『あなたの知らないアコースティック弦楽器の世界』第4回by 高田漣 『あなたの知らないアコースティック弦楽器の世界』第4回by 高田漣

『あなたの知らないアコースティック弦楽器の世界』第4回
by 高田漣

マルチ弦楽器奏者の高田漣を講師に招き、マンドリン、バンジョー、ウクレレ、ラップ・スティールといったギター以外の弦楽器を学んでいこうというこの連載。今回は、バンジョーの弾き方を見ていきましょう。バンジョーのチューニングは、ギターでいうところのオープンGとほぼ同じなので、ギターと親和性が高い楽器と言えます。バンジョーを持っていない人は、ギターを使ってその雰囲気を楽しんでみるのもありでしょう。

文:高田漣 写真:八島崇


第4回:バンジョーに挑戦!〜フォギー・マウンテンは一日にしてならず〜

ブルーグラスとバンジョー

 現在のニューヨーク州からミシシッピ州まで南北に連なるアパラチア山系で強制労働に駆り出されたアフリカ系の人々と、スコッチ・アイリッシュ系白人の貧しい農民たちの音楽がいつしか融合し、マウンテン・ミュージックと呼ばれる独自の音楽を産み出されました。その際に重要な伴奏楽器に成長したのが、ほかならぬバンジョーです。

高田漣所有のバンジョーは、Vegaピート・シーガー・モデル。一般的な5弦バンジョーよりも3フレット分ネックが長いロングネック仕様。そのため普段は3フレットにカポをして使用するとのこと。

 この音楽は“オールドタイム”とも呼ばれ、いつしか白人たちの間で曲芸的に発展し、“ブルーグラス”と呼ばれるようになりました。ブルーグラス・バンジョーを語るうえで欠かせないのが、開祖アール・スクラッグス。彼の作った「フォギー・マウンテン・ブレイクダウン」は、バンジョーのみならずブルーグラスの代名詞・定番曲となりました。

 この様式美が完成するまでの過程は、ニュー・ロスト・シティー・ランブラーズのマイク・シーガー(*1)主導で制作された『アメリカン・バンジョー・スリー・フィンガーとスクラッグス・スタイル』というオムニバス版がお薦めであります。

*1:先鋭的なオールドタイム・リバイバル・バンドのニュー・ロスト・シティ・ランブラーズを率いたマルチプレイヤー。彼らのレパートリーがそのまま初期ライ・クーダーに直結するのは有名な話。

V.A.
『アメリカン・バンジョー・スリー・フィンガーとスクラッグス・スタイル』

(1957)

バンジョー奏法の特徴

 ブルーグラスで使用される5弦バンジョーは、オープンGチューニング(写真1)ということでギターとの親和性も高く、コード感などは容易に翻訳できるのですが、ブルーグラス・スタイルは右手のスリーフィンガーによる高速ロール(ギターでいうとアルペジオ)を駆使するのが特徴です。

写真1:(ロングネックの場合は3fカポの位置をナット/0フレットとすると)基本チューニングは、5弦からG-D-G-B-Dと並ぶ。

 まずはメジャー・スケール(Ex-1)と3コード(Ex-2)を確認しておきましょう。

 筆者がそれ風の演奏の際に多用する中指からのロールも記載しますので、バンジョーをお持ちの方は弾いてみて下さい(Ex-3)。

 ただし素人がいきなりデナリ(*2)を目指すのが危険であるのと同様に、まずは日本でもよく知られカントリー・ジェントルマン(*3)の名演もある「大きな古時計」(Ex-4)あたりでこの楽器に慣れ親しむことを推奨致します。フォギー・マウンテンは一日にしてならず……日々の鍛錬の重要性をあらためて感じる怠け者の筆者であります(苦笑)。

*2:アメリカ合衆国アラスカ州にあるかつてはマッキンリーと呼ばれた山の現在の正式名称。標高約6200m。

*3:50年代から活躍したワシントンDCのブルーグラス・バンド。同曲では途中加入したベース奏者のトム・グレイのジャジィな演奏が光る。

 なお、この「フォギー・マウンテン・ブレイクダウン」が音楽ファンのみならず一般的に認知されるきっかけとして、1967年のアメリカン・ニューシネマの名作『俺たちに明日はない』も大きく関与しました。実在した銀行強盗カップルのボニーとクライドの疾走する物語のスピード感にバンジョーは欠かすことのできない登場人物でありましょう。

 続きはアコースティック・ギター・マガジン2021年12月号 Vol.90をご覧下さい!

高田漣 Profile

1973年生まれ。2002年、アルバム『LULLABY』でソロ・デビュー。現在まで7枚のオリジナル・アルバムをリリース。自身のの活動と並行して、他アーティストのアレンジ及びプロデュース、映画、ドラマ、舞台、CM音楽を多数担当。ギターだけでなく、ペダル・スティール、ウクレレ、マンドリンとさまざまな弦楽器を操る。父はフォーク・シンガーの高田渡。

公式サイト:https://rentakada.com/

アコースティック・ギター・マガジン
2021年12月号 Vol.90