバンドで演奏することを前提で制作を進めていたんです。最近、生楽器の音を聴く機会が減っている気がしていて、それが凄く残念だったんですよね。もちろんトラック・サウンドも好きなんですけど、もともと自分がジャズの現場を多く経験していたことから、その場で音楽を作り上げていく感覚も好きなんですよ。その感覚を表現したかったので、アドリブを交えたセッションをしながら「海の影」や「AM6:00」といった楽曲を作りました。打ち込みでは作り出せないバンド特有のグルーヴ感を出せたと思いますね”。 

 最後に本ユニットではコンポーザーも務める彼に、ミュージシャンとしての展望を聞いてみた。

 “個人的にはギタリストが必要な現場に呼ばれるよりも、1人のアーティストとして声がかかるようなりたいです。自分が理想としているプレイヤーは、柔軟かつ自由に新しい音楽を生み出していているので、僕も感覚や感性を評価されて、新しい音楽を作り続けるのが理想ですかね。ユニットとしては色んな人に聴いて欲しいです。このユニットは自分にとって居心地がいいホームのような場所で、そうした大切な場所を世の中の人にもっと知ってもらいたいですね”。

作品データ

『スーパー銭湯』
お風呂でピーナッツ

Airplane Label/AP1092/2021年7月14日リリース

―Track List―

01. sento2
02. minamo
03. 海の影
04. disconnection feat. Kingo
05. A.M.6:00

―Guitarist―

 若林純