ジョーイ・ランドレス&The Bros. Landreth全スタジオ・アルバムをご紹介! ジョーイ・ランドレス&The Bros. Landreth全スタジオ・アルバムをご紹介!

ジョーイ・ランドレス&The Bros. Landreth
全スタジオ・アルバムをご紹介!

本特集でジョーイ・ランドレスを初めて知ったという方のために、ソロ作とブラザーズ・ランドレスの全スタジオ・アルバム(2022年7月時点)をご紹介しましょう! 案内人はギタリスト青山陽一!

文=青山陽一

The Bros. Landreth

『Come Morning』(2022年)

巧みなムード作りが印象的な、ターニングポイントとなりうる1枚

ザ・ブラザーズ・ランドレス名義の3年ぶりの新作はこれまで以上に繊細で映像的な音像が際立ち、決して音を詰め込む方向性ではなく行間を聴かせるような簡潔で落ち着いた表現が印象に残るアルバムになった。

ロックっぽくドラムスが曲をリードする場面はそれほど多くなく、バンド名義ではあるが、どこかジョーイのソロ的な方向性に振れたようにも思える。ギターも揺れ系のエフェクトやスペイシーなリバーブを使ったアンビエントっぽい響きが特徴的で、エレキでもアコギでもオープンCを多用する彼ならではの低音弦の暖かみを活かしたムードづくりが見事だ。

ドカンとソロを弾き倒すような場面はほとんどないが、いかに歌の世界を効果的に表現するかにギターの使い方をフォーカスした作品として聴き所は随所にある。メロウなボーカルの重ね方や細かいアンサンブルへの配慮などにはプリンスの影響もチラホラ。バンドとしてもターニングポイントになるかもしれない。

『Let It Lie』(2013年)

2013年発売のザ・ブラザーズ・ランドレスの1stアルバム。重い8ビートのギター・ロックからスローなカントリー、R&Bバラードまで、昨今あまり聴かれなくなった言わばイーグルス・スタイルのアメリカン・ロックの王道を聴かせてくれる。

ジョーイとアリエル・ポーゼンという二人の名手を擁し、まだ20代半ばとは思えない円熟し切ったギター・アンサンブルも聴き所。歌心満点の卓越したスライド・ギターはエレキ、アコギ、ラップスタイルなど何でもござれ。

今年ボニー・レイットがカバーした「Made Up Mind」も本作に収録。

『’87』(2019年)

2019年発売の2ndフル・アルバムでアリエルが抜け、ギターはジョーイの1人体制に。

彼の生まれ年をタイトルに冠しているように、どこか80年代テイストを感じさせる1枚でもある。ただしシンセや打ち込みを多用するわけではなく、ナチュラルなバンド・サウンドは不変。

「Something」、「Maryanne」、「Sleep Talker」などでティアーズ・フォー・フィアーズや同じカナダ出身のブライアン・アダムスあたりのニュアンスも感じられるが、「Got to Be You」のようなリトル・フィート的な曲もあるし、「Master Plan」のような幽玄なアコースティック曲もある。抜群のスライドや分厚いリフ・プレイも快感たっぷり。

Joey Landreth

『All That You Dream』(2021年)

ローウェル・ジョージと彼にまつわる音楽へのリスペクトをジョーイなりに表現

21年リリースの現時点でのソロ最新作は、なんと全曲リトル・フィートとその関連曲をカバーしたアルバム。

オリジナルにかなり忠実な「Roll Um Easy」や「Long Distance Love」を始め、それに少し彼なりの解釈を加えた「All That You Dream」、「Perfect Imperfection」、「Two Trains」があるかと思えば、ロバート・パーマーのカバー・バージョンを丸ごといただいた感のある「Sailin’ Shoes」、そしてローウェル・ジョージがソロ・アルバムでカバーしていたアラン・トゥーサンの「What Do You Want the Girl to Do」となかなかに興味深い構成。

バンドとしてのリトル・フィートというよりはローウェルのパフォーマンスへのジョーイなりのトリビュートという印象も受ける内容だ。

フィートが持っていた“屈折感”のようなものは少なく、西海岸ロックのスコンとした抜け感が前面に出ていて、ジョーイのギターも粒立ちの良い現代的な音色。ローウェルといえばコンプレッサーの強くかかったスライド・ギターだが、ジョーイもUniversal Audioの1176を2台がけして独特のスライド・サウンドを作ったそうだ。

『Whiskey』(2017年)

2017年発売のソロ名義による7曲入りミニ・アルバム。とはいえベースは兄デヴィッド、ドラムズもライアン・ヴォスとランドレス・ブラザーズの面々がサポートしているので、バンドとの差はあまりない。

最初の3曲がパワフルなギター・ロック、その後はアコースティックが増えてくるが、どれも映像が浮かぶようなギター類の使い方が印象的だ。

タイトル曲のリゾネーター弾き語りからドライブ感たっぷりのスライドとバンド・サウンドへの場面転換は鮮やかだし、「Still feel gone」のほのかなプリンスっぽさ、「Better Together」のファンキーなグルーヴなどソウル的な要素の使い方も巧み。

『Hindsight』(2019年)

2019年発売のソロ2作目。兄デヴィッドとメグ・ドロヴィッチのベース、ローマン・クラークのドラムスをサポートに存分にギターを弾き歌うジョーイ。楽器類の出し入れにどこか90年代のミッチェル・フルーム&チャド・ブレイクを思わせる緻密な作りだ。

ギターの使い方もポップな感触がやや強め。しっかり吟味された効果的なリックがカッチリと編集されて配置され、そこはレコーディング作品ならではの考え方で進められているようだ。

エフェクトの使い方も多彩で、様々な空間系やダイナミクス系を丁寧に設定した上質な音作りが際立つ。