スティーヴ・チベッツ『Northern Song』岡田拓郎の“Radical Guitarist”第1回 スティーヴ・チベッツ『Northern Song』岡田拓郎の“Radical Guitarist”第1回

スティーヴ・チベッツ『Northern Song』
岡田拓郎の“Radical Guitarist”第1回

Radical Guitarist───直訳すると“先鋭的なギタリスト”。この連載では、ノイズや実験音楽、アンビエント、フリー・インプロなどなど、ポップ・フィールドとは違う世界で異彩を放つギタリストを、彼らの作品を軸に紹介していこうと思う。ナビゲーターは岡田拓郎。ギタマガWEBのオープン当時に公開した『ギタリスト人生名盤10』でのチョイスやコメントを読めばわかるとおり、生粋の音楽マニアであり“ひと味違うギタリスト”についても膨大な知識量を有する。記念すべき初回は、先鋭的な作品を数多くリリースするドイツの名門ジャズ・レーベル=ECMから、スティーヴ・チベッツの1983年作を紹介しよう。

文=岡田拓郎 デザイン=山本蛸

今回紹介する作品は……

『Northern Song』
スティーヴ・チベッツ

ECM Records/ECM-1218/1982年リリース

―Track List―

01. The Big Wind
02. Form
03. Walking
04. Aerial View
05. Nine Doors / Breathing Space

静寂の中に広大な音世界を作り出す
アコースティック・ギターによる美しい表現

パーカショニストでチベッツの盟友マーク・アンダーソンとのデュオ編成による初のECMリーダー作。繊細に爪弾かれるギターや鈴の音のすぐ側には常に静寂が隣り合わせとなり、聴き手は自身の鼓動や呼吸の音を意識させられる。

こうした静寂の間は、本来チベッツが用意していたシタールやオーケストラ、僧侶(!)のテープ・ループやドローンで埋められる予定であったが、プロデューサーであるマンフレート・アイヒャーの判断によりそれらが最小限に抑えられたことで生まれた。ただ、前2作で1つのトラックに何週間もかけて自宅で録音するような制作に慣れていたチベッツにとって、即興性を重んじるアイヒャーの制作進行に疑問を覚え衝突する場面もあった。しかし結果として、その後のチベッツの作品群に象徴されるような、静けさの中に通底する緊張感や流動的な感覚を育むことになったのではないだろうか。

アルバム全編でチベッツは6弦と12弦のアコースティック・ギターを使用。ビル・コナーズやラルフ・タウナーといった一世代上のECMギタリストを思わせる、水彩絵の具を水に滲ませるような柔らかなタッチで奏でる。過剰に耳を引くようなプレイこそ少ないが、ステレオで配置された幾本かのアコースティック・ギターのグラデーションは、時に大きなハープのように、時に人力のディレイ・エフェクトのように効果的なアンサンブルを聴かせ、少ない音数ながら広がりのあるサウンドスケープを聴かせる。

著者プロフィール

岡田拓郎

おかだ・たくろう◎1991年生まれ、東京都出身。2012年に“森は生きている”のギタリストとして活動を開始。2015年にバンドを解散したのち、2017年に『ノスタルジア』でソロ活動を始動させた。現在はソロのほか、プロデューサーとしても多方面で活躍中。

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