K-POPのギタリスト事情〜BTS編〜 K-POPのギタリスト事情〜BTS編〜

K-POPのギタリスト事情〜BTS編〜

今やアジア圏だけでなく世界を席巻しているK-POP。JYP EntertainmentのJ.Y. Park(パク・ジニョン)や、HYBEの“hitman” bang(パン・シヒョク)など、プロデューサーにクローズアップされることは多々あるが、カラフルな楽曲に色を付けるギタリストにスポットライトが当たることはほとんどなく、日本に住む私たちがその素性を知ることは難しい。そこで今回はBTSの楽曲制作やライブ・サポートに参加したスタジオ・ギタリストにフォーカスし、どのような人物がギターをプレイしているのかを探った。ぜひ記事連動のプレイリストを聴きながら読んでみてほしい。

文:小林弘昂 写真:Amy Sussman/Getty Images
*この記事はギター・マガジン2022年8月号より転載したものです。

韓国を代表するセッションマン
イ・テウク&ジョン・ジェピル

 まず、K-POPのファン、ARMY(BTSのファン)でなくともご存知であろう大ヒット曲「Dynamite」(2020年)について解説しよう。この楽曲はイギリス在住のトラック・メイカー、デヴィッド・スチュワートジェシカ・アゴンバーが共同で制作した。

 当時、BTS(HYBE)側がニュー・シングル用の英詞の楽曲を募集していたそうで、コンペで採用された楽曲となる。スチュワートがほぼすべての楽器の演奏を手がけており、もちろんギターもプレイ。軽やかなカッティングが楽曲に躍進力を与えている。彼はセッション・ギタリストとして音楽キャリアをスタートさせたそうで、過去にはイギリスのラッパー、エグザンプル(Example)のツアー・ギタリストも務めるなど、その腕前は確かなものであった。このように、楽曲制作を担当したプロデューサーが自分でギターを弾くというケースも少なくない。

 アルバム『MAP OF THE SOUL:7』(2020年)の収録曲だと、RMのソロ曲「Intro:Persona」はHiss Noiseがプロデュースと楽曲制作を手がけており、自身でギターやシンセサイザーなどを演奏。

 ジン/J-HOPE/ジョングクの3人ユニット曲「Jamais Vu」と、Vのソロ曲「Inner Child」は、マックス・グラハムとマット・トーマスによるイギリスのエレクトロニック・ミュージック・プロダクションのアーケード(Arcades)が制作し(「Jamais Vu」はバッド・ミルクとマーカス・マコーンもクレジット)、2曲ともマックスとマットがギターを弾いている。

 そしてプロデューサーに混じり、この3曲すべてでギターを弾いているのが、イ・テウク(Lee Taewook)という韓国人のギタリストだ。

 彼はソラン(SORAN)というバンドのギタリストとして2010年にデビュー。ストラトキャスターをメインにし、歌心溢れるネオソウル風のフレーズや、繊細なアコースティックを得意とする。

 現在、彼の足下にはKlon製KTRやVEMURAM製Jan Ray、Landgraff製DODなど、名機とされている歪み系のほか、UAFXのGolden Reverberator、Starlight Echo Station、Astra Modulation Machineなどのモジュレーション&空間系が置かれており、モダンなサウンドを生み出している。

 ほかにもイ・テウクは、「FAKE LOVE」(2018年)、ホールジーとのコラボ曲「Boy With Luv」(2019年)、スティーヴ・アオキとのコラボ曲「The Truth Untold」(2018年)、「Magic Shop」(2018年)、ジンのソロ曲「Moon」(2020年)、「Answer:Love Myself」(2018年)など、数々のBTSのレコーディングに参加。まさにBTSの楽曲には欠かせない存在だ。

 もう1人、BTSのレコーディングに欠かせないギタリストがいる。その名はジョン・ジェピル(Jung Jaepil)、別名ヤング(YOUNG)という韓国人だ。

 彼は1995年、ニルヴァーナに衝撃を受けギターを弾き始める。セッション・ギタリストとして活動を始め、なんとこれまでに6,000曲以上のレコーディングに携わってきたというのだから、韓国を代表するギタリストと言っても過言ではない。

 『MAP OF THE SOUL:7』だけでもSUGAのソロ曲「Interlude:Shadow」、ジョングクのソロ曲「My Time」、「ON」、ジン/V/ジミン/ジョングクの4人ユニット曲「00:00(Zero O’Clock)」、Vとジミンが2人の友情を歌い上げる「Friends」、ジンのソロ曲「Moon」、RMとSUGAのユニット曲「Respect」の7曲に参加しており、彼がいかにPdoggやSlow Rabbit、Hiss NoiseなどのBTSプロデューサー陣、そしてメンバーから信頼されているかがわかるだろう。

 そのほか「DNA」(2017年)、「Spring Day」(2017年)、「Boy In Luv」(2014年)、「RUN」(2015年)、「Telepathy」(2020年)などの楽曲や、今年6月にリリースされた『Proof』に収録されている「Run BTS」、そしてジョングクの最新ソロ曲「My You」などでもギターを弾いている。

 また今年の4月、第64回グラミー賞で披露した「Butter」のアレンジ・バージョンでも彼がギター・ソロを演奏。

 ギターはリアにハムバッカーが搭載されたSuhrのCustom Classic Antiqueや、カスタムショップ製63年リイシュー・ストラトキャスター、同じくカスタムショップ製57年リイシュー・ストラトキャスター、PRSのModern Eagle Quatroなど、モダンなモデルを中心に愛用。やはり限られた時間の中、様々な音色が求められるセッション現場において、SuhrやPRSといったギターは大きな助けになってくれるのだろう。アコースティック・ギターはマーティンD-45などを使用しているようだ。

2022年4月、第64回グラミー賞にて。
左からV(ヴィ)、SUGA(シュガ)、JIN(ジン)、JUNG KOOK(ジョングク)、RM(アールエム)、JIMIN(ジミン)、J-HOPE(ジェイホープ)。

Ghost Bandに参加した
シュン&チョン・スワン

 BTSはGhost Bandと呼ばれるギター、ベース、ドラム、キーボードという4人編成のバック・バンドと共にパフォーマンスを披露することもある。「Dynamite」からBTSを知ったリスナーの多くは、2020年9月に公開された『Tiny Desk(Home)Concert』で初めてBTSのバンド・セットでの歌唱パフォーマンスを目にしたのではないだろうか。

 そして、『Tiny Desk(Home)Concert』と2021年2月の『MTV Unplugged Presents:BTS』で、ジョン・メイヤーのようなブルース&ファンク・フィール溢れるギターを演奏していた人物に注目したことだろう。

 彼はシュン(Shyun Kim)という韓国人のギタリストだ。『Tiny Desk(Home)Concert』ではラージ・ヘッドのストラトキャスターと、レースセンサー・ピックアップが搭載された赤いストラトキャスターを使用。アンプはMilkman SoundのヘッドとUniversal Audio製OX Amp Top Boxを組み合わせ、ラインで出力していた。

 ボードにはRyra製The Klon、Electro-Harmonix製Q-Tron Plus、strymon製MobiusとTIMELINE、DigiTech製Supernatural Ambient Reverbなどハイエンドなペダルが並んでおり、クリアなサウンドを創出。BTSのレコーディングでは、『WINGS』(2016年)に収録されているジミンのソロ曲「Lie」に参加した。

 そしてGhost Bandにはもう1人、チョン・スワン(Chung Soowan)というギタリストがいる。彼は19歳からセッションマンとしての活動をスタートさせ、これまでに6,000曲以上のレコーディングに参加。

 父親の影響で幼少期からクラシックやポップ・ミュージックを聴くようになり、11歳でギターを始め、中学〜高校ではLAメタルやブリット・ポップも吸収してバンド活動に励み、大学ではジャズを専攻したという。

 そんなチョン・スワンは、Ghost Bandのメンバーとして“2016 BTS LIVE <花様年華 on stage:epilogue> ~Japan Edition~”で来日も果たしているほか、2019年4月「Boy With Luv」を演奏した『Saturday Night Live』や、2021年9月『BBC Radio 1 Live Lounge』でのパフォーマンスなどに登場。

 『Saturday Night Live』ではフロントにハムバッカーが搭載された白いテレキャスター、マーシャルJCM2000、Ibanez製TS9とPaul Cochrane製Tim Overdriveと思われるペダルを使用して、乾いたカッティングを披露していた。『BBC Radio 1 Live Lounge』ではメイン・ギターにSuhrのClassic Antiqueを使用。

 ポリスの「Every Breath You Take」(1983年)をサンプリングしたパフ・ダディ&フェイス・エヴァンスのカバー曲「I’ll Be Missing You」(1997年)では、コーラスやディレイを効かせてアンディ・サマーズの“あのリフ”を幻想的に響かせたと思えば、泣きのロング・トーンでメロディを歌わせる場面も。

 ちなみに、レコーディングではKemperやFractal Audio SystemsのAxe-Fxといったデジタル機器を使用するほか、オリンピック・ホワイトの64年製ストラトキャスターと58年製Harvart Ampを特に気に入っている様子。BTSのレコーディングでは「Blood Sweat & Tears」(2016年)と「Epilogue:Young Forever」(2016年)に参加している。

 このように、BTSのレコーディングやライブ・パフォーマンスは優れたギタリストたちによって成り立っている。ほかにも意外なところでは、『MAP OF THE SOUL:7』収録の「Dionysus」でフィルX(ボン・ジョヴィ)がギタリスト&レコーディング・エンジニアとして参加していたり、『WINGS』収録の「Am I Wrong」ではブルース・ギタリストのケブ・モの同名曲「Am I Wrong」(1994年)をサンプリングしているなど、ギター的なトピックも多いのだ。

 もちろん今回ご紹介したセッション・ギタリストたちはBTSだけではなく、ほかのアイドル・グループやドラマのOSTなど、様々なレコーディングに参加している。これまでK-POPに興味がなかったロック一辺倒な読者の方も、これを機に韓国の楽曲に触れてみてほしい。

ギター・マガジン2022年8月号
スタジオ・ギタリストの仕事

本記事はギター・マガジン2022年8月号にも掲載されています。特集『スタジオ・ギタリストの仕事』では、レジェンドのスタジオ・ワークや、国内注目若手のインタビューなどをとおして、ポップス・シーンに欠かすことのできない職人たちの名仕事に迫ります!