第2回目はCro-Magsを始めとするニューヨーク勢が1980年代中盤に発表したアルバムが中心です。
選盤・文=川嶋未来
Crumbsuckers
『Life of Dreams』
●リリース:1986年
●ギタリスト:Chuck Lenihan、David Wynn
カーク・ハメットもお気に入り
メタリカのカーク・ハメットも大好きだったNYのクロスオーバー・バンドの1st。非常に演奏力が高く、中近東的フレーズなども取り入れたりと、楽曲のバリエーションも豊富だ。カークがライブに飛び入りした際、客席にいたストレイト・アヘッドのメンバーがツバを吐きかけ、大乱闘寸前になったという伝説アリ。当時クロスオーバーを受け入れられない者もいたのだ。
Ludichrist
『Immaculate Deception』
●リリース:1986年
●ギタリスト:Glen Cummings(lead)、Joe Butcher(rhythm)
ヒップホップやファンクまで
こちらもニューヨークのクロスオーバー・バンドのデビュー作。彼らは非常に演奏力が高く、ヒップホップやファンクなどもぶち込んだ、真の意味でのクロスオーバーを体現していた。次作『Powertrip』(87年)では曲も長くなり、メタル成分過多に。89年にScatterbrainというファンクとスラッシュを融合したバンドに生まれ変わり、それなりに成功を収める。
Cro-Mags
『The Age of Quarrel』
●リリース:1986年
●ギタリスト:Doug Holland、Parris Mitchell Mayhew
NYハードコア・シーンのドン
NYのシーンで最も恐れられ、最も尊敬されたバンド。クロスオーバーの文脈で語られることも多い彼らだが、目指したのはMotörhead、Bad Brains、そしてBlack Sabbathのミックスだ。そして出来上がったのは、男臭さマックスの極上ロック。デモ音源を彼らの最高傑作とする声も大きいが、そちらは『Before the Quarrel』というCDで聴くことができる。
Leeway
『Born to Expire』
●リリース:1989年
●ギタリスト:A.J.Novello、Michael Gibbons
リリースが遅すぎた名盤
ニューヨークにおけるクロスオーバー・シーンを語る際、必ず名前が挙がるのがこのLeeway。シーンの重鎮的存在であったが、マネジメントの不手際などがあり、このファースト・アルバムのリリースが89年と、完全にクロスオーバー・ブームが鎮火してからのデビューとなってしまったのが不運。メタリックなバックにハードコア的ボーカルが乗る名盤。
Carnivore
『Retaliation』
●リリース:1987年
●ギタリスト:Marc
差別的な歌詞が物議を醸す名盤
もともとハードコア色の強いスラッシュ・メタルをプレイしていたCarnivoreだが、この2ndでは一層ハードコア色を強めている。“アメリカが気に入らないのなら、荷物をまとめて出て行け!”なんていう本気なのかジョークなのかわからない“政治的”な歌詞が、物議を醸し出した。音はめちゃくちゃカッコいいんですけどね。
Anthrax
『Spreading the Disease』
●リリース:1985年
●ギタリスト:Dan Spitz(lead)、Scott Ian(rhythm)
Anthraxスタイルここに完成
Anthrax特有のスタイルが完成を見た名盤セカンド。ニューヨークというハードコアが盛んな地で育った彼らは、当然ハードコアから大きなインスピレーションを受けていた。野太いコーラスなどは、その代表だろう。ただ、ロック・スター的人気を誇った彼らがそのイメージを“利用”することが気に食わなかったハードコア・ファンも少なくなかった。
Nuclear Assault
『Game Over』
●リリース:1986年
●ギタリスト:Anthony Bramante
メタル側からの初アプローチ
Anthraxを脱退したダン・リルカ(b)が結成したクロスオーバー・バンドの1st。ダン曰く、パンク側からのアプローチがメインであったクロスオーバー・シーンにおいて、Nuclear Assaultは初めてメタル側からパンクに歩み寄ったバンドとのこと。ハイトーンのメタルらしいボーカルが特徴で、結成は84年。S.O.D.よりも前にクロスオーバーに手をつけていたのだ。
Prong
『Primitive Origins』
●リリース:1987年
●ギタリスト:Tommy Victor
ルーツはクロスオーバー
のちにメジャー・デビューまで果たすProngだが、そのデビューEPは完全にクロスオーバー。不協和音を多用した独特の疾走ナンバーは、ProngのこのEPでしか聴けない。Of CabbagesAnd KingsやSwansにも参加していたテッド・パーソンズのドラミングも非常に個性的だ。個人的にはProngの最高傑作はこれ。このスタイルでフル・アルバムを作ってほしかった。
Adrenalin O.D.
『Humungous Fungus Amongus』
●リリース:1986年
●ギタリスト:Paul Richard、Bruce Wingate
とにかく楽しいハードコア
ニュージャージーのハードコア・パンク・バンドによるセカンド。当時、彼ら自身も“俺たちはスピード・メタル化しない”と発言していたこともあり、クロスオーバーとして取り上げるのはどうかとも思うが、本作が名盤であることは疑いないし、Anthrax、S.O.D.、Municipal Waste、Darkthrone(!)など、彼らからの影響を口にするメタル系アーティストも多し。
Mace
『Process of Elimination』
●リリース:1985年
●ギタリスト:Dave Hills
謎のビッグ・イン・ジャパン
なぜか日本ではそこそこの知名度を誇るシアトルのMace。まさにクロスオーバー版ビッグ・イン・ジャパン。パンクともメタルともつかない、独特すぎるクロスオーバーを聴かせる。ギタリストのデイヴ・ヒルズは、のちにAlice in Chainsなどのプロデューサーとして大成功を収めた。リリースから36年たった今年、ついにオフィシャルCD化される模様。
*本記事はギター・マガジン2021年4月号にも掲載しています。
『ギター・マガジン2021年4月号』
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