カネコアヤノ&林宏敏『よすが』を彩った機材 カネコアヤノ&林宏敏『よすが』を彩った機材

カネコアヤノ&林宏敏
『よすが』を彩った機材

4月にリリースされたカネコアヤノの新作『よすが』。先日公開した本作でのギター・プレイについて語ったインタビュー記事に続き、カネコアヤノ&林宏敏が作品制作で使用したギター、そして林のライブ用ペダルもご紹介しよう。

取材=山本諒 写真=山川哲矢

カネコアヤノの愛用ギターたち

1966 Gibson Melody Maker D

2016年の入手以来、カネコが愛用し続けるエレキ・ギターのメイン器、ギブソン・メロディ・メイカー。レコーディングでも7割ほどはこのギターで、「腕の中でしか眠れない猫のように」のケイ、「抱擁」などでエピフォン・カジノを使った以外はほとんどこれ。トレモロ・ユニットは使わないため取りはずしてあり、セレクターはフロントに固定している。“優しくて可愛い音”がお気に入り。

1965 Gibson J-50

『燦々 ひとりでに』(2019年)の頃に購入し、以降弾き語りのメイン・アコギとして使っているJ-50。低音がどっしりしており、コード弾きをガンガンしたい際に頼れる存在だという。レコーディングでは63年製のギブソン・カントリー&ウェスタンと本器を使い分けており、ガッツのある音はJ-50、ハイがきらびやかな音はカントリー&ウェスタンを起用する。ストロークによるボディの傷がクール!

林宏敏の愛用ギターたち

Carter Starter 10 String Pedal Steel

『よすが』で林が初めて起用し、同作の大きな功労者と言えるのがこのペダル・スティール。3フロア・ペダルに4つのニー・レバーを装備したスチューデント・モデルで、知人の日高理樹から借りて使った。敬愛するダニエル・ラノワらの影響で長年ペダル・スティールへの憧れは強く、昨年の自粛期間で習得したという。チューニングはE9。音色については“ラップ・スティールでは絶対出ない浮遊感が最高”とのこと。「栄えた街の」でその心地よいサウンドを堪能せよ!

1967 Gibson Firebird I

現在のライブでメイン・ギターとして愛用しているノン・リバース・ヘッドのファイアーバードI。もとはジャズマスターを買おうとしていたが、楽器店に偶然置いてあった本器に惚れて購入したという。ピックガードが後年のものに交換されている以外はオリジナル仕様だ。“クリーン・トーンよりクランチ〜オーバードライブの音が良い”そうで、クリーン・サウンド中心の『よすが』では「爛漫」のアルバム版で起用した程度。しかしながら、チューニングの安定感、音抜けの良さ、ミドルに寄った音域に加え、“エフェクターの乗りが良くて、リバーブをかけた時も全体像が見える”点など、あらゆる点で信頼を寄せるギターだ。

1966 Fender Electric XII

7〜8年前に入手したフェンダーの名作12弦エレキ、Electric XII。1965〜70年の短期間に作られたギターだが、ジミー・ペイジやピート・タウンゼントなども愛用した人気のモデルだ。セレクターは4点式(フロント/フロント&リア並列/リア/フェイズ・アウト)になっており、林はリアをおもに使用。アルペジオを弾く時に大活躍し、「抱擁」や「栄えた街の」などで使った。音に関しては“きらびやかだけど儚くて陰がある感じが好き。『よすが』でようやくそういう音が録れた”とのこと。

1957 Fender Musicmaster

「手紙」、「春の夜へ」、「窓辺」など多くの楽曲でグッドなクリーン・トーンを出力したのがこのミュージックマスター。改造点はなし、フル・オリジナル仕様だ。“フロントPU1発だけだけど意外とオールマイティ。低音がふくよかで、クリーン・トーンの時はほぼこれを弾いた”そうだ。「窓辺」で披露しているジャジィなギター・ソロもこのモデルによるもの。

50’s Kay K-125

「腕の中でしか眠れない猫のように」のMVと録音で林とカネコが弾いているギターがコレ(左が林、右がカネコ。左は日高理樹からの借り物)。ケイが50年代前半に開発したもので、幅広のスルーネック構造に小型のボディを合わせた、いわばラップ・スティールからソリッド・エレキが生まれていく過程をとらえたようなモデルだ。かのエルモア・ジェームスも使ったことで知られる。ツマミ類はボリューム、トーン、トーン・バイパス・スイッチ。音に関しては、曰く“まさにエルモアみたいなブルースを弾く時に最適(林)”、“オモチャみたいな音が良い(カネコ)”。

林宏敏の最新ペダルボード

林のライブ用ペダルボード。接続順は番号のとおりだ。基本的にワウ、歪み系、ディレイ&リバーブ、モジュレーションの4種類のみをチョイスしている。各々について解説していこう。

①Fulltone/Clyde Standard Wah(ワウ)
先頭に置かれたワウ。側面に付いたバッファー・レベルは9〜10時にし、そのオン/オフ・スイッチはオン。

②KORG/Pitchblack mini(チューナー)
小型ながら電池駆動もできるミニ・サイズ・チューナー。

③CULT/OD-820 Secede from T.S. mod(オーバードライブ)
評判のCULTモディファイ・モデル。こちらでベーシックのクランチ・サウンドを作る。底面にAdditional Clean Vol.を備えており、ドライブ・サウンドとクリーン・サウンドを任意のバランスでミックス可能。曰く“これでアンプを2台使っているのと同じように音作りできる。理想のクランチが出せるペダルにようやく出会えた”。

④CULT/TS808 #1 Cloning mod. V.2(オーバードライブ)
こちらもCULTモディファイ。クランチの次の段階、つまりオーバードライブさせたい時に踏む。“CULTのモディファイ・ペダルは音の分離や抜けが良くて、単純に音がカッコいいんですよね”。

⑤Electro-Harmonix/OP-AMP Big Muff (ファズ)
オペアンプ期の個体を再現した小型サイズのビッグマフ。“ガツンと行きたい時”に使うそうで、SUSTAINはフルに設定!

⑥UNION/Tone Druid(オーバードライブ)
クリーン・ブースターとして使用。“50年代のローファイなアンプをハイファイにできるような感じというか、ザラっとしたアナログ・レコードみたいな音にできる”点がお気に入り。

⑦strymon/Lex Rotary(ロータリー・スピーカー・エミュレーター)
ロータリー・スピーカーの音を再現した数少ないペダル。ザ・バンドやエリック・クラプトンを敬愛する林には欠かせない1台で、歴代のカネコ作品でも重用している。

⑧BOSS/DD-7(デジタル・ディレイ)
アナログ路線のペダルひしめく中で好アクセントとなるデジタル・ディレイ。“古めかしい音の中にキラッとした成分を足すことができて、カネコの音には合う”のだそう。“儚い揺らぎ”を演出できるMODULATE MODEがフェイバリット。

⑨BOSS/RV-500(リバーブ)
深めのリバーブをかけたい時に使用するほか、DD-7(⑧)とは違う質感のディレイもプリセットしている。strymonのTIMELINEなどと比べた結果、本機のほうが使えることが判明。

⑩ strymon/FLINT(トレモロ&リバーブ)
長年愛用しているペダル。リバーブは常時オンにしている。トレモロに関しては“カネコのアルバムで聴けるトレモロはほぼこれ。とにかく最高”と、ナチュラルなかかり具合を絶賛!

⑪ F-Sugar/fsp Proline Custom(パワー・サプライ)
長きにわたりプロ・ミュージシャンに愛されるリペア/楽器販売店による逸品。上面に貼られているのはSSW/ギタリスト三輪二郎のシール。

『よすが』 カネコアヤノ

1994 Inc./NNFC-09/2021年4月14日リリース

―Track List―

1. 抱擁
2.孤独と祈り
3.手紙
4.星占いと朝
5.栄えた街の
6.閃きは彼方
7.春の夜へ
8.窓辺
9.腕の中でしか眠れない猫のように
10.爛漫(album ver.)
11.追憶

―Guitarists―

林宏敏、カネコアヤノ