ギター・マガジン2021年12月号は、鈴木茂がはっぴいえんど時代を語り尽くした1冊。本人によるスタジオ盤の全曲解説や当時を振り返るインタビューに加え、使用機材の徹底解説やコラムも多数収録しています。今回はその中から、はっぴいえんどのライブ名演について書いたコラムを特別に無料公開! スタジオ盤とはまた違ったアレンジが楽しめる、はっぴいえんどのライブ盤から、鈴木茂の最高にクールなライブ・テイクを紹介します! 本誌もお買い逃しなく!!
文=小川真一
ライブ盤から辿る
鈴木茂の凄まじいプレイ変遷
はっぴいえんどのライブを時代順に聴いていくと、さまざまな発見がある。バンドとしての黎明期を経て、次第にアレンジが固まり、さらに変化していく。その様子がみてとれるのだ。その中でも、鈴木茂のギターは著しく進化し、急激に成長していったのがわかる。
「12月の雨の日」を例にとると、もっとも古いものは70年4月の文京公会堂でのライブ録音(2004年『はっぴいえんどBOX』収録)。ファースト・アルバムのレコーディングの真っ最中に行なわれたもので、すでにしっかりとアレンジが完成されている。鈴木茂は少し前に購入したというファズを使い、豪快に弾きまくっているが、その若さが眩しいほどだ。
71年の全日本フォーク・ジャンボリーのステージ(1989年『はっぴいえんど LIVE ON STAGE』などにも収録)になると、バンド全体のグルーヴ感が増し、ハードな演奏に変わっている。鈴木茂のうねりまくるようなギター・ソロはサイケデリックな雰囲気が満載。
そして、73年9月文京公会堂でのラスト・ライブ(1974年『ライブ!! はっぴいえんど』)では、今度はカッティングを中心としたソウルフルなギター・アレンジになり、曲がまったく違う表情をみせていく。今風に言うならばネオ・ソウル系のギターに近いが、これがまたカッコいい。
さらに変化を遂げるのが、85年の6月15日に国立競技場で行われた、はっぴいえんどの再結成ライブ(1985年『THE HAPPY END』)だ。打ち込みによる16ビート・アレンジに度肝を抜かされるが、一方で鈴木茂のギターは70年のデビュー時のスタイルに戻っている。このあたりのアレンジの遍歴をみていくのは、とても興味深い。
スタジオでは端正に
ライブでは奔放に弾きまくる
「はいからはくち」も、ライブでよく演奏された曲だが、オリジナルの『風街ろまん』ではドライブの効いた8ビートだったのが、72年の春一番でのライブでは、軽快なロックン・ロールになり、さらには73年のラスト・ライブでは、ワウ・ギターでリズムが刻まれ、粘り気のあるファンク・ナンバーと生まれ変わっている。
『はっぴいえんど LIVE ON STAGE』に入っていた、71年フォーク・ジャンボリーのサブ・ステージでの超高速バージョンも捨てがたい。〝はっぴいえんど版パンク〟と言ってもいいほどのワイルドな演奏だ。なお、曲が終わったところで客席の中から〝ええど、ええど〟の掛け声が聞こえるが、これは現在俳優として活躍している佐野史郎の16才の時の声。ともあれ「はいからはくち」は、鈴木茂のギターがなければ絶対に成り立たない曲だと思う。
スタジオでは端正に、ライブでは奔放に弾きまくるというのが、鈴木茂の本領だ。その意味でも、71年フォーク・ジャンボリーでの「春よ来い」の演奏は本当に凄まじい。思い切り弾きまくっていて、エンディング近くではラーガ風のサイケデリックなフレーズまで飛び出している。
ハード・エッジなだけが鈴木茂ではない。73年のラスト・ライブでの「夏なんです」(『ライブ!! はっぴいえんど』収録)では、細野晴臣のボーカルのバックでデリケートなオブリを聴かせている。同ステージでの、大滝詠一の「この4人でなければできない曲をやります」のMCに続いて始まる「かくれんぼ」も聴き逃せない。この曲での鈴木茂のジェントルで伸びやかなトーンが素晴らしい。それが間奏のソロになると、泣き叫ぶような激情たっぷりの演奏に移り変わっていく。解散コンサートということで、感情の高ぶりがあったのかもしれないが、はっぴいえんど史上に残る名演だと思う。
鈴木茂の名演が堪能できる必聴ライブ盤はこれ!
『ライブ!! はっぴいえんど』
1974年
73年9月の文京公会堂での解散記念イベントを収録した、唯一のオリジナル・ライブ盤。「夏なんです」や「はいからはくち」での繊細で情緒的なプレイは名演。
『THE HAPPY END』
1985年
85年6月の国立競技場での再結成ライブ。細野晴臣主導のテクノ路線の演奏が展開される中、鈴木がはっぴいえんど初期のスタイルでプレイしているのは聴きもの。
『はっぴいえんど LIVE ON STAGE』
1989年
70〜71年に行なわれたライブを編集した秘蔵音源集。「12月の雨の日」を始めハードな演奏も聴けるが、「春らんまん」などでのカントリー・リックも味わい深い。
ギター・マガジン2024年4月号
『横山健のギター愛』
ギター・マガジン2024年4月号の奏法企画は「DURAN直伝“ネオ・ブルースの作法”」。ブルースをDURANが現代的に再解釈した“ネオ・ブルース”の技法を、動画&譜面で学んでいく。