『IN NEUTRAL』
田中ヤコブ
人間の暗い面の自覚と肯定
“ヤコブ・アンサンブル”の妙技
まず、この曇天のジャケ写が良い。ヤコブが出す音は、この曇り空の陰翳に核があるように思える。
2年ぶりのソロ作。“ギター・プレイは基本的に大喜利みたいなもの”と言い、自身のバンド家主では、エンターテイナーとして時にタッピングも交えたロック全開なソロも披露するヤコブだが、今作のようなソロ作品になると、彼の中のギター・キッズは楽屋裏に引っ込んでしまう(それでも⑧のソロには心躍るが)。
己の暗い面の自覚がただあり、そこから出発しているのがヤコブである。しかし、この曇天の絵に緑生い茂る木々があるように、アンサンブルに彩りを与え、暗さを柔らかく肯定するのもヤコブである。オールド・テイストなアコギやスライドのプレイといい、歌への寄り添い方が実に良い。
年を重ねてなお、自らの暗い面と付き合い続け、肯定を行なう者は稀である。多くは“人生、こんなもんでしょ”のニヒリストに堕ちるからだ。彼のこれから出す音が気になる。
(辻昌志)
【参加クレジット】
田中ヤコブ(all)、服部将典(cello, vln)、Shun Yanasahima(k)
【曲目】
①sadness fanclub
②夢からさめて
③今は今を生きるとき
④陰翳礼讃
⑤外は春の雨が降って
⑥心の焚き火
⑦SIP
⑧サイクルズ
⑨リタイヤ
⑩みょんパン
⑪きかい
⑫Graduate?
⑬遠乗り
ギター・マガジン2023年1月号
『特集:ビートルズ『Revolver』』
2023年12月13日(火)発売