『ジョン・スコフィールド』
ジョン・スコフィールド
【参加クレジット】
ジョン・スコフィールド(g)
【曲目】
①コーラル
②オーネスト・アイ・ドゥ
③イット・クッド・ハプン・トゥ・ユー
④ダニー・ボーイ
⑤エルダー・ダンス
⑥ミセス・スコフィールズ・ワルツ
⑦ジャンコ・パートナー
⑧ゼア・ウィル・ネヴァー・ビー・アナザー・ユー
⑨マイ・オールド・フレイム
⑩ノット・フェイド・アウェイ
⑪シンス・ユー・アスクト
⑫トランス・ドゥ・ジュール
⑬ユー・ウィン・アゲイン
ソロ・ギターを21世紀型にアップデート! ベテランの新作はルーツを振り返る選曲
コロナ禍において、ステイホームを逆手に取ったソロ作品を何度か目にしてきたが、ここで真打登場。2年ぶりとなる名門ECMからの第2弾は、ルーパーを活用した自身のバッキング・ギターに乗って“ジョンスコ節”が雄弁に歌いまくる傑作と相成った。
スタンダードからオリジナル、トラッドと幅広く選曲されているが、いずれもチョーキングによるピッチ・コントロールを含め、ボーカルを凌駕する変幻自在の表現力にはため息しか出ない。
スタンダード③⑧で聴く者の琴線を揺さぶる歌心を披露したかと思えば、“ボ・ディドリー・ビート”を用いたロックンロール・クラシック⑩で吠え、コルトレーンを意識したオリジナル⑫ではシーツ・オブ・サウンドの中でアウト・フレーズを炸裂させる。
ソロを際立たせる場面でルーパーを切るなど、その使いこなしも含め、21世紀型ソロ・ギターの金字塔と言っても過言ではない。
なお、⑦⑨⑪⑬はルーパーを使わない完全な独奏だ。
(久保木靖)
『Same』
SHERBETS
【参加クレジット】
浅井健一(vo,g)、仲田憲市(b)、外村公敏(d)、福士久美子(key,cho)
【曲目】
①MIA
②欲望の種類
③Vanessa
④Grantham
⑤おフランス
⑥Toy Address
⑦Happy Everyday
⑧STUDENT
⑨CHELSEA
⑩Lonely Night
6年ぶり待望の新作アルバム 浅井健一が奏でる“優しさ”のギター
前作から6年の時を経て、待望の新作がリリースされた。シンプルな4ピース編成ながらも、“不穏さ”が立ち上がる独特の楽曲群は、変わらず魅力十分である。
時折アウトする浅井のギターは耳に残る引っかかりを必ず作っており、②③と聴けば、すぐにその腕が一級品だということを確かめられる。
しかし、ここで注目したいのは、彼のギター・プレイが物語る“優しさ”である。個人的にそう強く感じるのは④だ。単に力を抜いてストロークすれば出る、という類の音ではない何かがある。その何かとは、当たり前だが“優しさ”を科学的に立証できるわけもないので、“説明”ができない。……と書けばレビュー失格か。
でも、“不良とは、優しさの事ではないかしら。”という、あの有名な一節の意味がわかりそうな何かが、浅井健一のギターにはあるんだよなぁ。
やっぱりギター1つとっても、出る音には人間とその生き方が表われると、まだ若輩者ながらしみじみと思った。
(辻昌志)
『ラパポ』
マイス・パレード
【参加クレジット】
ダニエル・リッペル(g)、キャロライン・ラフキン(vo)、ジョッシュ・マッケイ(b)、ダグ・シャリン(d)、アダム・ピアース(pf)
【曲目】
①Good Morning
②Eisa Dancers
③Crystalline
④Bushwick & Knoll
⑤Finding Faces
⑥Eyes See Stars
⑦Could This Be Anywhere
⑧Ballad of Light
⑨Sidar
⑩Lakana Zone
⑪Milton Road
⑫Kanobe Dance
⑬Goodnight
⑭Ramda Peers Through(ボーナス・トラック)
音色、フレーズ、そのすべてが豊作 バラエティに富んだギター・チューンの数々
ニューヨーク出身のポスト・ロック・バンド、マイス・パレードが、約9年ぶり10枚目となるフル・アルバムをリリース。期待の今作もポスト・ロック、ダブ、エレクトロニカなど様々な雰囲気をパッケージングした唯一無二のアンサンブルが構築されている。
幕開けとなる①から、ミニマルな雰囲気を醸し出すミュート・フレーズがアルバムへの期待感を否応なく高め、続く②では、マンドリンをポスト・ロック的なアレンジに昇華した彼らお馴染みのシグネチャー・サウンドが響く。畳みかけるような曲調で攻める③では、変拍子に乗っかる陰鬱なエモ色全開のコード・ワークが焦燥感を駆り立てる。
ギター・インストもいくつか収録されており、ガット・ギター1本でひたすらにリフレインし、ニュアンスの強弱で曲調を展開させていく⑩や、ドリーミーかつ超肉厚なクランチ・サウンドで生まれる壁のような音像の⑪、どの曲もイカしたギター・アレンジが目白押し。
(伊藤雅景)
『マハール』
トロ・イ・モワ
【参加クレジット】
チャズ・ベアー(g,etc)、他
【曲目】
①The Medium
②Goes By So Fast
③Magazine (feat.Salami Rose Joe Louis)
④Postman
⑤The Loop
⑥Last Year
⑦Mississippi
⑧Clarity (feat. Sofie)
⑨Foreplay
⑩Déjà Vu
⑪Way Too Hot
⑫Millennium (feat. The Mattson 2)
⑬Days in Love
様々な年代とジャンルをごった煮! 全音楽好きにオススメしたい快作
実は『Underneath The Pine』以来、約11年ぶりにトロ・イ・モアを聴いた。
当時はレトロでサイケデリックでダンサブルな楽曲をクリエイトするチルウェイブなミュージシャンだというイメージを持っていたが、今作の1曲目「The Medium」はジミ・ヘンドリックスを彷彿させるワウ、モジュレーション、ファズによるギターのアンサンブルで構成されており、そのイメージを良い意味でぶっ飛ばされた。この音使いは完全に“わかって”やっている。しかもリズムがレッド・ツェッペリンのようにハードで、こちらも好印象。
「Goes By So Fast」からはピンク・フロイドを始めとする70年代のプログレの匂いも感じるし、「The Loop」ではスライ&ザ・ファミリー・ストーンのようなファンキーさも楽しめる。
もちろんエレクトロニックなダンス・ナンバーも収録されており、音楽を愛する全リスナーにオススメしたい快作だ。
(HAPPY HAPPY)
『angels』
My Hair is Bad
Guitar:椎木知仁(vo,g)
鋭いギター・サウンドで魅せる通称“マイヘア”の新境地
新潟県出身の3ピース・ロックバンドの5thフル。前作と比べてギター・サウンドが切れ味を増している印象だ。
例えば、冒頭の「サマー・イン・サマー」で聴けるエネルギッシュな複音リフや、「ギャグにしようぜ」での痛快なカッティングはまさにその好例。ほかにも「綾」のブルージィなリフ、「白春夢」での儚く切ないアルペジオなど、ギター的な聴きどころが満載!
(伊藤雅景)
『BITTER!』
LUCKY TAPES
Guitar:高橋健介(g)
時にパワーヒッター! メリハリの効いた変化自在なギター
15年結成の3人組、通算5枚目のアルバム。ソウル&J-POPという、アーバンな楽曲を飾り立てる軽やかなオブリやカッティングが冴えまくる。しかし時にパワーヒッターのごとき重く激しい歪みで弾きまくったり、モジュレーションで変化球を投げてみたり、メリハリが抜群で聴いていて飽きない。変幻自在なギターに脱帽だ。
(辻昌志)
『I Love You EP』
イハラカンタロウ
Guitar:イハラカンタロウ(vo,g)
ソウルの伝統を引き継ぐ若きSSWの新星
70’sソウルとAORの影響を深く感じさせるSSWの新作EP。
ウェルドン・アーヴィンの「I Love You」の日本語カバーを表題曲に持ってくることに、伝統を引き継ぐ気概を感じる。オリジナル曲も聴きごたえ十分だ。
アーバン・メロウな「gypsy」では、コブシの効いたダブル・ベンドから入る長尺ソロが差し色として楽曲を盛り立てる。
(辻昌志)
『時のぬけがら』
オカモトコウキ
Guitar:オカモトコウキ(vo,g)、TAIKING(g)、他
ソロ2作目で見せつけるギタリストとしての矜持
ソロ2枚目となる本作。冒頭曲「Time」からボッサのリズムを取り入れたり、前作とは違った攻めの姿勢が出ている。
ギター的には聴きどころ大満載。方々に散りばめられた凝ったリフ、オブリ、キメに彼がギタリストとして生きてきた矜持をひしひしと感じるのだ。
個人的な推しは「蜃気楼」のギター・ソロ。いやー、ひたすらに熱い!
(辻昌志)
『Just Like That…』
Bonnie Raitt
Guitar:ボニー・レイット(vo,g)、ジョージ・マリネリ(g)
究極まで研ぎ澄まされたオーソドックス
レジェンド・ギター・ウーマン、72歳での6年ぶり新作。
透明感のあるアコギ、オーバードライブさせたロックンロール・ギター、ブルージィなスライドなど、すべてが自然体で奥深い。
「Blame It On Me」の間奏で聴けるスライド1音での表現力たるや! そのギターは“究極まで研ぎ澄まされたオーソドックス”。必聴。
(福崎敬太)
『クモヨ島』
幾何学模様
Guitar:Tomo Katsurada(vo,g)、Daoud Popal(g)
新たなフェーズを感じさせる幾何学模様のラスト・アルバム
DIY精神で独自のサイケ音楽を追求してきた幾何学模様の活動休止前ラスト作。
小気味良いアルペジオのあとに、歪み&ディレイのかかった凄まじいソロで世界観を描く「ぼくの海」、無機質に刻むバッキングと飛び回るようなリフを行き来する展開が中毒性を孕む「やよい、ゐやおい」……終わりを感じさせるどころか、新たなフェーズを提示しているかのようだ。
(錦織文子)
『ディファレント・ワールズ』
スキルズ
Guitar:ブラッド・ギルス(g)
メロディックなギターが映える豪華メンバーによる新プロジェクト
ナイト・レンジャーのブラッド・ギルス、ビリー・シーン(b)、エレクトリック・モブのレナン・ゾンタ(vo)、ジャイアントのデイヴィッド・ハフ(ds)によるプロジェクトのデビュー作。
音楽性は叙情派のメロディアス・ハード・ロックで、ブラッドはアーミングを使ったメロディアスなプレイの他に、ビリーとの派手なユニゾン・プレイも披露している。
(Jun Kawai)
『ストレイト・フロム・ザ・ハート』
ケニー・ニール
Guitar:ケニー・ニール/クリストーン・“キングフィッシュ”・イングラム/ティト・ジャクソン(vo,g)
洗練されたモダン・ブルースとルイジアナに根付くザディコの香り
ルイジアナ出身のブルース・ギタリスト、ケニー・ニールの最新作。
ピアノやホーンをフィーチャーしたモダン・ブルースと、ザティコ・ミュージシャンを迎えた賑やかなメンバーによる構成で、先頃、グラミー賞を獲得したクリストーン・“キングフィッシュ”・イングラムがゲスト参加。
持ち前のソウルフルな歌声と円熟したブルース・ギターが楽しめる。
(関口真一郎)
『きみはぼくの めの「前」にいるのか すぐ「隣」にいるのか』
HAINO KEIJI & THE HARDY ROCKS
Guitar:川口雅巳(g)
アバンギャルドの帝王に応える徒手空拳なギターの構え
灰野敬二が2016年に結成したロック・バンドによる初のスタジオ作品。
彼のルーツであるロックの名曲カバーが並ぶが、原曲に沿うことは一切ない。すべて灰野の流儀に従って再創造され、なおかつ、原曲が元来持つ莫大なエネルギーの“衝動”をそのまま伝える。
ギターは灰野の歌(≒叫び)に応えるがごとく装飾一切ナシ、徒手空拳の構えが潔い。
(辻昌志)
『(watch my moves)』
Kurt Vile
Guitar:カート・ヴァイル(g)
メロウでローファイなオルタナティブ・ロック
ダイナソーJr.やキム・ゴードンからの信頼も厚く、現代のオルタナ・シーンの先頭に立つカート・ヴァイル。4年ぶりとなる新作は、メランコリックなピアノ・ナンバーから幕を開ける。
そのほかの楽曲もゆったりとしたリズムの上でローファイなアルペジオがメロディを歌い、これまでのサウンド・イメージからは離れるが、これがまたなんとも心地良いのだ。
(HAPPY HAPPY)
『Singin’ in the NOW』
Ivy to Fraudulent Game
Guitar:寺口宣明(vo,g)、大島知起(g)
力強くも洗練されたギター・ワーク バンドの新章を予感せる渾身のフル
群馬県にて結成された4ピース・ロック・バンドの4thフル。
鋭さと力強さを両立したサウンドを武器とする彼ら。切なくも美麗なアルペジオで幕を開ける「泪に唄えば」から、リード曲の「オートクチュール」で魅せるツイン・ギターの鮮やかなコード・ワークなど、彼らの洗練された世界観を堪能できるサウンドが詰め込まれている1枚だ。
(伊藤雅景)
『Reincarnation』
Veiled in Scarlet
Guitar:Izo(g)
美しいギターの旋律と構築美に溢れた劇的なメロディック・デス・メタル
ジャパニーズ・メロディック・デス・メタル・バンドの4thアルバム。
内容は中心人物のKeija(ds, key)が以前やっていたバンドSERPENTが残した2枚のアルバムからセレクトした16曲を再構築してカバーしたもので、美旋律ギターを軸にした北欧スタイルのメロデス・ナンバーが並ぶ。
神秘的でドラマティックな楽曲と、Izoの技巧派プレイはインパクト抜群だ。
(Jun Kawai)
『The Gaze』
Predawn
Guitar:清水美和子(vo,g)
色彩豊かな世界観とマッチするアコギの音色
86年生まれのSSW、清水美和子のソロ・プロジェクトによる3rd作。
楽曲にはブリティッシュ・フォークの影響をぼんやりと感じるが、彼女が持つ柔らかな感性で色彩豊かなポップスへと昇華。
澄んだアコギの音色が曲の世界観と完璧にマッチしており、心の琴線に触れてくる。
『エモーショナル・エターナル』
メロディーズ・エコー・チャンバー
Guitar:レイネ・フィスケ(g)
ドリーム・サイケの歌姫が紡ぐクロスオーバー作
メロディ・ポシェット率いるドリーム・サイケ・バンドの3rdは、随所にジャズやファンク、プログレ要素を含みつつ、それらをまとまりのあるアンサンブルで聴かせている。
グルーヴィで芯のあるベースと対比するかのような残響音や、煌びやかな12弦のストロークで彩る表題曲はイチオシ。
『ダウン・エヴリ・ロード』
イーライ・ペーパーボーイ・リード
Guitar:イーライ・ペーパーボーイ・リード(vo,g)
伝説のカントリー歌手の曲をソウル・カバー
サザン・ソウルの伝統を今に伝えるイーライ・ペーパーボーイ・リードの最新作は、米カントリー界の大御所として名をはせたマール・ハガードの曲を小気味良い60’sソウル風にアレンジしたカバー・アルバム。
スプリング・リバーブを効かせたビンテージ・ギター・サウンドが満載!
『hymn』
Khamai Leon
Guitar:beja(g,key)
多ジャンルをごった煮る新・音楽集団が登場
ジャズやヒップホップ、現代音楽などの音楽を自在に操るニューカマー・バンド(読み=カメレオン)。
1stフルということで気合十分、展開の変化に富んだ“ごった煮”の内容が面白い。ギターはファズの頻用など、飛び道具的かつカオスな差し込み方。
早くも次作が楽しみである。
『artless』
WONK
Guitar:井上幹(g,b,synth)
息づかい伝わるアコースティックな作風
現代ソウルを創り出す4人組が2年振りのアルバムをリリース。合宿でセッションを重ねながら録音したという本作は、力が抜けたアコースティックな作風だ。
「Migratory Bird」で聴けるアコギのスライドには、シンプルなフレーズゆえに細やかな息づかいが伝わってくる。
『ドレスコーズの音楽劇《海王星》』
ドレスコーズ
Guitar:志磨遼平(vo,g)、他
寺山修司の音楽劇のために書き下ろした音楽作品
寺山修司が63年に執筆した音楽劇『海王星』。昨年12月から1月にかけて上演された本作品の舞台音楽をドレスコーズが手がけ、それを収録したのが今作である。
志磨が毛皮のマリーズ時代から得意とする妖しくも美しいレトロな世界観を軸に、舞台のシーンを盛り上げるジャンスレスな楽曲が並ぶ。
『ネイルの島』
さらさ
Guitar:さらさ(vo,g)
Z世代からネオソウルの注目新人現る
デビュー曲が全国のラジオで話題を呼んだという、Z世代のSSWによる1st EP。
ギター・プレイにはネオ・ソウル的なフレーズが頻出。このミニマルなまとまりの良さ、20代前半ながら高い完成度だ。
また、ライブ映像を観ると使用ギターがディアンジェリコ製で好感度120%!
『Assort』
Novelbright
Guitar:沖聡次郎/山田海斗(g)
日本晴れのごとく明るいツイン・ギター
大阪発の5人組ロック・バンド、メジャー2作目のフル。アップテンポなナンバーにツイン・ギターによる真っすぐなアプローチ! オーバードライブ・サウンドが日本晴れのごとき明るさである。一方でラブ・ソング「愛とか恋とか」のアコギのメロウなフレージングも聴きどころ。
※本記事はギター・マガジン2022年6月号にも掲載されています。