Interview|井上銘ジャズ・ギタリストが挑む歌の世界 Interview|井上銘ジャズ・ギタリストが挑む歌の世界

Interview|井上銘
ジャズ・ギタリストが挑む歌の世界

憧れの楽器だったから
諦めきれなくて。

『POP MUGIC』で使った機材についても教えて下さい。

 最近はギブソンのL-5Sをよく使っていて、今回もそれが多かったかな。

▲Gibson L-5S

比較的珍しいギターですよね。

 70年代にパット・マルティーノがこのギターを使っていた時期があって、昔からめちゃくちゃ憧れてたんですよね。あまり市場にも出ないんですが、縁があって手に入れました。でもいざ弾いてみたらオール・メイプルなので硬くて重いし、サステインもないし、音もパッキパキに固くて(笑)。

ギブソンっぽくないというか、意外ですね。

 そうなんです。だから見た目はよくても音は厳しいかなと思ったんですけど、憧れの楽器だったから諦めきれず、かなり改造して使ってます。今はもうピックアップもノブもペグもナットも変えていて、オリジナルのパーツが全然ないですね。1ボリューム/1トーンにしているんですが、もう片方のボリュームとトーンだったノブはコイル・バランサーになっています。0にするとコイルタップ状態、10にすると普通のハムバッキングになって、その間の音も楽しめるみたいな。色々手を加えたおかげでかなり良くなりました。

面白い仕様ですね。ほかのギターは?

 あとはストラトキャスターとか、アコギやガットも弾いてます。あとは「キミナミ」で、知り合いのエンジニアに借りた12弦のリッケンバッカーも使いました。

箱モノ系はあまり使ってないんですね。

 今回はシンセとか鍵盤系も含めて色んな楽器が入ってるので、音が細い楽器のほうがアンサンブルに混ざりやすかったというのはありますね。箱モノのギターって帯域が広いので、ほかの音を侵食してしまうというか。もちろん、ギター1本や少ない編成で表現する時には最高ですけどね。

なるほど! アンプなどに関しては?

 エレキ・ギターに関しては全部ライン録りだったかもしれないです。足下でアンプ・シミュレーターまで通して卓に送って、自分はコントロール・ルームで弾いたかな。アコースティックはマイク録りですけど、「Lonely」のギター・ソロはGodinのエレガットをフェンダーのアンプで歪ませて録ってますね。

エレキかと思ってました!

 あと「Dreamy」のソロの音もめっちゃこだわりました。これは鉄弦のエレアコをアンプで鳴らして、そこにビブラートをかけてピッチを揺らした音をメインに、その裏にガットの生音で同じフレーズを重ねたんです。そういう誰も気づかなさそうなこだわりが随所にあります(笑)。

かなり特殊な音の作り方ですね。

 あんまりギター的な常識がないのかなと自分でも思うんですけど(笑)、そういうアイディアで面白くなるのかなという気もしていて。アコギをアンプにつなぐのは変わった音がして好きですね。AC30で鳴らすと面白いですよ。

何をやり出すかわからない感じでいたい。

今後も歌を取り入れていくとすると、ライブの幅が広がりそうですね。

 これまでもソロ・ギターでツアーを回ったりはしていたので、それと合体してさらに旅芸人みたいなことができるかなと(笑)。すでにソロ・ギターやトリオのライブで2~3曲歌ったりはしていたんですけど、“歌います!”って明言するライブは10月(渋谷 7th FLOOR)に予定しているのが初めてです。そのあとは本当に1人で各地を巡業して、来年の春くらいに次のアルバムを出せたらなと思います。このタイミングでバンド編成での歌うライブも計画したいですね。

次作はさらにボーカルをやっていくのか、もしくはギタリスト的な作品に立ち返るのか、どう考えていますか?

 歌があったり、インストがあったり、ソロ・ギターだったりと全部ゴチャっとなってるようなアルバムを作ろうという話をしていて。今回歌を歌ったこともそうですけど、こういう行動は続けていかないとなと思っているんですよね。何をやり出すかわからないくらいの感じで。俺はずっとジャズをやってきましたけど、新しい場所を開拓するために全然関係ないことを思いきってやってみるのも大事だと思うんです。今回のジャケットもそういう“未開拓の地に飛び込む”っていうイメージなんですよね。

色々やりつつも、あくまで軸はジャズ・ギタリストというところになるんでしょうか。

 ジャズは自分の母国語というか、自分と音楽の関わり方のフィルターが本能的にそうなっているんだと思います。それを軸足に置きながらという感じですね。やったことないことをやるのが好きなので、さっきも言ってもらったように1人で全パートやるとか、今後はそういうこともやるかもしれない。これまでも色んな活動をしてきて、自分の経歴もちょっと不思議な感じになってきたと思うので、そういう自分にしかできない音楽をやっていきたいです。

最新作

『POP MUGIC』 井上銘

リボーンウッド株式会社/RBW0020/2021年7月14日リリース

―Track List―

01.Crazy Days
02.キミナミ
03.Dreamy
04.Lonely
05.Never Too Late

―Guitarist―

井上銘