ヒプノシス展覧会〜ロック史を彩った神秘的デザイン・チームの仕事 ヒプノシス展覧会〜ロック史を彩った神秘的デザイン・チームの仕事

ヒプノシス展覧会〜ロック史を彩った神秘的デザイン・チームの仕事

ロック好きならばヒプノシスの名を聞いたことがある人は多いだろう。彼らは68年にイギリスで発足したアート/デザイン・チームで、ピンク・フロイドの『The Dark Side Of The Moon(邦題:狂気)』を始めとする多くのプログレ名盤のほか、様々なレコードのアートワークを担当した。ここではその一端を紹介したい。

文:田中雄大
*本記事は『ギター・マガジン 2018年3月号』から転載したものです。

作品世界を雄弁に語る意味深なアートワーク

 ヒプノシス(Hipgnosis)はまさにロック黄金期が始まろうという68年、イギリスで発足したアート/デザイン・チームだ。創設メンバーはストーム・ソーガソンとオーブリー・パウエルで、74年にピーター・クリストファーソンが加わった。当初は特に音楽関連の仕事に限定するつもりはなかったという彼らだが、ピンク・フロイドが68年に発表した2ndアルバム、『A Saucerful of Secrets』のデザインを依頼されたことを皮切りに、レコード作品のアートワーク・デザイン分野で世界的な評価を高めていくことになる。

 当時、プログレッシブ・ロックの世界ではアルバム全体を1つの作品としてとらえる考え方が重要視されていた。従来のシングルを中心とする曲作りに対して、より先進的/実験的にアート性を指向した結果である。アルバム・ジャケットとはそんな作品を象徴するものであり、当然、ミュージシャンたちはアートワークにも楽曲と同等の芸術性を求めた。そんな時代に登場したのがヒプノシスだったのだ。

 彼らの作風において特徴的なのは、アートワークに音楽と連動した高いストーリー性を持ち込んだことである。しかも説明的ではなく、抽象的な写真やイラストを用いたミステリアスで意味深なものが多い。バンド名やアルバム名が入っていないことも多々あるほどで、当時のレコード会社からはセールス上のクレームも入ったようだが、この神秘性がとにかくプログレ的世界観にマッチし、音楽家にもファンにも歓迎されたのである。

傑作『狂気』を始めとするピンク・フロイドとのタッグ

 特に重要なのはピンク・フロイドとの仕事だ。先述した『A Saucerful of Secrets』の縁もあり、その後も『More』、『Ummagumma』、全英チャート1位を記録した“牛ジャケット”の『Atom Heart Mother』などのデザインを担当。そして73年、あまりにも有名な『The Dark Side Of The Moon(邦題:狂気)』が生まれた。本作は全米1位、全英2位のチャートを記録してピンク・フロイドの名を全世界に知らしめると同時に、ヒプノシスの地位をも完全に確立したのである。ピンク・フロイドとの関係はその後も続き、メンバーであるシド・バレットやロジャー・ウォーターズ、デヴィッド・ギルモアのソロ作においてもヒプノシスがデザインを担当。近年は制作チームも含めてメンバーとった形態をとるバンドも増えてきたが、その先駆けと言えるのではないだろうか。

 そのほかイエス、EL&P、ジェネシスなどでも作品を残してプログレ・ファンの誰もが知る存在となったヒプノシスだが、制作実績はプログレにとどまらずロック全般に渡る。AC/DC、ブラック・サバス、レッド・ツェッペリン、ウィッシュボーン・アッシュ、ポリスなどもその一例で、なんと松任谷由実の『昨晩お会いしましょう』や『VOYAGER』でもデザインを担当した。

 ヒプノシスがロック黄金期に行なった、音と視覚を結びつける試み。83年には解散し、メンバーはそれぞれの道を歩んだが、残した作品はこの先も音楽と芸術の関係性に影響を与え続ける。

『ギター・マガジン 2018年3月号』
表紙:カクタス/トゥモロウ/KHAN/他
特集:埋もれた名盤を掘り起こせ!!! ROCK DIGGERS 1968-1972

ちょっと埋もれがちだけど、超カッコいいギター名盤を掘るあの時間。あれ、本当に楽しいですよね! 正直、ギターを弾く時と同じくらいワクワクします。そんな楽しみを共有し、作品についてガッツリ掘り下げるのがこの特別企画”ROCK DIGGERS”。今回はロック最強時代と名高い1968年~1972年の12作品に絞り、1枚1枚を”見る・読む・聴く・弾く”の全方位から徹底的に深堀りしました。いざ、ロックをディグれ!

品種雑誌
発売日2018.02.13