Interview|横田明紀男求道者が目指す“終着点” Interview|横田明紀男求道者が目指す“終着点”

Interview|横田明紀男
求道者が目指す“終着点”

スパニッシュ・ギターの奏法やスラップなど、さまざまなテクニックを駆使して独自のジャズ・ソロ・ギター道を突き進む横田明紀男。約2年ぶりとなる新作は、自身のルーツでもある“ビバップ”をテーマに据えるが、あくまでもそのアプローチ方法は横田流だ。「Oleo」や「All Blues」などのジャズ・スタンダード曲から、ノラ・ジョーンズの「Don’t Know Why」といった歌モノなど選曲も幅広く、さらに「My way」ではカホンにも挑戦しているそう。今なお進化を続けるジャズ・ギターの求道者に、新作に残した“現在地”を語ってもらった。

取材=福崎敬太 Photo by 三宅響(Smile Style Studio)


ギタリストは
カホンをやると良いですよ!

新型コロナ・ウイルスの騒動がまだ収束しませんが、横田さんは緊急事態宣言中などどうお過ごしでしたか?

もともと“5月くらいになったらレコーディングしようかな”とは思っていたんです。でも、4月、5月は仕事が全部なくなってスッポリ空いてしまったので、まずは“どうしよう”っていう感じでしたよね。で、僕は持病もあるし高齢者なので(笑)、表に出るのが怖いから練習の量は増えました。

やっぱり練習が増えるんですね。

お酒の量も増えるんですけど(笑)。ギターを触っている時間がすごく増えましたね。レコーディングに向けてのアイディアを熟成させたり、未完成の曲を仕上げたり。そこに時間を使えたので悪くはなかったかな。

ソロ作は約2年ぶりですが、今作のテーマは?

20歳の時にトリオ・レコードで西直樹(p)さんの作品でデビューしてから40年経っているんだけど、やっぱりその頃からずっと、僕はビバップが好きなんですよ。だから、ガット・ギターを指で弾くのと並行して、エレキ・ギターでビバップをやるっていうのが大きなテーマです。ただ、自分なりのビバップなので、チャーリー・パーカーやチャーリー・クリスチャンのような感じではやらないですけど。あと、60歳も過ぎたので、もう一回ちゃんと自分の音楽の方向性を考えて、“最終地点”に向かって頑張ろうと(笑)。やっぱり中牟礼(貞則)さんのような先輩を見ているとものすごく励みになるんですよ。彼から見たら僕なんて若造ですし、彼の笑顔やプレイを見ると本当に頑張ろうと思える。だから、“ビバップを大事に”っていうのと、“ギタリスト人生を笑顔でいよう”っていうことがテーマですね。

制作はどのように進んでいったんですか?

5月4日くらいからレコーディングを始めて。1曲につき2日くらいかけたから、だいたい18日くらいで録りました。そこから今回はミックスも自分のやり方で試行錯誤してみたんですけど、それがすごく楽しいんですよ。「My Way」やオリジナルの「Mission」にはパルマ(フラメンコの手拍子)を入れているんですけど、“肉の音を出すには250Hzあたりをどうたら”とか(笑)。そんなに凝っているわけではないですけど、なるべく“生の肉の音”が出るように頑張りましたね。それと、「My Way」にはカホンやウィンド・チャイムも入っていますけど、あれも自分でやっているんですよ。

そうなんですか?

そう。最初はもうちょっとこじんまりしたアレンジになると思ったんですけど、“いや、これはカホンが欲しい!”って思って。あとはウィンド・チャイムとトライアングルは絶対に必要だと思い、全部買って、そこから練習を始めたんです。

チャレンジングですね。

なんでもね、できると思えばなんとかなるんですよ。今までシーラEや横山達治さんなど、いろんなパーカッショニストとやってきましたけど、テクニックさえあれば“自分が求める最良のパーカッショニストにはなれる”と思ったんです。やってみたら、そりゃあ大変なんだけど、いろんなリズムのことが勉強になりましたね。“4拍目の16分音符”をちゃんと感じるとか。テンポ・キープではなくて、やっぱり“グルーヴを発生させる原点”っていう部分で、ちょっといい加減な部分もあったんです。例えば、自分のギターを先に録ってからカホンを被せると、ギターがズレているんです。ギタリストはカホンをやると絶対良いですよ!

ギターを歌わせたいんだったら、
歌手をちゃんと観察する。

今作の選曲はどのように決めたんですか?

「Oleo」と「All Blues」は絶対に入れたかったんです。

それはビバップを目指す中でマストだった?

そうです。今の僕にとってビバップという言葉は、何にも縛られることのない自由なジャズっていう意味なんですよ。例えばコードを先行させてしまって構わないっていう考え方とか、昔はなかった発想が今はあるんですよね。20歳の頃、八代一夫さん(p)のバンドで秋山一将(g)さんと初めて一緒に「朝日の如くさわやかに」を弾くことがあって。僕はビバップっぽいフレーズを弾いて、そのあとに秋山さんのソロになってだんだん熱くなっていくんです。そしたら彼は、こう(弾く/ストロークし続けながら7thコードを半音ずつ上げていく)。それを聴いたお客さんは“ワー!!”ってなったんです。正直、その時は“あんなデタラメなことをやってお客さんが喜ぶんなら簡単だよ”って思ったの。でも、今は全然違うんですよ。やっぱり、エモーショナルなことをどうやって表現するかっていう手法的なことだから。それを聴いている側がどう判断するか。ドキドキするならそれで良いし、拍手が自然に出たらそれはもう素晴らしいアートだと思うので。

表現ですよね。

そうですね。今ようやくわかってくることがたくさんあるんですよ。だから、「Oleo」はチャーリー・パーカーみたいなフレーズで始めて、途中からは好き勝手なこともやっているし。ただ、ひとつ絶対に気をつけているのは、全編とおして1拍目がわからなくなるような演奏はしないこと。1拍目がわからないような演奏をしてしまうと、それだけで興味が失せちゃうので、そこは譲れないんですよね。“別に良いじゃん”って思う人もいるけど、音の羅列の中で1拍目がわからないのは、聴いている側としても苦痛に感じてしまうんです。その時にどうするかって言うと、1拍目にコードをジャーンって弾くんですよ。良いか悪いかわからないですけど、それが僕のスタイルなんですよね。

プレイヤーのための音楽というよりリスナーのための音楽というか、ある意味、ブルース寄りな考えかもしれませんね

僕の考えはけっこうそっちですね。素晴らしいかもしれないけど、聴く人が興味を失ってしまったら意味がない。逆に岡本太郎さんは“芸術はわかりやすくてはいけない”って言っていて、“なぬ!?”って思ったんですけど、あれはあれで良いんですよ。“これ何?”って思う彫刻とかって、1秒観てインスピレーションが湧いたりするから。でも、音楽は少なくとも5分くらい聴くじゃないですか。そしたら、やっぱり“何をやっているの?”って言われるのはツラいですよね。

「Oleo」のアレンジのイメージは?

それこそ、コード先行っていうイメージです。僕の弾き方としては、「Oleo」は左手の小指を使わない。そっちのほうが絶対うまく弾ける。あと、この曲のコードはサウンド感先行で決めていて、メロディに“ソ(G)”がいっぱい出てくるんですけど、それはコードの運びを考えて全部開放弦を使っています。キレを良くしたいフレーズや“これ厳しいな”っていうフレーズは開放弦を混ぜる運指を考えてみるとうまくいくことがけっこうあって。前の作品だけど、「Isn’t She Lovely」をCでやった時に、ブレイクの部分でいろいろと試したんです。で、最後を2声にしてなおかつクリスピーに聴かせるために、2音目のラを5弦開放にしてそのあとのドを6弦8フレットに移動するっていうのがベストだったんですよ。

「All Blues」はかなりブルースですね。

もうスリー・コード・ブルースでやりたいくらいなんですけどね。最後のほうでE♭7→D7っていうところがあって、あそこはいわゆるジャズマンの腕の見せどころで、いろんな人がいろんな難しいことをやるんですが、個人的にはあそこで難しいことをやるのが嫌いなんです。コードは動いているけど、“ブルースなんだから別に良いじゃん!”っていうのが僕の考え方。

スティーヴィー・ワンダーやノラ・ジョーンズといった歌モノのカバーも入っていますね。

「I Wish」は前からやっていたんですけど完成していなくて。ようやくできるようになってきたので、このタイミングで入れました。で、「Don’t Know Why」は、YouTubeでいろんな動画を観ていると関連動画に出てくるんです。それで久しぶりに聴いてみたら、やっぱり内声の流れなどがすごく好きなタイプなんですよね。“これをCでやったら内声の動きはどうなるんだろう”と思ってやってみたら、スルっとできちゃったので録りました(笑)。

「Don’t Know Why」は原曲の歌メロを大切にしたアレンジですが、メロディを歌わせるコツを教えてもらえますか?

ギターでメロを弾く時に、下からのスライドで目的の音を出す人っているじゃないですか。これはギターの一番ちゃちいやり方で。歌わせたいんだったら、手の手刀部分の肉で一瞬ミュートしてから弾いてみる。そうすると、人間の声帯がパッて開くような感じが出るんです。発声のメカニズムをなんとなくイメージする感じですよね。例えば、ストラトキャスターのクランチみたいな音があるでしょ? そういう時でも、一瞬ミュートしてからピックではじくと、めちゃくちゃ歌うんですよ。歌えなくて困っている人っていうのは、スライドで持っていたりすることが“歌う”って勘違いしている人が多い。

チョーキングはどうなんですか?

いや、チョーキングはありですよ。でも、チョーキングの時のブラッシングはいらない。だって、声帯にはそういう機能はないですから。歌わせたいんだったら、歌手をちゃんと観察する。声が出るメカニズムや音程を変える時の音の変わり方とかをしっかり観察して、自分の考え方で良いのでいろいろと試してみると良いと思います。それと付随して言うと、僕は歌伴奏をやる時は歌手の肩を見ているんです。息をすると肩が上がるんですが、その上がる幅や速度で次にどう歌うかがわかるから、そうすると自分のストロークのスピードとかが決まってくるんですよ。