現代の音楽シーンにおける最重要ギタリストの1人、クルアンビンのマーク・スピアーが、世界中の“此処ではない何処か”を表現した快楽音楽を毎回1枚ずつ紹介していく連載。
今回のアルバムは、スカタライツ・ミート・キング・タビーの『ヒーローズ・オブ・レゲエ・イン・ダブ』。
文=マーク・スピアー、七年書店(アルバム解説) 翻訳=トミー・モリー 写真=鬼澤礼門 デザイン=MdN
*この記事はギター・マガジン2021年6月号より転載したものです。
スカタライツ・ミート・キング・タビー
『ヒーローズ・オブ・レゲエ・イン・ダブ』/1999年(録音は1975年)
SKAとDUBの発明者同士が極上の融合を果たした名盤
スカのオリジネーターとして知られるザ・スカタライツの音源を、ダブの発明者であり伝説のエンジニアであるキング・タビーがミックスしたインスト作。75年録音だが、99年の発表までお蔵入りとなっていた。アーネスト・ラングリン(g)、アール・チナ・スミス(g)など、プレイヤーも豪華メンツが揃う。レア・グルーヴ・クラシックの「Herb Man Dub」も収録した文句なしの大名盤だ。
“音楽に徹する”という美学を教えてくれたアルバムだね。
僕は90年代の前半から中盤にかけて、スカ・バンドでギターを弾いていた。といってもオールドスクールなものではなく、当時流行っていた「アメリカンなパンク・サウンドとスカのハイブリッド」みたいなヤツだったね。いわば第3世代のサウンドを鳴らしていたよ。
それである時、友人がスカタライツの60年代の録音を聴かせてくれたんだ。スカタライツといえば無論、スカを語る上で最も重要なバンドなのはご存知の通りだろう? にもかかわらず、当時の僕は彼らを聴いたことがなかった。で、いざ曲を再生したら驚いたよ。自分たちがやっているのとまるっきり違うんだもんな(笑)。スカではあるけれど、90年代当時にメインストリームだったスカよりも原始的だったね。つまり、様々な要素が削ぎ落とされていたんだ。「ちっともスカじゃないじゃん! ダブっぽさも足りないしさ!」って感じで、失望したところもあった。まぁ、90年代のあの頃の自分には時期尚早だったんだろうね(笑)。
ギター・プレイも、初めて聴いた時は「なんだかぼんやりしているなぁ」と思っていた。たしか、高い音程のメロディックなギターのほとんどはアーネスト・ラングリンがプレイしているはずだ。今でこそ名人として彼をリスペクトしているけど、当時は「なんだかハッキリしないギターだな」とちょっと残念に感じていたよ。……でもある日、気づいたんだ。「それがかえってアルバム全体に馴染むサウンドになっている」ってことに。そして、それが音楽を作る上でいかに重要かがわかってきたよ。僕がこのアルバムをいたく気に入っている真の理由はそこにある。しっかり耳を澄ますと、ほかの楽器も実に素晴らしい演奏をしているんだよね。「楽器のプレイを聴かせるため」ではなく、純粋に音楽もしくは曲を魅力的にさせる演奏なんだ。「徹する美学」を教えてくれたアルバムとして、僕は今でもよくこの作品を聴いている。
こういう「楽曲に徹した演奏」というのは、僕に直接的なインスピレーションを与えてくれる。例えば、「あぁ、この要素をギターに置き換え、僕の音楽でプレイしてみればいいんじゃないかな?」という風にね。フルートを始めとしたホーン・セクション、鍵盤パート……特にこのアルバムからは素晴らしいアイディアをたくさん得ているよ。このやり方は僕の音楽作りの根幹をなすもので、だから僕は色んな音楽を聴き、影響を受けているんだ。
マーク・スピアー(Mark Speer) プロフィール
テキサス州ヒューストン出身のトリオ、クルアンビンのギタリスト。タイ音楽を始めとする数多のワールド・ミュージックとアメリカ的なソウル/ファンクの要素に現代のヒップホップ的解釈を混ぜ、ドラム、ベース、ギターの最小単位で独自のサウンドを作り上げる。得意技はペンタトニックを中心にしたエスニックなリード・ギターやルーズなカッティングなど。愛器はフェンダー・ストラトキャスター。好きな邦楽は寺内タケシ。