岡田拓郎をナビゲーターに迎え、カテゴライズ不可能な個性派ギタリストたちの作品を紹介する連載、“Radical Guitarist”。第4回は日本からのエントリー! 高柳昌行に師事し、フリージャズやノイズなども演奏してきた早世のギタリスト、飯島晃。今回紹介する『コンボ・ラキアスの音楽帖 = A Music Book Of Combo Rakia’s』では、アコースティック・ギターによる美しい音色で、ノスタルジックな情景を描いている。本作の魅力について、岡田拓郎に解説してもらおう。
文=岡田拓郎 デザイン=山本蛸
今回紹介する作品は……
『コンボ・ラキアスの音楽帖 = A Music Book Of Combo Rakia’s』
飯島晃
Puff Up/PUF-2/1990年リリース
―Track List―
01〜05. Five Songs For A Fox In The Thorn = いばらのサギ師(1〜5)
06〜09. Pilea Moon Valley = 月の谷のピレア(1〜4)
10〜12. A Gentleman And The Elephant Garden = 背広の男と象の庭(1〜3)
13〜16. Robin = ロビン(1〜4)
17〜20. The Waiting Grounds = 待つための根拠(1〜4)
21. Season Of Seraphita = セラフィッタの季節
すべての音が通底したテーマのように明確な、
ここにあるべきものとして完璧な曲線を描く。
飯島晃は、1954年長野県佐久市生まれ。高柳昌行に師事。高柳率いるニュー・ディレクション・ユニットの名演盤『New Direction Unit – Live At Moers Festival』にも参加し、爆音超絶ノイズ・ギターや鋭い断片を音速で突き刺すような破壊、解体的な演奏を聴かせた。しかし、今回紹介する『コンボ・ラキアスの音楽帖』では、アコースティック・ギターを手に、ソプラノ・サックスやバイオリン、アコーディオン、パーカッションなどを交え、驚くほど静かな室内楽を奏でている。
いくつもの変奏曲からなる組曲形式の本作。張り詰めた静謐の中、掛留音と解決をくり返し螺旋状に紡がれる旋律は抽象的でありながら、すべての音が通底したテーマのように明確な、ここにあるべきものとして完璧な曲線を描く。こうした複雑な旋律も、まるでダンパーを踏み込んだピアノをアコースティック・ギターに置き換えたように、残響を残しながら丁寧に紡がれる。こういった様子からも、飯島の卓越した演奏スキルがのぞけるだろう。
本作を皮切りに分類不能の唯一無二の音世界を構築するも、その後に持病が悪化しギターを持てなくなってしまう。その後、コンピュータを使い音楽制作を続けるが、惜しくも1997年に43歳で永眠。ジャズ、フォークロア、実験音楽、のちに音響派と呼ばれるような音楽、etc…多様な音楽文脈が細密に融解し合うこの作品は、今日、改めてギタリストのみならず、多くの人々の耳に届いてほしいと切に願う。
著者プロフィール
岡田拓郎
おかだ・たくろう◎1991年生まれ、東京都出身。2012年に“森は生きている”のギタリストとして活動を開始。2015年にバンドを解散したのち、2017年に『ノスタルジア』でソロ活動を始動させた。現在はソロのほか、プロデューサーとしても多方面で活躍中。