エリック・クラプトンを始め、様々なビッグ・ネームが注目する次世代のギター・ヒーロー、マーカス・キング。今回は彼の基本的な情報をお届けしよう。
文=福崎敬太 Photo by Roberto Finizio/NurPhoto via Getty Images
19歳の時に“マーカス・キング・バンド”名義で発表したデビュー作、『Soul Insight』でいきなり注目を集め、続く作品からファンタジー・レコードと契約。そこで生み出したセルフ・タイトル作品では、サザン・ロックのレジェンド=ウォーレン・ヘインズがプロデューサーを務め、さらにゲストとしてデレク・トラックスが参加。また、2019年にはエリック・クラプトンが主催する“クロスロード・ギター・フェスティヴァル”に出演を果たし、翌2020年に発表したソロ名義のアルバム『エル・ドラド』は、グラミー賞のアメリカーナ・アルバム部門にノミネートされた。
数々のレジェンド・ギタリストたちがお墨つきを与え、瞬く間に世界が注目する存在になったマーカス・キング。この若き才能はどのようにして生まれ育ったのか。その来歴を見ていこう。
祖父の代から引き継がれる、ギブソンES-345
マーカスは1996年3月11日、サウス・カロライナ州グリーンヴィルで生まれた。祖父、父はともにミュージシャンで、マーカスが音楽に興味を持つのは必然であった。
祖父はカントリー・バンドでバック・オーウェンやマール・ハガードなどを演奏していたほか、ベンチャーズやチャック・ベリーもよくプレイしていたそうだ。また祖父も曽祖父もバイオリン弾きで、曽祖母はアコースティック・ギターを弾いていたという。
ミュージシャンから兵役に入った祖父は、退役後また音楽を始める際にギブソンのES-345を購入した。このギターは祖父、父、そしてマーカスへと受け継がれ、ギブソンからはそれをベースにしたモデル、Marcus King 1962 ES-345 With Sideways Vibrolaが発売された。そのプロトタイプは、マーカスの現在のメイン器として活躍している。
父のマーヴィンは、マーヴィン・キング&ザ・ブルース・リバイバル・バンドなどで活動したほか、おもに地元ライブハウスでブルースを軸足に活躍。ゴスペルなども演奏していた。マーカス・キングのメイン・アンプは彼のシグネチャー・モデルであるオレンジのMK Ultraだが、父もオレンジ・アンプの愛用者であった。オレンジの公式YouTubeでは、2人のトーク・セッションが公開されている。
このように彼の音楽人生において、家族の存在はとてつもなく大きい。マーカスが家にあった父のギターを弾き始めたのが3〜4歳の頃で、8歳の時には父親のライブに出演するようになっていた。さらに11歳の時に、父のアルバムでレコーディングを経験する。
また、父のプレイにはもちろん、彼のレコード・コレクションからも大きく影響を受けていった。重要なところで言うと、B.B.キングやアルバート・キングなどのブルース、オールマン・ブラザーズ・バンドやレーナード・スキナードといったサザン・ロック。そして自身のバンドを結成すると、友人らと“ソウル・インフルエンス・サイケデリック・サザン・ロック”という表現スタイルを模索するようになっていく。
さらに高校でも音楽を学ぶために、サウス・カロライナのファイン・アーツ・センターに入学。そこでは、ジャズ・ギタリストのスティーヴ・ワトソンから音楽理論やジャズ的なアプローチを学んだ。当時のことについて、マーカスはこうふり返る。
俺はファイン・アーツ・センターで音楽理論をしっかりと学んだ。スティーヴは昔からグレイトな指導者だったよ。彼は今も現役であの場所で教えているはずで、人間としての美しさも持っている。あそこで過ごした年月をありがたく思っているね。
──マーカス・キング
こうして様々なスタイルを吸収したマーカスは、さらに自身の個性を磨くため、ボーカリストやペダル・スティール・プレイヤー、サックス奏者のアプローチをギターでコピーした。中でも“ジョン・コルトレーンとの出会いが大きなターニング・ポイントになった”とマーカスは述懐している。
ソロ名義の1st作がいきなりグラミー賞ノミネート!
高校を辞めると、自身のバンド=マーカス・キング・バンドを結成。前述のとおり、2015年に19歳にして1stアルバムをインディー・レーベルからリリースした。それにともなうツアーなども好評を博し、ファンタジー・レコードと契約を果たす。
2016年にリリースしたセルフ・タイトル作は、米ビルボード・ブルース・チャートで2位を獲得する。さらにフジロック・フェスティヴァル2017で初来日、2018年に『カロライナ・コンフェッションズ』をリリースし、翌2019年に再来日。同年にはエリック・クラプトン主催の“クロスロード・ギター・フェスティヴァル”の出演者として抜擢され、世界的ギタリストの仲間入りを果たした。
そして2020年に満を辞して“マーカス・キング”名義での1stアルバム『エル・ドラド』をリリース。
ブラックキーズのダン・オーバック(vo,g)がプロデュースを務め、ダンのレーベルである“イージー・アイ・サウンド”で制作された。ほとんどすべての楽曲をマーカスとダンが共同で作曲した本作は、グラミー賞アメリカーナ・アルバム部門にノミネート。惜しくも受賞とはならなかったが、多くの音楽ファンにその存在感を印象づけた。
続く2nd作『ヤング・ブラッド』(2022年)もダン・オーバックとのタッグは健在。
前作の流れをより強力にブラッシュアップした内容で、サザン・ロックを軸足に置きつつも、ブルースやカントリー、ジャズ、サイケデリック・ロックなど様々な要素を内包した、自由でパワフルなプレイが聴ける。
自身の作品以外では、ザック・ブラウンやGラヴ、コモンなどの作品にもゲストで参加。カントリー、ブルース、ヒップホップなどあらゆるジャンルの人気アーティストとの共演で、サザン・ロック・ファン以外にまで認知を広げている。
また、私生活ではインフルエンサーのブライリー・ハッセイと2023年に結婚。マーカスも結婚式の様子をSNSで公開するなど、そのアツアツっぷりが話題を呼び、本国アメリカでもニュースとなった。
公私ともにまさに順風満帆、絶好調のマーカス・キング。骨太なロック・ギターを現代の音楽シーンでかき鳴らす彼に、我々は大きく期待してならない。
作品データ
『Young Blood』
マーカス・キング
Easy Eye Sound/輸入盤/2022年8月26日リリース
―Track List―
- It’s Too Late
- Lie Lie Lie
- Rescue Me
- Pain
- Good and Gone
- Blood on the Tracks 7
- Hard Working Man
- Aim High
- Dark Cloud
- Whisper
- Blues Worse Than I Ever Had
―Guitarists―
マーカス・キング、アンドリュー・ガバード、ダン・オーバック