前作『TITY』(2020年)ではブラック・ミュージックを軸に、グルーヴィかつ洗練されたアンサンブルを鳴らしたBREIMEN。彼らの1年ぶりとなる新作『Play time isn’t over』は、そのブラック・フィーリングに新たなエッセンスを加えることにより、カテゴライズできない独創性溢れるアルバムに仕上がった。ここではそのオリジナリティに加担するギタリスト、サトウカツシロに登場願い、新作や機材の話、そして理想とするギタリスト像までをじっくりと語ってもらった。
取材・文=新見圭太
楽曲に対して俺にしかできないような
最適解を探っていった。
前作『TITY』からの成長が著しい今作、『Play time isn’t over』がリリースされましたが、反響はどうでしょうか?
おおむね良かったと思いますね。“作品として良いよね”であったり、“コンセプトが面白い”って言われたような気がします。詳しいことは忘れちゃったんですけど(笑)。
(笑)。前作はブラック・ミュージックを軸としたサウンドが印象的でしたが、今作はBREIMENの音楽としか形容しがたいアルバムに仕上がっています。こうした作品になった要因はありますか?
アルバムのために曲を作ったのが大きいと思いますね。あとは俺もみんなもワン・アンド・オンリー度が増したんだと思います。
本アルバムには色んなジャンルの楽曲が収録されていますが、コンセプトはあったんでしょうか?
アルバムのタイトル通り、『Play time isn’t over』ですかね。“遊びは終わらないぜ”みたいな。別に楽しい事だけやってたいみたいな意味だけじゃなくて、変わっていく世界や状況の中でも、自分らの在り方だったり意思だったりを表現し続けていきたいみたいな。そういった意味で、“音を止めたくない”という気持ちが反映されたアルバムになったと思います。そこにはもちろんコロナの影響もあって、俺も現場がなくなって半年くらい何もできないような状況があったんですけど。
サトウさんに限らず、BREIMENのメンバーは様々なアーティストのサポートも行なっていますよね。
そうなんです。で、俺は何となく自分と向き合うような時間ができたんですよ。意識的に“自分と対峙するぞ!”という感じではなく。
なるほど。
それが今までの人生で得た経験だったりを振り返って整理する時間になったんだと思うんです。これまでがむしゃらに突っ走ってきて、わかったような気になっていたんでけどね。“わかる”って情報を得た時じゃなくて、自分自身で気付いた時なんだと気づいたんですよ。
そうした気づきが今作に反映されているわけですね。本作では「赤裸々」のプレイに代表されるように、コードを弾いたあとスムーズにオブリやフレーズへ移行するプレイが多く収録されています。これによって楽曲がより一層、彩り豊かなものになっていると思うのですが、こういったフレーズはどのように作っていくのでしょう?
コードって結局1つの音を積み重ねたものじゃないですか。なので、まずコードをフレーズっぽく弾いてみるんですよ。言葉で説明すると難しいんですけど(おもむろにアコギを手に取る)。基本的にはこんな感じですね(Bsus4のコード・トーンを、スタッカートを交えながら弾く)。
確かにフレーズっぽくなりました!
構成音を弾いているだけなんですけど、どことなくメロディっぽくなるんですよね。
楽曲に起伏をもたらす際にアルペジオに重きを置く人もいれば、サトウさんのようにメロディを用いて押し引きをするギタリストもいます。サトウさんはなぜ、メロディを多用するプレイ・スタイルになったんでしょう?
アルペジオも僕は好きですけどね。でも音価の長短は別として、基本的にはアルペジオのほうが音がダマになりやすいんですよ。そうするとほかの楽器のスペースに干渉してしまうからですかね。BREIMENのアンサンブルにおいて、1つの音が曲に対して効果的に作用していてほしいし、ほかのパートの音が楽曲にもたらすものを邪魔したくないんです。なので、必然的にメロディっぽいフレーズが増えてくるんですよ。
「赤裸々」はまさにその構造ですよね。しかも、アーミングによる揺らぎも使っているという。もはや、普通にバッキングしたくないんじゃないかと勘ぐってしまいました(笑)。
多少、その気はあります(笑)。やっぱり誰もが思いつくことはやりたくないんですよね。自分のユーモアで作っていきたい。でも「Play time isn’t over」は逆にずっとコード・ストロークをしているだけで。
「Play time isn’t over」はアウトロでソロを弾きまくっているので、それまでの焦らしなんだと思っていました。
このソロは実はデモをそのまま使っているんですよ。
そうなんですか!?
プリプロの際、この部分にギター・ソロを入れることが決まったんですよ。それでそのあとに録った1テイク目のものなんです。それで、“もうこれでしょ”ってなって。
今作では「色眼鏡」のアウトロでも過剰にワウをかけたギター・ソロが炸裂しています。
そうですね。ここのソロはバイブスだけで言えば、レッド・ホット・チリ・ペッパーズを意識していて。
その感じ、わかります(笑)。
でも、ジョン・フルシアンテはこんなに弾きまくらないと思いますけどね(笑)。
前作の「By My Side」という曲では激情的なトレモロ・ピッキングがありましたけど、今作ではグッド・メロディなフレーズや素早い運指など、左手で魅せるプレイに変化しているのもこのアルバムの大きなポイントだと思いました。
特にテクニカルに弾こうと思ったわけではないんですけどね。でも、指が動く、動く(笑)。
(笑)。ここのソロも事前に入念に作りこんだというよりは即興性が強い気がします。
基本的にソロは内容を決めないで録るんですよ。プリプロでギター・ソロの場所だけ決めておく感じで。
その場のモードや感情がモロに出るから、熱量の高いプレイになるんですね。
もちろんバッキングなどもそうですが、ソロは一番顕著に出ます。高ぶりが出てしまうというか。
今作でサトウさんが一番高ぶったのはどの部分でしょう?
「色眼鏡」は“やったれ!”って感じで弾けましたね。でも、今作はけっこうクレバーに作っていった感覚があるんですよ。例えば「ツモリツモルラバー」では、ほぼ同じ2音のカッティングと付点8分ディレイのハーモニクスをやっているだけという。“それ弾いてて楽しいの?”みたいなプレイ(笑)。でも誰もやらなさそうなことだからこそ、凄く楽しいんですよね。
この曲のカッティングは苦行という感じがあります(笑)。
ほかにも「Zzz」では、ジェフ・ベックもカバーしている「スリープ・ウォーク」のフレーズを引用したりして。
今作のタイトル通り、遊び心を盛り込んでいるという。
そうです。そして、楽曲に対して俺にしかできないような最適解を探っていったという実感がありますね。やっぱり、自分のギターに飽きるのが嫌だし、自分のギターがつまらないって思った時が一番キツいですから。だから考え抜いて、今まで自分がやったことないことをやってみようと思って作っていきました。それもあって、サウンドメイクも普通じゃない感じになっているんですよ。