スーサイド『スーサイド』/マーク・スピアーの此処ではない何処かへ|第20回 スーサイド『スーサイド』/マーク・スピアーの此処ではない何処かへ|第20回

スーサイド『スーサイド』/マーク・スピアーの此処ではない何処かへ|第20回

現代の音楽シーンにおける最重要ギタリストの1人、クルアンビンのマーク・スピアーが、世界中の“此処ではない何処か”を表現した快楽音楽を毎回1枚ずつ紹介していく連載。

今回紹介してくれるのは、1970年にニューヨークで結成されたユニット=スーサイドのデビュー・アルバム、『スーサイド』。ギターは使われていないが、ゲート・ファズのようにも聴こえる歪んだシンセサイザーと、極限まで無駄を削ぎ落としたドラム・マシンのサウンドが前面に押し出された、なんともクールな1枚。

文=マーク・スピアー、ギター・マガジン編集部(アルバム解説) 翻訳=トミー・モリー 写真=鬼澤礼門 デザイン=MdN
*この記事はギター・マガジン2022年12月号より転載したものです。

スーサイド
『スーサイド』/1977年

シンセとドラム・マシンのみで
演出する無二のパンク・サウンド

アラン・ベガ(vo)とマーティン・レヴ(k,drum machine)による伝説的パンク〜ニューウェイブ・ユニットのデビュー・アルバムにして、パンク史を語るうえでは欠かせない名作。ギターは使われておらず、ボーカルとシンセサイザー、ドラム・マシンという最小のサウンドで作られている。歪みまくったシンセサイザーのサウンドがギター的でパンキッシュ。

ロカビリーやパンクの“スピリット”だけ残したサウンドに惹かれるよ。

 パンクを語る際に必ず名前が上がってくるユニットだね。音楽のスタイルとしては、当時流行していたパンク・ロックとはかなり違うけれども、やはりこれはパンクと呼んで差し支えないだろう。アティチュードがそもそもパンクだからさ。

 僕が惹かれたのは、このアルバムが持つ独特の雰囲気だ。ドラム・マシンやシンセを使ったかなり風変わりな音作りなんだけど、サウンドはかなりクールでね。しゃくり上げるようなボーカル・スタイルと上手い具合に噛み合っている。リバーブが深くかかっていて、その感じはキング・タビーの体現したダブと同じような精神性をも感じさせるよ。とてもディープなムードを持っているよね。

 それで、実はこのアルバムにはギターがまったく入ってないんだ。シンセとドラム・マシンのみのシンプルなサウンドなんだけど、鍵盤がまるでギターのようにプレイされている。パッと聴きではギター・サウンドと間違える人もいるはずだよ。

 で、これは多くの人に反対されるかもしれないけど、このアルバムって僕はロカビリー・アルバムだと思っているんだ。そう、表現するなら“エレクトロニック・ロカビリー・アルバム”と言うべきだね。ロカビリー固有の“フン、フン♪”ってしゃくり上げるボーカルもそうだし、それをサポートするサウンドも含めて、かなり的確な表現だと思っている。

 特に1曲目の「Ghost Rider」の歌い出しのところなんて、実際の楽器で演奏したらロカビリーそのものになるだろう。それがあくまで“シンセとドラム・マシン”という編成だからこそ、フレーバーの異なった独自のサウンドになっている。それでも、ロカビリーやパンク的な“スピリット”は変わらず存在しているんだ。それが、このアルバムの偉大なところだね。

マーク・スピアー(Mark Speer) プロフィール

マーク・スピアー(Mark Speer) 

テキサス州ヒューストン出身のトリオ、クルアンビンのギタリスト。タイ音楽を始めとする数多のワールド・ミュージックとアメリカ的なソウル/ファンクの要素に現代のヒップホップ的解釈を混ぜ、ドラム、ベース、ギターの最小単位で独自のサウンドを作り上げる。得意技はペンタトニックを中心にしたエスニックなリード・ギターやルーズなカッティングなど。愛器はフェンダー・ストラトキャスター。好きな邦楽は寺内タケシ。