シーネイ『ホンキー・ポンキー』/マーク・スピアーの此処ではない何処かへ|第23回 シーネイ『ホンキー・ポンキー』/マーク・スピアーの此処ではない何処かへ|第23回

シーネイ『ホンキー・ポンキー』/マーク・スピアーの此処ではない何処かへ|第23回

現代の音楽シーンにおける最重要ギタリストの1人、クルアンビンのマーク・スピアーが、世界中の“此処ではない何処か”を表現した快楽音楽を毎回1枚ずつ紹介していく連載。

今回の1枚は、トルコの女性シンガー=シーネイが1981年にリリースした『ホンキー・ポンキー』。マークが“トルコ版ディスコ・ファンク”と評する、ファンキーでグルーヴィな音像が楽しい1枚だ。

文=マーク・スピアー、ギター・マガジン編集部(アルバム解説) 翻訳=トミー・モリー 写真=鬼澤礼門 デザイン=MdN
*この記事はギター・マガジン2023年3月号より転載したものです。

シーネイ
『ホンキー・ポンキー』/1981年

ビザールなサイケ感も持つ
トルコのディスコ作品!

トルコの女性シンガーによるディスコ・アルバム。華やかなストリングス+グルーヴィーなサウンドに覆われ、きらきらとしたディスコのムードたっぷり。サイケ気味なギター・ソロもちらほら聴け、ビザールなサイケ・ファンク的な魅力も持つ。表題曲「Honki Ponki」は日本でもシングル・リリースされており、その時の煽り文句は“トルコにも竹の子族がいた!”

サイケでヘヴィなディスコ・ファンク。独特のムードが最高だ。

 これは、簡単に言えばトルコ版ディスコ・ファンクだね。僕はアメリカ以外の国に散らばるファンキーなディスコやブギーを探し求める旅を常にしていて、その中で見つけたものだ。

 トルコという国は、実はファンキー・ミュージックを探すうえでは相当なホット・スポットとなっているんだ。ちょっとサイケな感じも混ざってきて、独特のムードが最高だよ。トルコ音楽のトラディショナルな部分を継承しつつ、60年代後半みたいなサイケデリック・ロックのテイストが急に出てきたりもするんだ。バルシュ・マンチョ(トルコの歌手)みたいな要素もあるね。

 このアルバムの参加ミュージシャンはサイケデリック・ロックなアルバムにも実は参加していて、中にはヘヴィ・ロックをプレイする人たちもいるのが面白い。演奏がとても強靭な感じなんだ。

 あと、このアルバムにはロッド・スチュワートの「Da Ya Think I’m Sexy?」の最高なカバー・バージョンが収録されている(曲名は「Kent YaŞami」)。ただ歌詞に関してはそういった過激な内容は禁止されているお国柄だから、彼女なりの解釈で書き換えているだろうけどね。

 欧米圏ではない人たちによる欧米の曲のカバーを聴くのは僕の小さな楽しみでもあって、このアルバムでのカバーはその素晴らしい例だね。ロッド・スチュワートはメロディをジョルジ・ベンジョールの「Taj Mahal」からいただいてあの曲を書いたらしいのだけど、まぁそれは余談だ。とにかくトルコという国の雰囲気が混ざった、独特な魅力を持つサウンドに仕上がっているよ。

マーク・スピアー(Mark Speer) プロフィール

マーク・スピアー(Mark Speer) 

テキサス州ヒューストン出身のトリオ、クルアンビンのギタリスト。タイ音楽を始めとする数多のワールド・ミュージックとアメリカ的なソウル/ファンクの要素に現代のヒップホップ的解釈を混ぜ、ドラム、ベース、ギターの最小単位で独自のサウンドを作り上げる。得意技はペンタトニックを中心にしたエスニックなリード・ギターやルーズなカッティングなど。愛器はフェンダー・ストラトキャスター。好きな邦楽は寺内タケシ。