ジミ・ヘンドリックス『ライヴ・イン・マウイ』 ジミ・ヘンドリックス『ライヴ・イン・マウイ』

ジミ・ヘンドリックス
『ライヴ・イン・マウイ』

文=久保木靖

奔放なギター・プレイに魅せられること必至
没後50年で蘇る伝説のパフォーマンス!

 待ってました! ハワイでのパフォーマンスの存在は知っていたし、これまでもブートでちらちらと音源を耳にしてはその演奏クオリティの高さに期待を膨らませていたが、なんと、未公開映像を含めたBlu-Rayとセットでリリースされることになるとは! こういう経験をすると“長生きしなきゃ”って気になる(そんな歳でもないけど/笑)。

 ジャケットには“ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス”と印字されているが(確かにミッチ・ミッチェルはいる)、ベースはノエル・レディングではなくビリー・コックス。彼らは、ヒッピー・カルチャーを映し出した映画『レインボウ・ブリッジ』(71年公開)の1シーン収録のため、ハワイのハレアカラ休火山の裾野に特設されたステージでフリー・コンサートを実施したものの、当日は強風のため録音状態は最悪。そのため、ジミの死後にミッチがスタジオで映像を流しながらドラム・トラックをオーバーダビングするという涙ぐましい作業が行なわれた。しかし、結局映画で使われたシーンはたったの17分で、さらにサウンドトラックという触れ込みでリリースされたアルバム『レインボウ・ブリッジ』(71年)にもそのコンサート音源は使われなかった……。

 こんなもったいないことがあっていいわけがない! ということで、その70年7月30日の2ステージが2枚組CDとして蘇ったのが本作だ。

 Disc1⑥「ヴードゥー・チャイルド(スライト・リターン)」でブチ切れプレイをかましたかと思うと、ジミはそのエンディングでミッチにドラム・ソロを振り、それがいい感じに盛り上がってきたところでいきなり⑦「ファイア」をスタートさせる。これがもう鳥肌モノのカッコ良さで、思わずオ○ッコちびりそうに(笑)。同曲中では「Sunshine Of Your Love」のリフを強引に弾くなど、もうやりたい放題。続く⑧「紫のけむり」のエンディングでは「Star Spangled Banner」を歯で弾いているのだろう、鋭角なトーンが脳髄を刺激してくる。『バンド・オブ・ジプシーズ』(70年)にも収録されていた⑪「恋のメッセージ」は、ここで改めて聴くとりジミー・ペイジ的なリフのセンスが感じられて興味深い。

 晩年のステージ定番曲が多く並ぶDisc2は、特に後半のインプロというか、“自由奔放なジミとそれに付き合うほかのふたり”という構図が聴きどころ。「Beginning」というタイトルでも知られたインスト⑥「ジャム・バック・アット・ザ・ハウス」ではジミが提示するリフにビリーとミッチが追随する様子が如実に伝わってくるし、ラスト⑨「ストーン・フリー」の終盤ではジミがいきなり「Hey Joe」を始めるという暴走っぷりも痛快だ。

 そのほか、ユニヴァイブの効果──フェイザー的なDisc1⑥やコーラス的なDisc2⑧「ヘイ・ベイビー(ニュー・ライジング・サン)」など──や、M3rdとm3rdを同居させた(でも単なるブルース・スケールではない)音使いによるソロも随所に聴き取れ、これらがジミヘン・サウンドを補完している。ジャム・バンド的な要素とエクスペリエンス期のキャッチーなナンバーとが共存する本作は、ある意味ジミの集大成ではないだろうか。メンバー全員の“ゾーンに入った”ハイ・テンションなプレイにも圧倒されること必至。とにもかくにも、モンタレーやウッドストックと並ぶ傑作ライブの登場を祝したい。

作品データ

『ライヴ・イン・マウイ』
ジミ・ヘンドリックス

SONY/SICP-6361~3/2020年12月16日リリース

―Track List―

【DISC1】
1. チャック・ワインによるイントロダクション
2. ヘイ・ベイビー(ニュー・ライジング・サン)
3. 嵐の中に
4. フォクシー・レディ
5. ヒア・マイ・トレイン A カミン
6. ヴードゥー・チャイルド(スライト・リターン)
7. ファイア
8. 紫のけむり
9. スパニッシュ・キャッスル・マジック
10. ラヴァー・マン
11. 恋のメッセージ

【DISC2】
1. ドリー・ダガー
2. ヴィラノヴァ・ジャンクション
3. イージー・ライダー
4. レッド・ハウス
5. 自由
6. ジャム・バック・アット・ザ・ハウス
7. 直進
8. ヘイ・ベイビー(ニュー・ライジング・サン)~ ミッドナイト・ライトニング
9. ストーン・フリー

【DISC3】(Blu-Ray)
新作ドキュメンタリー
“Music, Money, Madness… Jimi Hendrix in Maui”
PERFORMANCE:FIRST SHOW
PERFORMANCE:SECOND SHOW

―Guitarists―

ジミ・ヘンドリックス