数多のレジェンド級ミュージシャンたちに多大なる影響を与えたモダン・ジャズ・ギタリスト、タル・ファーロウ。彼の生誕100周年を記念したユニバーサル・ジャズによる企画“TAL FARLOW 100TH ANNIV. COLLECTION”として、絶頂期のアルバム10タイトルが一挙にリイシューされた。ここではそれらの作品を軸にまとめた必聴プレイリストとともに、彼のギタリスト人生を振り返っていこう。
文・選曲=久保木靖 Photo by Charles Peterson/Hulton Archive/Getty Images
GM厳選〜タル・ファーロウ必聴名曲プレイリスト〜
タル・ファーロウの生誕100周年を記念して、“TAL FARLOW 100TH ANNIV. COLLECTION”と銘打ち必聴名盤10作品がリイシュー! その中からタル・ファーロウ入門にうってつけの25曲を厳選してプレイリストにした。音源を聴きながら記事を読んでいただければ幸いだ。ちなみに、今回リイシューされた作品の中には初CD化でサブスク解禁されていないものも含まれているので、気になった人はぜひ作品をゲットしてほしい。
1950年代を席巻したドライビング・ギターの最高峰
多くのモダン・ジャズ・ギタリストが登場した1950年代。その中にあって、桁外れのテクニックとスピードを武器に“ほんの数年間”を駆け抜け、あっさりと第一線を退いたギタリストがいた。それがタル・ファーロウだ。その後、活動を再開するものの自身のプレイを上書きするには至らず、それは裏を返せば、引退前がいかに鮮烈であったかということにほかならない。
タル・ファーロウ(1921年6月7日~1998年7月25日)は、この世代のご多分に漏れずチャーリー・クリスチャンを耳にしてジャズ・ギターに開眼。その後、チャーリー・パーカー(as)の演奏を耳にしてビバップの洗礼を受ける。そして、チャールズ・ミンガス(b)とともに参加したレッド・ノーヴォ(vib)・トリオがタルの躍進へとつながっていく。というのも、のちにタルが“ついていくのがやっとだった”と語ったほど、このトリオはノーヴォの圧倒的なスウィング感と超速プレイを売りにしていた。この時鍛えられたことによって、驚異的なスピードが身についたわけだ。
こうして『Tal Farlow Quartet』(1954年)で狼煙を上げたタルは続々とリーダー作を放っていく。編成は様々だが、いずれもピアノや2ndギターといったコード楽器を配したうえでのシングル・ノート・プレイが中心であり、裏を返せば、サックスなどホーン・プレイヤーと同様の意識を持っていたととらえることができる。これは、ギター・トリオ(ギター、ベース、ドラム)編成を推し進めたバーニー・ケッセルなどとは一線を画すアプローチで、そういう意味では、ちょうど入れ替わるように1960年代に台頭してきたウェス・モンゴメリーにバトンを渡す格好だ。ちなみに、ジム・ホールはデビュー作で明らかにタルを意識していたが、“敵わない”と思ってハーモニーを深化させる方向へ舵を切った。
さて、そのシングル・ノートはバップ系のホーン・プレイヤーやピアニストに引けを取らない超速プレイが魅力だが、加えて、ハーモニクスでメロディを紡いでいったり、指弾きによる“モタった”フレージングを取り入れたり、はたまた、ドラムレス編成の時は生音カッティングでブラシ・ワークのような効果を上げたりと、ギターならではのアイディアが豊富なのも見逃せない。また、指板に絡みつくような大きな手から“オクトパス・ハンド”と称されるが、コードを押さえる際に低音側2本を左手親指で対応しているのを見ると、それも納得だ。
1950年代にメインで使っていたギターは通称チャーリー・クリスチャンPUを搭載したES-350。ちなみに、タルが一時引退していた1962年、ギブソンは渦巻き型の意匠を施した特徴的なヴェネチアン・カッタウェイのシグネチャー・モデルをリリースしている。
……ところで、1950年代末、絶頂にありながらタルはなぜ一時引退したのか。それは結婚を機に家族との時間を大切するためであった。以前の本業、看板描きで充分に生活していけたため、ミュージシャン業にはなんの未練もなかったようなのだ。う~ん、かっこいいではないか。
生誕100周年記念リイシュー作品を一挙紹介!
今回のリイシューは、ブルーノートでのデビュー作に始まり、ヴァーヴに移籍してから一時引退するまでの全オリジナル作品が網羅されている。つまり、冒頭で述べた“ほんの数年間”に録音されたものだ。中には貴重なアコースティック・プレイが聴ける『The Guitar Artistry Of Tal Farlow』(1959年)や、一時引退前のラスト『Tal Farlow Plays The Music Of Harold Arlen』(1960年)といった初CD化作品が含まれているのが嬉しい。
それでは、今回リイシューされたラインナップを見ていこう。