ジョーイ・ランドレスの来歴クラシックから始まったギタリストの行方 ジョーイ・ランドレスの来歴クラシックから始まったギタリストの行方

ジョーイ・ランドレスの来歴
クラシックから始まったギタリストの行方

ジョーイ・ランドレスのギターを聴くと、ブルースやカントリー・ロック、ジャズなど、そのルーツの深淵が見えない。スライドだけに着目し、デレク・トラックスやブレイク・ミルズなどを挙げることは簡単だが、それだけでないことは明白だろう。ここでは彼のバイオグラフィを紹介しながら、ミュージシャンとしての成り立ちを探っていきたい。

文=福崎敬太

“僕に必要なのは音楽をプレイすることだ”と言い放つ7歳

1987年6月15日生まれ、カナダはマニトバ州ウィニペグ出身。父ウォーリーがミュージシャンということもあり、幼い頃から音楽に興味を持ちピアノやハーモニカで遊んでいた。そんな幼少期の音楽体験の中でも、特に記憶に残っているのは、叔母からもらった『Beethoven Lives Upstairs』という映画のサウンドトラックが入ったカセットテープ。そこに収録されたベートーベン「ピアノソナタ第8番 ハ短調 作品13『悲愴大ソナタ』」のメロディやサウンドに強く惹かれ、何度もくり返し聴いたそうだ。

ベートーベンのこの名曲は現在の音楽的な考えにも影響を残しているそうで、ジョーイ曰く“この楽曲の美しさに触れて、今後自分が何をプレイしたいのかが定まった気がする。この曲で感じたエモーショナルなフィーリングを、自分が作る音楽の中に追い求めてしまっているよ”と語ってくれた。

その後、地元の王立音楽院(Manitoba Conservatory of Music & Arts)へと通い始め、ピアノを学び始める。ここは格式高い名前ではあるが、子供から大人まで様々なコースを用意している自由な教育方針の団体だ。しかしその分、先生との相性が重要となる。ジョーイが受けていた講座はスケールや理論を重視していたようで、宿題をやらないことを咎められた彼は“理論を学ばせたいようだけど、僕に必要なのは音楽をプレイすることだ”と言い返して、7歳の頃に辞めてしまった。

ちょうど同時期、当時別居していた父の家へ週に1回遊びに行くことが楽しみだった。音楽院を辞めたあと、そこで父親からロックンロールのリフを教えてもらい、ギターにのめり込む。父から借りたテレキャスターを使い、聴いた音楽を耳コピしていったほか、父からフレーズやその展開パターン、そのルーツなどを教わっていった。

13歳になると現在もソロ作などで共演し続けているベーシスト=メグ・ドロヴィッチとバンドを組む。ちょうどその頃、兄のデヴィッドもフルート奏者からベーシストへコンバートし、バンドとは別に一緒に演奏するようになっていったそうだ。そして、ジャズやケイジャン、ポップスのバンド、聖歌隊などの様々な現場でプレイする中で、本格的にプロの道を志していくことに。

こうして10代後半からいくつかのライブ・サポートをこなすようになり、2007年、ついに初めてプロとしてのレコーディングのチャンスが舞い込んできた。それはエリック・アサヴェール(Erik Athavale)という同郷のシンガーがリリースした『Devoted』のスタジオ・ワークで、ここでのジョーイのプレイはロベン・フォードを彷彿とさせる、今よりもジャズ・フィーリングが強いものだった。もちろんチューニングはレギュラーで、この頃はまだ現在のスタイルは完成していない。

スライドに導かれた確固たるスタイル

さて、オープン・チューニングやスライドを駆使する現在のスタイルがどうできあがるのかを説明する前に、ギタリストとしての音楽的嗜好も紹介しておこう。

彼は、スティーヴィー・レイ・ヴォーンから始まりアルバート・キングへ、ライ・クーダーからジョセフ・スペンスへ、デレク・トラックスからオールマン・ブラザーズやキャンベル・ブラザーズ、オーブリー・ジェントへ遡っていったりと、好きなギタリストを軸にそのルーツを深く辿っていくタイプ。ほかにもサニー・ランドレス、3大キングなどの名前も挙がったが、中でも最も影響を受けているギタリストは、マイケル・ランドウ、SRV、ロベン・フォードの3人とのことだ。

スライド・ギターは2011〜12年頃、カントリー・バンドのツアーに出ていた頃に練習を始めたそう。それを聞きつけた音楽関係者が“トビー・キース(カントリーのスター歌手)の前座バンドでドブロのプレイヤーを探している”と声をかけ、“僕ならできるよ!”と返した。それをきっかけに、ドブロのHound Dogを入手し、オープンEチューニングを極めていく。

この響きを気に入ったジョーイは、ソングライティングもオープン・チューニングで進めていった。それが、ブラザーズ・ランドレス(The Bros. Landreth)の1st作『Let It Lie』(2013年)に多く収録されている。

2022年現在までにブラザーズ・ランドレス名義で3作品、ソロ名義で2019年の『Whiskey』から3作品の計6作をリリース。プロ・ギタリストがその動向を注目するほどにまで成長した。

彼のギターからは、ベートーベンの美しいハーモニー、伝説的ブルースマンの魂、クロスオーバー期の名手たちの洗練された空気感、はたまたジョン・コルトレーンのような力強さなど、あらゆるルーツが見え隠れする。これを読んで改めて、彼のギターの響き方を体感してみてほしい。

作品データ

『Come Morning』
The Bros. Landreth

輸入盤/2022年5月13日リリース

『All That You Dream』
Joey Landreth

輸入盤/2021年11月26日リリース

―Guitarist―

ジョーイ・ランドレス