リーダー作品で辿るパット・マルティーノの活動歴 リーダー作品で辿るパット・マルティーノの活動歴

リーダー作品で辿る
パット・マルティーノの活動歴

パット・マルティーノのリーダー作を5つの時代に分けて辿りながら、彼の活動歴を俯瞰していく。どの時代も味わい深く、そしてスリリングなプレイが盛りだくさんなので、各作品の音を聴いてみながら、自分の好きな時代のパット・マルティーノを探してみよう。

文=久保木靖

驚愕のデビューからの飛躍
(1967〜1970年)

それまでウィリス・ジャクソン(sax)やドン・パターソン(org)らのサイドマンとして参加してきたプレスティッジからリーダー・デビュー。曲によってはソウル・ジャズやハード・バップを引きずっているが、それはメンバー選定やサウンドの方向性にレコード会社のハンドリングがあったから。そんな中、この時点ですでに独自のプレイ・スタイルが完成していることに驚愕しきり。

『East!』と『Baiyina(The Clear Evidence)』ではオリエンタリズム(後者では特にインド音楽)からの影響があらわとなり、また『Desperado』では12弦ギターを手にしている。『El Hombre』収録の「Just Friends」は初期における最高の名演だ。

左から『El Hombre』(1967年)、『Strings!』(1968年)、『East!』(1968年)、『Baiyina(The Clear Evidence)』(1968年)、『Desperado』(1970年)。

迎えた絶頂期
(1972〜1977年)

新興のミューズや大手ワーナーからアルバムをリリースした1970年代はキャリア最初のピーク。両レーベルがマルティーノに“全権委任”したことが功を奏した。編成が比較的小さくマルティーノのギターが全面フィーチャーされたことで、超絶プレイはもちろん、メンバーとの熱いインタープレイも随所にとらえられている。

ワーナーに対して自身の幅広い音楽性を示した『Starbright』、その結果よりエレクトリックなフュージョンに進んだ『Joyous Lake』という流れの中、同時進行で『We’ll Be Together Again』と『Exit』を制作したマルティーノの熱量には恐れ入るばかり。伝説的な「Sunny」を含んだ『Live!』と「Days Of Wine And Roses」といった人気スタンダードが収録された『Exit』はギタリスト必携だ。

上段左から『The Visit』(1972年)、『Live!』(1974年)、『Consciousness』(1975年)、『We’ll Be Together Again』(1976年)。下段左から『Starbright』(1976年)、『Exit』(1977年)、『Joyous Lake』(1977年)。

度重なる苦難を乗り越えて
(1987〜1996年)

脳動脈瘤の手術とその後の記憶障害、そして両親の介護と相次ぐ他界という苦難を乗り越えて復活を果たしたマルティーノ。この時期のプレイからは“再び演奏できることの喜び”と同時に、“これが最後かもしれない”といった気迫めいたものが感じられる。

カムバック作となった『The Return』は珍しくギター・トリオ編成。『Interchange』など3作品に参加したジム・リドル(p)は、マルティーノに“もう一度プレイしてみよう”と意欲を持たせたこの時期のキーパーソンである。『The Maker』は日本のキングで制作されたもの(それ以外はミューズ)。

左から『The Return』(1987年)、『Interchange』(1994年)、『The Maker』(1995年)、『Nightwings』(1996年)。

充実した創作意欲を作品に
(1997〜2006年)

創作意欲や演奏バイタリティに溢れた作品を名門ブルーノートから次々に放ったのがこの時期。さまざまなギタリストをゲストに呼んだ『All Sides Now』やウェス・トリビュート作『Remember〜』といった企画モノが話題を呼ぶ一方、22年前に頓挫した“ジョイアス・レイク”を復活させた『Stone Blue』ではエリック・アレキサンダー(sax)と、また、文字を音名に置き換える作曲技法を披露した『Think Tank』ではジョー・ロヴァーノ(sax)と、それぞれ圧巻のコラボを見せた。『Seven〜』は復活期に自宅でギター・シンセとコンピューターで作り上げた異色作で、マルティーノのホームページからしか購入できなかったレア・アイテム。

上段左から『All Sides Now』(1997年)、『Stone Blue』(1998年)、『Seven Sketches』(1999年)。下段左から『Live At Yoshi’s』(2001年)、『Think Tank』(2003年)、『Remember : A Tribute To Wes Montgomery』(2006年)。

円熟味を増しつつもアグレッシブに
(2011〜2017年)

キャリア終盤のマルティーノを支えたのは、ミューズを前身とするハイノートと再びワーナー。この不思議な縁を生前のマルティーノはたびたび“衛星の軌道のようなもの。周期によって離れたり接近したりする”と口にしていた。

『We Are〜』は1976年の『We’ll Be Together Again』の続編的な作品で、もちろん、ギル・ゴールドスタイン(p)とのデュオ。そして、『Formidable』が生前最後のスタジオ録音作となってしまった。

ちなみに、ハイノートからは、ボビー・ローズ(g)との『Alone Together』(77〜78年録音)や、ジーン・ルートヴィヒ(org)との『Young Guns』(68〜69年録音)、ジム・リドル(p)との『Nexus』(90年代半ば録音)といった発掘音源もリリースされている。

左から『Undeniable : Live At Blues Alley』(2011年)、『We Are Together Again』(2012年)、『Formidable』(2017年)。

 なお、ギター・マガジン2022年1月号ではパット・マルティーノを追悼特集。絶頂期である1970年代のミューズ期のアルバム制作の背景や使用機材を詳しく取り上げているので、そちらもぜひチェックしてほしい。

『ギター・マガジン2022年1月号』
特集:もしもペダル3台でボードを組むなら? Vol.2

ギター・マガジン2022年1月号では、パット・マルティーノの追悼特集として『両手に神が宿った瞬間。〜1970年代のミューズ期作品に酔いしれる〜』を掲載。絶頂期の1つである1970年代のミューズ・レーベル時代を振り返りながら、ジャズ・ギター・ジャイアントを偲びたい。ぜひギタマガWEBの特集とともに読んでみてほしい。

パット・マルティーノのリーダー作品一覧