ジミ・ヘンドリックスの代表的なステージ・パフォーマンスの1つ、歯によるピッキングで音を出す、通称=歯ギター。本誌連載『ピクトグラムで愛でるギター・パフォーマンスの世界』Vol.3(2022年1月号掲載)でもピックアップしたこの印象的なプレイについて、その源流や関連エピソードをご紹介します。
文=fuzzface66 Photo by Chris Morphet/Redferns/Getty Images
あの“歯ギター”のパフォーマンスをするきっかけやエピソード
例えばT-ボーン・ウォーカーのように頭のうしろでギターを弾きながら股割りをしてみせたり、リトル・リチャードのように足も使いながらピアノを演奏したり───観衆を目でも楽しませる黒人文化特有のショウマン・シップのうちの1つとして、歯でギターを弾くということも昔から黒人プレイヤーたちの中にあった“芸当”の1つだったんだと思います。その中で、ジミがこの“歯で弾く”という芸当を初めて目にしたのは、彼がまだ最初のギター(アコースティック)を手にして間もない15歳の頃。近所のギター仲間だったランディ・“ブッチ”・スナイプスという少年が披露したのを目の当たりにしたのが最初ではないかと言われています。
そこから軍隊への入隊、除隊を経たジミは、本格的な音楽活動を開始するために、遅れて除隊したビリー・コックス(ウッドストック以降~晩年も共にバンドでプレイした盟友のベーシスト)とキング・カジュアルズというバンドを結成。そのバンドでいわゆるチットリン・サーキットと呼ばれるアメリカ南部のクラブを回る武者修行を行ないますが、この時にサイド・ギタリストだったアルフォンソ・ヤングという人もやはり歯でギターを弾くパフォーマンスを得意としており、彼の“歯ギター”のための曲も用意されるほどフィーチャーしていたそうです。
アメリカ南部を転々としていくこの武者修行の中で、そういった観衆を楽しませるショウマン・シップの大切さを痛感したジミは、いつしかその歯ギターを自分のスタイルにも取り入れるようになります。のちにジミはインタビューで、“(歯ギターの)アイディアを思いついたのは、テネシーのある街でだった。そうでもしなければ撃ち殺されるような街だったんだ。ステージのあちこちに折れた歯が転がっていたよ”とジョークまじりで語っていました。それからバンドを離れ、1人でバック・ギタリストとしてさらなる修行を重ねるジミにとって、歯ギターは1つの武器となりますが、時には目立ちすぎるという理由でフロントマンから禁止されることもあったようです。
そしてニューヨークのグリニッジ・ビレッジに活動拠点を移す頃には、それまでの黒人相手から白人中心の環境に変わったことで、これまで行なってきた芸当(頭のうしろで弾く、背中で弾く、そして歯ギター)は、すべてジミのオリジナルだと観衆にとらえられるようになっていきました。そしてもちろんほかの誰でもないギターをしっかり鳴らせることもできるようになっていたジミは、凄い奴として噂される存在となり、やがてスカウトされてイギリスでデビューするわけです。
デビュー後も、特に歯ギターはやはりインパクトが強く、クラブやTVパフォーマンスでもほぼ毎回披露しており、音楽誌のライブ・レビューなどで“ギターを噛みきる男”というような表現がされていたり、一般誌でもジミがギターを歯で弾くインパクトの強さを揶揄したイラストなどが描かれるほど、広く認知されていきました。
有名な“歯ギター”によるプレイは?
やはり一番有名なのは、モンタレー・ポップ・フェスティバルで披露した「Hey Joe」のギター・ソロではないでしょうか?
なんでも、“今のように映像が発掘されていなかった時代、モンタレーの「Hey Joe」のソロをレコードで聴き、なんとか耳コピできたと思って得意気になっていた。だけど、のちに発掘された映像でジミがそれを歯で弾いていたことを知り、愕然とした”というエピソードを語る人もいました。たしかにあんなに流れるようなフレーズを歯で弾いているなんて驚きですし、同時に、ただ突っ立って弾いているより何百倍もパッションやエモーションを感じますよね。これが黒人文化のショウマン・シップの真髄なのかと思います。
あと、ほかのライブでも、例えば「Hear My Train A Comin」のソロ途中などでは、先に普通に手でプレイして、同じフレーズをすぐさま歯ギターでプレイし、それを交互にくり返すということもよくしていました。
ちなみに歯ギターは、頭を動かすよりもギターを動かすほうがやりやすいです。ジミのように流れるようなプレイはすぐには無理ですが、曲終わりにペンタトニック・スケールでカツカツカツと1弦側~6弦側へと1音1音を歯でかき鳴らし、最後にアームダウンさせてからコードをジャ~ンと鳴らして終了させるプレイは何度か練習すれば比較的すぐできると思います。
ギター・マガジン2022年1月号
『続・もしも、ペダル3台だけでボードを組むなら?』
ギター・マガジン2022年1月号は“もしも、ペダル3台だけでボードを組むなら?”の第二弾! なお、連載『ピクトグラムで愛でるギター・パフォーマンスの世界』Vol.3では、ここで紹介した“歯ギター”をピックアップ!