『ア・ヴュー・フロム・ザ・トップ・オブ・ザ・ワールド』 ドリーム・シアター
【参加クレジット】
ジョン・ペトルーシ(g)、ジョン・マイアング(b)、マイク・マンジーニ(d)、ジョーダン・ルーデス(k)、ジェイムズ・ラブリエ(vo)
【曲目】
①ジ・エイリアン
②アンサリング・ザ・コール
③インヴィジブル・モンスター
④スリーピング・ジャイアント
⑤トランセンディング・タイム
⑥アウェイクン・ザ・マスター
⑦ア・ヴュー・フロム・ザ・トップ・オブ・ザ・ワールド
8弦ギターを導入した、ヘヴィかつドラマティックな展開のプログレ名作
現代のプログレッシヴ・メタル・シーンの最高峰に君臨するドリーム・シアターの2年ぶり15枚目のスタジオ・アルバム。
バンドがニューヨーク郊外に新たに建設したスタジオDTHQ(ドリーム・シアター・ヘッドクォーター)で制作したというこの作品は、コンパクトな曲が並んだ『ディスタンス・オーバー・タイム』(2019年)と比べ、全体的に長い曲が多いのが大きな特徴だ。
それに加え、注目すべきはジョン・ペトルーシが初めて8弦ギターを導入している点。その8弦の威力を発揮した⑥はこれまで彼らの音楽では聴いたことがないような、ヘヴィでグルーヴィなギター・リフが聴きどころとなっている。
その他の曲に関してもメロディアスではあるが、ヘヴィなサウンドを軸にしたパートが目立っており、複雑なテンポやテクニカルなキメのフレーズを満載した楽曲は彼らならではと言える。ペトルーシのスリリングなギター・ソロも聴き応え満点だ。
(Jun Kawai)
『SKYE』
SKYE
【参加クレジット】
鈴木茂(g)、小原礼(b)、林立夫(d)、松任谷正隆(k)
【曲目】
①Less Is More
②Dear M
③ISOLATION
④どちらのOthello
⑤Daydream
⑥ちぎれ雲
⑦マイミステイク
⑧川辺にて
⑨Reach Out To The Sky
⑩ROCK’N PINO BOOGIE
⑪Always
⑫BLUE ANGELS
鈴木茂の乾いたリックを“あの音”で存分に味わえる一作
鈴木茂が10代の頃、はっぴいえんど以前に結成したバンドとして知られるSKYE(スカイ)。オリジナル・メンバーの小原礼、林立夫に加え、松任谷正隆が参加した4人組としてこのたび、約50年越しのデビューを飾った。
さて内容は、大まかに言うと大人の渋みを孕んだセンチメンタルなポップス路線、ミドル・テンポのご機嫌なシティ・カントリー&ロックンロール路線に分けられると思うが、個人的にときめいたのは後者だ。
『NIAGARA MOON』(大滝詠一)や『Tin Pan』を想起させる乾いた茂のギター・プレイがひたすらにクールで、①④などのオブリを効かせた粘り気たっぷりのバッキングが光っている。さらにコンプをかけた例のクリーン・トーンで心地良いペンタトニック・リックを存分に披露。ブルージィなのに田舎臭さのない茂のセンスは、本当に代えがたいものがある。
70年代から変わらないプレイのキレ、そして一瞬でこの人とわかる絶対的なトーン。やっぱり非凡な人だ。
(山本諒)
『フロム・スウェーデン・ウィズ・ラブ:ライブ』
アート・ファーマー・カルテット・ウィズ・ジム・ホール
【参加クレジット】
ジム・ホール(g)、スティーヴ・スワロー(b)、ピート・ラロカ(d)、アート・ファーマー(tp, hr)
【曲目】
①サムタイム・アゴー
②ワルツ・ホット
③テーマ・フォー・ジョビン
④アイ・ラブ・ユー
⑤ポルカドッツ・アンド・ムーンビームス
⑥ビルバオ・ソング
⑦バークス・ワークス
脇役ながら変態っぷりも炸裂! 全員がベクトルを共有する発掘ライブ音源
1970年代以降こそリーダー活動が花開いたが、それ以前のホールの立ち位置は“名脇役”であった。中でも、“美女ジャケ”としても有名なアート・ファーマーとの『To Sweden With Love』(64年)は、各メンバーの内省的な面が表出した名作だ。
対して、その直後に収録された本作は、コンボとしてのベクトルを全員が共有しつつも、本性を露にしながら白熱していくさまがとらえられている。
特に⑦(正しくは「Bags Groove」)終盤のインタープレイは聴きもの! ホールは、モチーフを発展させたり、前の音を残したまま次の音を重ねたりといった手法でソロを雄弁に歌い上げる。
またバッキングでは、メロディアスなコンピングやクラスター和音で煽ったかと思えば、(おそらく)涼しい顔をしてカウンター・ラインを繰り出すなど、変態っぷりも炸裂。ギター・トリオ編成の⑤も珠玉だ。
ちなみに、ホールが弾いているのはP-90×1のギブソンES-175と思われる。
(久保木靖)
『クアランティン・セッションズ』
トム・ミッシュ
【参加クレジット】
トム・ミッシュ(g)【ゲスト】ジョーダン・ラカイ/マルコス・ヴァーリ(vo, k)、トビー・トリップ(viollin, b)
【曲目】
①チェイン・リアクション
②クレインズ・イン・ザ・スカイ
③フォー・キャロル
④ジプシー・ウーマン
⑤パラベンス
⑥スメルズ・ライク・ティーン・スピリット
⑦ザ・ウィルヘルム・スクリーム
⑧ミッシング・ユー
ユニークなルーパー術が楽しめるラフでミニマルな“外出自粛セッション”
事前の告知なく突然配信リリースされた最新作。タイトルの意訳は“外出自粛セッション”といったところ。
パンデミックが始まった昨年3月からトムがたびたびYouTubeに投稿していたラフな演奏動画を音源化した1枚で、肩肘張っての新作というわけではないが、それだけにリラックスしたプレイや音像が魅力だ。
リズム・トラックは控えめ、またはナシで、ルーパーでギターやその他楽器を重ねていく曲が大半。中でもユニークなのはやはりニルヴァーナの⑥だろう。クリーンなギターを重ねてバッキングとソロを組み立てていき、最終的にそのレイヤー数は5~6本程度に。あの激歪みの名曲をこうしたアレンジで仕上げてしまうあたり“らしさ”が全開だ。
ちなみに、先述の動画を見るとギターにオクターバーをかけてベースの役割を担っている曲があるが、映像がなければ普通のベースかと思うほど絶妙な音色。インタビューの機会があればぜひセッティングを聞いてみたい。
(田中雄大)