岡田拓郎をナビゲーターに迎え、カテゴライズ不可能な個性派ギタリストたちの作品を紹介する連載、“Radical Guitarist”。第5回は前回プロフィールを紹介したヘンリー・カイザーの1984年作、『It’s A Wonderful Life』をピックアップ。時間が許すならば、まずは一度アルバムを聴いてから、本稿を読んでみてほしい。きっと自分の耳を疑うことになるだろう。
文=岡田拓郎 デザイン=山本蛸
今回紹介する作品は……
『It’s A Wonderful Life』
ヘンリー・カイザー
Metalanguage/ML-124/1984年リリース
―Track List―
01. It’s A Wonderful Life
02. Let’s Drink 100% Healthy Milk And Study Hard!
03. The Book Of Gold
04. Ear Trouble
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ヘンリー・カイザーの基本情報
独創的なアイディアが生み出した
ギターで作る荘厳な音世界。
1984年リリースのギター1本によるインプロヴィゼーション作品だが、幕開けを飾る「It’s A Wonderful Life」の1音目から“これはギターなのか?!”と耳を疑うような奇天烈なサウンドが飛び込んでくる。しかし、レコード背面のカイザーによるコメントによると、本作はオーバーダビングなしのフリー・インプロヴィゼーションによるレコーディングで、一部の楽曲でコンピュータ制御によるリンドラムのシーケンスを使った以外はシンセサイザーも一切使っていないという。つまり、このピッチ変調されステレオに広がるサウンドは、いく台かのディレイとピッチシフターを組み合わせたものと思われる。
機材クレジットも細かく記載されているので引用しておきたい。エレクトリック・ギターはフェンダー・テレキャスターとフロイド・ローズを装着したストラトキャスター、アコースティック・ギターはアーチトップのエピフォン・ブラック・ストーンを使用。エフェクターはZeta Polyfuzz(ポリフォニック・ファズ)、DBX 160X(コンプレッサー)、Lexicon PCM-42(デジタル・ディレイ)、MXR pitch transposer(ピッチシフター)、アンプはダンブルとなっている。
「Let’s Drink 100% Healthy Milk And Study Hard!」では東南アジアの伝統音楽のようなユニークなループ・パターンを、「The Book Of Gold」ではまるで琴のような音色を、アコースティック・ギターを用いて奏でている。こうした非西洋音楽圏の伝統音楽から着想を得たプレイはカイザーならでは。
著者プロフィール
岡田拓郎
おかだ・たくろう◎1991年生まれ、東京都出身。2012年に“森は生きている”のギタリストとして活動を開始。2015年にバンドを解散したのち、2017年に『ノスタルジア』でソロ活動を始動させた。現在はソロのほか、プロデューサーとしても多方面で活躍中。