キング・サニー・アデ・アンド・ヒズ・アフリカン・ビーツ『オーラ』/マーク・スピアーの此処ではない何処かへ 第1回 キング・サニー・アデ・アンド・ヒズ・アフリカン・ビーツ『オーラ』/マーク・スピアーの此処ではない何処かへ 第1回

キング・サニー・アデ・アンド・ヒズ・アフリカン・ビーツ『オーラ』/マーク・スピアーの此処ではない何処かへ 第1回

米国の新世代エキゾ・サイケ・グルーヴィ・トリオ“クルアンビン”のギタリストであり、現代の音楽シーンにおける最重要プレイヤーの1人としてギター・マガジンが注目する男=マーク・スピアー。

彼はソウル/ファンク、ジャズから、ヒップホップやダブなどのクラブ音楽、さらにはどこから仕入れたのかわからない異国の民族音楽まで、実に雑多な音楽を嗜好する。

そんな雑食男が、ギターの有無を問わず、世界中の“此処ではない何処か”を表現した快楽音楽を毎回1枚ずつ紹介していく。

今回のアルバムは、キング・サニー・アデ・アンド・ヒズ・アフリカン・ビーツの『オーラ』。

文=マーク・スピアー、七年書店(アルバム解説) 翻訳=トミー・モリー 写真=鬼澤礼門 デザイン=MdN
*この記事はギター・マガジン2021年5月号より転載したものです。

キング・サニー・アデ・アンド・ヒズ・アフリカン・ビーツ
『オーラ』/1984年

ナイジェリアが世界に誇るジュジュ・ミュージックの王者

ナイジェリア王族の血統に生まれ、アフリカン・ポップスのジャンルであるジュジュ・ミュージックを牽引したギタリスト/シンガー・ソングライター。1982年のメジャー・デビューでポスト・ボブ・マーリィとして世界進出を果たしたのち、その人気を不動のものにした84年作が本盤だ。「Ase」にはハーモニカでスティーヴィー・ワンダー、「Oremi」にはドラムにトニー・アレンが参加している。

カントリーの世界とは全く異なるペダル・スティールの“声”。

 この作品はいわゆるナイジェリアン・ファンクのアルバムだね。90年代に実家の近所にあったリサイクル・ショップで手に入れたんだ。ワールド・ミュージックのコーナーにあって、なんか良さそうだと思ってね。つまりジャケ買いさ。あの時は、このアルバムが自分にとってどれほど重要な作品になるかなんて、考えもつかなかったよ。

 僕が好きな音楽には、共通した特徴があるんだ。それは、“非西洋的な音楽に、アメリカンな演奏スタイルやサウンドを取り入れる”こと。この作品はまさにそのポイントを押さえているよ。

 例えば、このアルバムではペダル・スティール・ギターが多用されているんだけど、もともとあの楽器はハワイのスラック・キーみたいなスタイルを起源としているだろう? やがてそれがアメリカ本国にも伝わり、今度はカントリーなんかにも浸透していった……という歴史がある。でもこのアルバムでは、一般的なカントリー・ウエスタンの世界とはまったく異なるペダル・スティールの使い方をしていてね、そこから生まれるギターの“声”がとても気に入っているよ。独特なリズムがありながらも、ほかの楽器に対してカウンター・メロディとなるものをプレイしているんだ。

 それからこの作品は、1984年という時代を感じさせるプロダクションで、シンセ・ドラムを組み合わせているのもおもしろいね。僕はレコードを買う時、実はジャケットの表よりも裏面を見て選ぶことが多いんだ。“何年に録音されたか”にけっこうこだわりが強くてね。“84年にナイジェリアで録音されたんだ、だったら絶対にクールだな!”という感じさ。ナイジェリアといえばフェラ・クティが有名だけど、このキング・サニー・アデの音楽は、フェラの作風とも違う。これからもしっかりと残り続けるだろうね。オープンなフィーリング、つまり解放感に満ちた素晴らしい1枚だよ。

マーク・スピアー(Mark Speer) プロフィール

テキサス州ヒューストン出身のトリオ、クルアンビンのギタリスト。タイ音楽を始めとする数多のワールド・ミュージックとアメリカ的なソウル/ファンクの要素に現代のヒップホップ的解釈を混ぜ、ドラム、ベース、ギターの最小単位で独自のサウンドを作り上げる。得意技はペンタトニックを中心にしたエスニックなリード・ギターやルーズなカッティングなど。愛器はフェンダー・ストラトキャスター。好きな邦楽は寺内タケシ。