現代の音楽シーンにおける最重要ギタリストの1人、クルアンビンのマーク・スピアーが、世界中の“此処ではない何処か”を表現した快楽音楽を毎回1枚ずつ紹介していく連載。
今回の1枚は、初期ダンスホール・レゲエ・シーンで活躍したシンガーソングライター、バーリントン・レヴィの『ロビン・フッド』。ギターにはアール・チナ・スミスが参加。
文=マーク・スピアー、ギター・マガジン編集部(アルバム解説) 翻訳=トミー・モリー 写真=鬼澤礼門 デザイン=MdN
*この記事はギター・マガジン2023年8月号より転載したものです。
バーリントン・レヴィ
『ロビン・フッド』/1980年
初期ダンスホール・レゲエの
礎を築いたシンガーの良作
70年代後半の初期ダンスホール・レゲエ・シーンで輝きを放った若きシンガーのアルバム(この時弱冠16歳)。同シーンの特徴であるダンサブルなサウンドメイクによって実にグルーヴィに仕上がっているが、いわゆるルーツ・レゲエ的な素朴さも兼ね備える。ギターはアール・チナ・スミスが参加しており、煙たいリード・プレイを時折聴かせる。
ハードなリズムとスウィートな歌のコントラスト。無人島で聴きたいね。
8月ということで、今回は僕が好きなレゲエ・ミュージックでも紹介してみようか。
これはバーリントン・レヴィというシンガーの作品で、その美しい歌声から“メロウ・カナリア”なんて呼ばれている人だよ。70年代後半に“ダンスホール・レゲエ”というスタイルがジャマイカで生まれたんだが、そのシーンのごく初期にあたる作品がこのアルバムだ。
ダンスホール・レゲエというのは、簡単に言うと打ち込みなどを多用したクラブ・シーン寄りの音楽で、いわゆるルーツ・レゲエよりもテンポが速いのが特徴と言えるだろうね。
それでこのアルバムは、ジャマイカではわりと知られた“サイエンティスト”というダブのエンジニアによってミックスされている。彼の手腕によって、アルバムのリズムがかなりハードにキマっているよ。そのハード目なサウンドとコントラストをなすように、バーリントン・レヴィは実に美しく歌い切っているんだ。
彼はレゲエ音楽シーンを見渡しても特に特徴的な声を持った人でね。このアルバムでは実にスウィートかつイノセントに歌っていて、そこがたまらなく好きなんだ。歌っている歌詞の内容にもマッチしているしね。
ちなみにギター的には、オーソドックスな裏打ちのバッキングがメインで、たまにリード・ギターが入るぐらいだけど、カリッとした音作りが面白いね。まぁでも、聴きどころはギターじゃなくて、あくまでリズムと彼の歌に素晴らしさがあるよ。無人島に持って行きたいアルバムの1枚かな。
マーク・スピアー(Mark Speer) プロフィール
テキサス州ヒューストン出身のトリオ、クルアンビンのギタリスト。タイ音楽を始めとする数多のワールド・ミュージックとアメリカ的なソウル/ファンクの要素に現代のヒップホップ的解釈を混ぜ、ドラム、ベース、ギターの最小単位で独自のサウンドを作り上げる。得意技はペンタトニックを中心にしたエスニックなリード・ギターやルーズなカッティングなど。愛器はフェンダー・ストラトキャスター。好きな邦楽は寺内タケシ。